
USエレクトロニカを代表するプロデューサー、Jeff McIlwainことLusineが、8月21日にGhostly Internationalよりリリースする通算10作目のアルバム『Melting Days』から、セカンドシングル「Bird’s Eye」を公開した。
アンビエント、IDM、テクノの境界を静かに横断し続けてきたLusine。その最新曲は、時間の流れそのものを音へと変換したような、美しくも儚いサウンドスケープとなっている。
リズムが呼吸し、音響が風景を描く「Bird’s Eye」
「Bird’s Eye」は、意図的に抑えられたテンポのなかで、回転するベルの響きがゆっくりと輪郭を描いていく楽曲だ。柔らかなシンセ・パッドと繊細なアンビエント・テクスチャーが溶け合い、そこへLusineならではの緻密なリズムワークが静かに息づく。
クラブ・ミュージックの推進力を残しながらも、耳を澄ませるほど新たな景色が立ち現れる。リスナーを踊らせるというより、深く沈み込ませるような没入感が、この楽曲最大の魅力と言えるだろう。
『Melting Days』は”喪失”から生まれたサウンドトラック
アルバム『Melting Days』は、Lusine自身が「人生でもっとも困難で孤独な時期」に制作された作品だ。
テーマとなるのは、記憶、喪失、変化、そして再生。
従来のように一曲ずつ完成させるのではなく、一本の映画を編集するようにアルバム全体を構築。一般的なポップソングの起承転結よりも、感情そのものの流れを優先しながら、10曲を一つの物語として紡ぎ上げた。
McIlwainは制作について次のように語っている。
「今回はアイデアを妥協する必要がありませんでした。その意味で、以前より自由になれた気がします。」
その自由さは、アルバム全体を包む静かな開放感にも表れている。
原点『Language Barrier』へと続く、新たな到達点
『Melting Days』は、新しい方向へ舵を切った作品というよりも、Lusineの原点へ立ち返ったアルバムだ。
2007年に発表され、現在もアンビエントの名盤として語り継がれる『Language Barrier』。本作は、その精神性を現代へアップデートしたような一枚となっている。
Lusineが描くアンビエントは、単なる環境音楽ではない。
初期のAphex TwinやSeefeelを思わせるように、音は絶えず流動し、リズムは水面下で脈打ち続ける。静けさのなかにも確かな推進力があり、空間そのものを変化させていく力を秘めている。
人生そのものを素材にした、もっとも私的な作品
本作では、長年のコラボレーターであるTrent Moormanによるドラム・サンプリングも取り入れられ、アンビエント作品でありながらリズムの存在感は非常に大きい。
また、Susumu Yokotaによる名作『Sakura』や、USポストロック/アンビエント・デュオMountainsからの影響も随所に感じられる。
一方で作品を支える最大の素材は、人生そのものだった。
「Bird’s Eye」は過去と現在を俯瞰し、「Apparition」ではチェロのループを幾重にも加工することで偶然生まれた新しい音色を採用。「Pendulum」はストリングスやフルート、ノイズが壮大に重なり、「These Walls」は悲しみの奥底に眠る旋律を探し続ける。
抽象と削除を繰り返しながら、本当に残すべき感情だけを音へ変換する。その制作姿勢こそ、『Melting Days』という作品の核となっている。
静かな革新を続ける、電子音楽家Lusine
20年以上にわたり、Lusineはアンビエント、テクノ、IDM、実験音楽を横断しながら、常に”静かな進化”を続けてきた。
派手なトレンドを追うことなく、音の密度と余白、構築性と偶然性のあいだを往復しながら築き上げてきた独自の世界。その集大成ともいえる『Melting Days』は、キャリア10作目にして、もっとも本質的なLusineへと回帰した作品と言えるだろう。
「Bird’s Eye」が映し出すのは、喪失の先にある静かな光景だ。人生の欠落や変化を否定するのではなく、美しさへと昇華していく ── 『Melting Days』は、そんな時間の流れをそっと音に閉じ込めた、2026年を代表するアンビエント・アルバムの一つとなりそうだ。

Artist: Lusine
Title: Melting Days
Label: PLANCHA / Ghostly International
Cat#: ARTPL-266
Format: CD
※日本独自CD化
※解説付き予定
Release Date: 2026.08.21
Price(CD): 2,200 yen + tax
