
ボサノヴァの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンの娘として知られながらも、一人のソングライターとして独自の表現を追求し続けてきたマリア・ルイーザ・ジョビン。彼女が3作目となるソロアルバム『Rosa no Céu』をリリースした。
リスボンとリオデジャネイロ、二つの都市を結ぶ“ピンク色の空”をモチーフに生まれた本作は、MPBやボサノヴァの豊かな伝統に、ドリームポップや現代的なポップセンスを織り交ぜた、軽やかで詩情あふれる作品となっている。
リスボンの夕暮れから生まれた“ピンク色の空”
アルバムタイトルにもなった「Rosa no Céu」は、マリア・ルイーザが現在暮らすポルトガル・リスボンで見た淡いピンク色の夕空から着想を得た楽曲だ。
やがて彼女は、その幻想的な光景を故郷リオデジャネイロでも目にすることになる。遠く離れた二つの街を結ぶ同じ色彩は、やがてアルバム全体を貫くテーマへと発展していった。
本作には、日常のなかでふと訪れる感情の揺らぎや、旅先で出会う風景、記憶の残像が静かに息づいている。
ロス・エルマノスのマルセロ・カメロとの共創
アルバム制作には、ブラジルを代表するロック/MPBバンド、Los Hermanosの中心人物として知られるマルセロ・カメロがプロデューサーとして参加。
アレンジやソングライティングにも深く関わり、マリア・ルイーザの繊細なメロディと内省的な歌詞を、より豊かなサウンドスケープへと導いている。
共作曲「Boca a Boca」「Sinais」では、両者の感性が自然に溶け合い、現代ブラジル音楽の洗練された魅力を感じさせる。
東京で見つけた恋を歌う「Portugal」
アルバムのなかでも特に印象的なのが、英語詞で綴られた「Portugal」だ。
“I found a love in Tokyo”という印象的な一節から始まるこの楽曲は、東京での出会いをきっかけに生まれたという。旅先で芽生えた恋心、その記憶を音楽として留めておきたいという衝動が、淡く美しいメロディに乗せて描かれている。
遠い都市の記憶を優しく包み込むその響きは、本作を象徴する一曲と言えるだろう。
父の遺産を継ぎながら、自らの声を見つける
幼少期には父トム・ジョビン最後のアルバム『Antônio Brasileiro』に参加し、自身の名を冠した楽曲で歌声を披露したマリア・ルイーザ。その後、エレクトロ・ポップ・ユニットOpalaでの活動を経て、ソロアーティストとして歩みを重ねてきた。
2019年の『Casa Branca』、2023年の『Azul』を経て辿り着いた『Rosa no Céu』は、彼女が“ジョビン家の継承者”という肩書きを超え、自身の音楽的アイデンティティをさらに深化させた作品でもある。
現代MPBが見つめる、新しい空の色
恋愛、記憶、旅、そして日々のささやかな感情。
マリア・ルイーザ・ジョビンは、それらを大げさに語ることなく、柔らかなストリングスと浮遊感のあるサウンドで丁寧に描き出していく。
軽やかでありながら深く、親密でありながら普遍的。『Rosa no Céu』は、ブラジル音楽が受け継いできた豊かな詩情と現代的な感覚が美しく出会う、2026年を代表するMPB作品のひとつとなりそうだ。

Maria Luiza Jobim(マリア・ルイーザ・ジョビン)
ニュー・アルバム『Rosa no Céu』配信中
レーベル:Das Duas
配信リンク:https://orcd.co/rosa-no-ceu
■Follow Maria Luiza Jobim:
Instagram: https://www.instagram.com/marialuizajobim/
