
André 3000『New Blue Sun』の主要コラボレーターとして、その幻想的なサウンドの構築に大きく貢献したLAのマルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサー、Nate Mercereau。現代ロサンゼルスの実験音楽シーンを代表する音楽家のひとりである彼が、2026年9月11日にLeaving Recordsからリリースするニュー・アルバム『Fantastic Thoughts』より、新曲「Accelerator」を公開した。
同時に発表されたのは、MercereauとドラマーDeantoni Parksによる演奏を捉えたライヴ・ミュージック・ビデオ。監督を世界的な映像作家/写真家Jacob Suttonが務め、楽曲が持つ爆発的なエネルギーを鮮烈な映像へと変換している。
「音楽は、可能な現実を加速させるもの」
「Accelerator」というタイトルには、Nate Mercereauの音楽観そのものが込められている。
彼は音楽を“Possible Reality Accelerator=可能な現実を加速させるもの”と表現する。言葉では到達できないアイデアや感情へ潜り込み、時間や場所さえ飛び越えてしまうもの。音楽とは既存の世界を説明するためではなく、「まだ存在していないかもしれない世界」へ向かうための装置なのだ。
そんな思想をそのまま音にしたような「Accelerator」は、Mercereauによるギター・シンセサイザー、MIDIギター・サンプラー、プログラミング、キーボード・シンセサイザーと、Deantoni Parksによるドラムから構成される。
プログレッシヴ・ロック、ジャズ・フュージョン、電子音楽。それぞれの境界線は目まぐるしく溶け、リズムも音色も次々と姿を変えていく。技巧的でありながら、決して技巧を見せるためだけの音楽ではない。むしろ演奏することそのものの喜びが爆発したような、身体的で奔放な一曲だ。
湖畔で捉えられた、MercereauとDeantoni Parksの“生の瞬間”
公開された「Accelerator」のライヴ映像も、この楽曲の魅力をさらに際立たせている。
撮影場所はカリフォルニア州クレストラインの湖畔。監督をJacob Sutton、撮影をRoderick Philipp、音源レコーディングをKen Barrientosが担当し、MercereauとParksが生み出す演奏のダイナミズムを捉えた。
スタジオで精密に組み立てられた作品を再現するというより、ふたりの演奏がその瞬間にどこへ向かうのかを追いかけるような映像だ。プログラミングと即興、電子音と肉体的なドラム、緻密さと偶発性。そのせめぎ合いこそが、Mercereauの音楽を特別なものにしている。
André 3000からJAY-Zまで ── ポップと実験音楽を横断してきた異才
Nate Mercereauのキャリアは、一言では説明しにくい。
Los Angelesを拠点に活動する彼は、マルチ・インストゥルメンタリスト、作曲家、ソングライター、プロデューサーとして、JAY-Z、Lizzo、The Weeknd、Shawn Mendes、Sade、John Legend、P!nk、A$AP Rocky、Leon Bridgesら数多くのアーティストの作品に参加。かつてはSheila E.のバンド・メンバーとして世界各地をツアーしていた経歴も持つ。
Shawn Mendes「Lost in Japan」の共作、Leon Bridges『Good Thing』のプロデュース、Jon Batiste『We Are』への参加など、ポップ・ミュージックの中心部で仕事を重ねてきた一方、その活動は徐々により自由で実験的な領域へと広がっていった。
近年、その存在を改めて強烈に印象づけたのがAndré 3000『New Blue Sun』だ。Carlos NiñoやSurya Botofasinaらとともに主要コラボレーターとして参加し、即興と幻想性が入り混じる同作の世界を形成。現在のLAに広がる、ジャズ、アンビエント、スピリチュアル・ミュージック、電子音楽、即興演奏が混ざり合ったシーンを象徴する存在となっている。
Yes、King Crimson、Squarepusher、Brian Eno ── すべてを「今」に接続する
9月に届けられる『Fantastic Thoughts』は、そんなMercereauの探究が一気に噴き出した作品だ。
彼自身が影響源として挙げる名前を見るだけでも、その音楽的宇宙の広大さがわかる。YesとJon Anderson、The Mahavishnu OrchestraとJohn McLaughlin、Jimi Hendrix、Carlos Santana、Robert FrippとKing Crimson、Jon Hassell、Squarepusher、Steve Vai、Lightning Bolt、Pat Metheny GroupとLyle Mays、Stravinsky、Frank Zappa、Jeff Beck、Brian Eno。
プログレッシヴ・ロック、フュージョン、サイケデリア、現代音楽、アンビエント、電子音楽……。だが『Fantastic Thoughts』は、それらの歴史を再現するレトロな作品ではない。
Mercereauは過去の音楽を引用するのではなく、そこから受け取った語彙をすべて現在へ投げ込み、新しい組み合わせを発生させる。その領域を、本人は「Now Zone of Infinite Freedom」と呼んでいる。
つまり、“無限に自由な現在”。
この言葉こそ、『Fantastic Thoughts』を理解する最も重要な鍵かもしれない。
ギターを「宇宙の中心」に据えた、マキシマルな音の奔流
アルバムではMercereau自身がアコースティック/エレクトリック・ギター、ギター・シンセサイザー、MIDIギター・サンプラー、マンドリン、ツィター、ドラム、ベース、キーボード、クラリネット、パーカッション、プログラミングなど、その大部分を演奏している。
なかでも本人が「宇宙の中心」と位置づけるのがギターだ。
鋭利なリードとして音楽を切り裂いたかと思えば、次の瞬間には液体のような電子音へ変形する。ロックにおける“ギターらしさ”から大胆にはみ出しながら、アルバムを縦横無尽に貫いていく。
さらにCarlos Niño、Deantoni Parks、Andres Renteria、Aaron Shaw、Aaron Steele、Justin Brownが参加。Mercereauによって緻密に設計された音響空間へ、即興演奏ならではの予測不能な身体性を注ぎ込んでいる。
アルバム冒頭「… There’s Something Here」のプログレッシヴなブレイクダウンから、囁くようなマントラで終わる「Resonant Angle, Seer Within」まで、その音楽はほとんど静止しない。急激な展開、複雑に折り重なるリズム、セルフ・サンプリング、電子音、即興演奏が連鎖し、ひとつのアイデアが次のアイデアを呼び覚ましていく。
「YES」と叫ぶための音楽
しかし『Fantastic Thoughts』の核心にあるのは、超絶技巧でも複雑な構成でもない。それは、想像することそのものへの肯定だ。恐れや自意識によって創造力を閉じ込めるのではなく、頭の中に浮かんだものを「Fantastic」な思考として受け入れること。まだ存在しない世界を想像し、それを音にしてしまうこと。マキシマルで、眩しく、異常なほど技巧的。それでいて、驚くほど無邪気で感情的。『Fantastic Thoughts』には、音楽を作る喜びそのものが剥き出しになっている。
その入り口として公開された「Accelerator」は、まさにアルバムの思想を象徴する一曲だ。音楽は現実から逃げるためにあるのではない。音楽によって、まだ見たことのない現実を作ることができる。Nate Mercereauが鳴らすのは、ジャンルの未来というよりも、想像力そのものの未来だ。『Fantastic Thoughts』というタイトル通り、ここではあらゆる思考が音になり、あらゆる音が次なる“可能な現実”へ向かって加速していく。
ニュー・アルバム『Fantastic Thoughts』は2026年9月11日、Leaving Recordsよりヴァイナル、カセット、デジタルでリリース。日本ではPLANCHAより、ボーナス・トラック「Going Further」を追加収録した日本限定CDが同日発売される。

Artist: Nate Mercereau
Title: Fantastic Thoughts
Label: PLANCHA / Leaving Records All Genre
Cat#: ARTPL-267
Format: CD / Digital
CD Release Date: 2026.09.11
Price(CD): 2,200 yen + tax
※日本独自CD化
※ボーナス・トラック1曲収録
※解説:原雅明
