ドラムンベースは「聴く」のではなく「通過する」 ── Justin Hawkes、12章をひとつの旅にした新作『Now Or Never』

アメリカのドラムンベース・シーンを代表する存在のひとり、Justin Hawkesが、セカンド・アルバム『Now Or Never』を2026年8月14日にDrumcaste Collectiveからリリースした。

全12曲。しかし、この作品を単なる「12曲入りのアルバム」と考えると、その本質を見失うかもしれない。テック志向のドラムンベースからフューチャー・ジャングル、ハーフタイム、モダンなジャンプアップ、そしてアンセミックな高揚まで。すべての楽曲が連続的にミックスされ、最初の一音から最後までひとつの物語として設計されている。

Hawkes自身が掲げる言葉は、“Experiential Drum & Bass”。つまり、曲をひとつずつ切り離して消費するのではなく、最初から最後まで「体験する」ためのドラムンベースだ。

12曲ではなく、12章。ひとつの時間を駆け抜けるアルバム

『Now Or Never』は、クラブで巨大な音圧を浴びながら身体で受け止めることもできれば、ヘッドフォンで細部へ潜り込むこともできる。その両極を成立させているのが、アルバム全体を貫く明確なナラティブだ。

前作『Existential』(2022年)が、人生に存在する悲劇と調和のコントラストを見つめた作品だったとすれば、今回はさらに根源的なテーマへ向かう。

「情熱が自分を呼んだとき、あなたはそれに応えるのか?」

抵抗、誘惑、発見、ダンス、癒やし、愛、そして自己実現。12曲それぞれが異なる“情熱のかたち”を担い、ひとつの人生から次の人生へと転生するかのように連なっていく。

だからこそ『Now Or Never』には、いわゆるシングル集的な感覚がほとんどない。12曲すべてを通過して初めて、その世界の全貌が浮かび上がる。

AI時代だからこそ、「すべて人間が作った」

本作を語るうえで、もうひとつ重要なのが制作方法だ。生成AIが音楽制作やヴィジュアル表現の現場へ急速に入り込んでいる現在、Hawkesは『Now Or Never』におけるオーディオ、テキスト、写真、映像といったクリエイティブを、意図的に“human-only”で制作したという。

楽曲はすべて自身で作曲・プロデュースし、多くの歌詞を書き、自ら歌唱。さらにChase Yaws、Sadler Milbrathとともにアルバムを取り巻くヴィジュアル世界まで構築した。

これはAIに対する単純な拒絶というより、作品のテーマそのものと結びついた選択なのだろう。自分を突き動かすものは何なのか。人間はなぜ愛を求め、探求し、発明し、集まり、踊るのか。そして「なぜ自分は存在するのか」。そうした問いを扱う作品だからこそ、その制作プロセス自体にも、人間の手と意思を残す必要があった。

Hawkesは本作について、意識とは「無限に複雑でありながら、無限につながった体験」だと語っている。そして、このアルバムを聴いた誰かがその中に自分自身の一部を発見し、人間の内側に共存する光と闇、その美しい二面性を受け入れるきっかけになってほしい、と願う。

ヴァージニアから世界へ ── アメリカンD&Bの異端児

Justin Hawkesのキャリアは、ドラムンベースの一般的な成功物語とは少し違う。そのスタート地点は、ジャンルの本場ロンドンではない。2011年、アメリカ南西ヴァージニアの丘陵地帯だった。

初期にはFlite名義で活動し、2020年からJustin Hawkesとして再始動。ヨーロッパを中心に発展してきたドラムンベースという文化の中で、アメリカ人プロデューサーとして独自のポジションを築いてきた。

彼の音楽には、壮大でメロディックな高揚と、機械的でハードなクラブ・サウンドが同居する。その振れ幅はSub Focus、Andy C、Wilkinson、RL Grime、Knife Party、Pendulum、Porter Robinson、Black Tiger Sex Machineらからの支持にもつながった。

そして、その越境性を決定的に示したのが、2022年のデビュー・アルバム『Existential』だ。なかでもカントリー・ロックの感触を大胆にドラムンベースへ持ち込んだ「Better Than Gold」は、ジャンルの境界線を無視する彼の姿勢を象徴する一曲となった。

現在までにカタログの総ストリーミング再生数は1億回を突破。14カ国以上を巡り、ロンドンのAlexandra Palaceをはじめ、Electric Daisy Carnival、ベルギーとブラジルのTomorrowlandなどにも出演。楽曲は『Rocket League』や『Fortnite』といったゲームにも使用され、その活動領域はクラブ・カルチャーの外側へと広がり続けている。

「アメリカのドラムンベース」とは何か

『Now Or Never』が興味深いのは、単にUK由来のドラムンベースを高い技術で再現した作品ではないことだ。フューチャー・ジャングル、ジャンプアップ、ハーフタイム、プログレッシブな展開、アンセミックなスケール感。それらをひとつの物語へ統合していく方法には、北米のベース・ミュージック文化を通過してきたHawkesならではの感覚がある。

ドラムンベースは、もはや英国だけの音楽ではない。各地域のクラブ文化、フェスティバル文化、ベース・ミュージック、ロック、ゲーム、インターネット以降のリスニング環境と交わりながら、世界各地で別々の進化を始めている。その中でHawkesは、北米のドラムンベースに「独自のクリエイティブ・アイデンティティ」を与えようとしているアーティストのひとりだ。

そして、その回答のひとつが“Experiential Drum & Bass”なのだろう。

情熱が呼んでいる。答えるなら、Now Or Never

『Now Or Never』というタイトルはシンプルだ。しかし、このアルバムを最後まで聴けば、その言葉が単なる「今しかない」という決まり文句ではないことがわかる。人生を動かす情熱はどこからやって来るのか。なぜ人は抗い、誰かを求め、新しい世界を発見しようとするのか。なぜ音楽を作り、なぜ集まり、なぜ踊るのか。そして、その衝動に気づいたとき、自分はどうするのか。

12曲をひとつながりの体験へ変えた『Now Or Never』は、ドラムンベースという高速の音楽を使いながら、奇妙なほど根源的な問いを投げかけてくる。これはただ踊るためのアルバムではない。暗闇と光のあいだを猛烈な速度で駆け抜けながら、「自分を動かしているものは何なのか」を探すための12章だ。答えるのは、今しかない。

Artist: Justin Hawkes
Title: Now Or Never
Label: Drumcaste Collective
Release date: August 14, 2026

More info on Justin Hawkes:Facebook | Instagram | Spotify

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