
1963年、ジョン・コルトレーンはジョニー・ハートマンとともにスタジオに入り、後に「最も美しいジャズ・ヴォーカル・アルバム」とも呼ばれる一枚を残した。あれから63年。コルトレーン生誕100周年にあたる2026年、サックス奏者ブランフォード・マルサリスとグラミー賞5度受賞のジャズ・ヴォーカル女王ダイアン・リーヴスが、その伝説に正面から向き合った。アルバム『デディケイテッド・トゥ・ユー』が9月18日にリリースされる。先行シングル「ゼイ・セイ・イッツ・ワンダフル」はすでに配信中だ。
長年実現しなかった共演が、ついに叶った4日間
マルサリスがまず電話をかけたのは、ダイアン・リーヴスだった。互いに望みながらも実現してこなかった共演が、このプロジェクトを機にようやく扉を開いた。録音はジョーイ・カルデラッツォ(ピアノ)、エリック・レヴィス(ベース)、ジャスティン・フォークナー(ドラムス)というマルサリスのレギュラー・カルテットを携え、クレイトン州立大学スパイヴィー・ホールにてわずか4日間で敢行された(2025年8月)。驚くべきことに、アレンジは事前に何も用意されていなかった。5人がスタジオに集まり、その場でアレンジを練り上げながら音楽を作り出していった。その即興的なプロセスそのものが、コルトレーンの精神を体現している。
「演奏する曲そのものに深い共感を抱いていた」
マルサリスはコルトレーンをピカソに例えてこう語る。「彼は伝統を深く理解したうえで、それをどう広げていくかを考えていた。楽曲を単なる即興のための乗り物とは考えていなかった。演奏する曲そのものに深い共感を抱いていた」。その言葉こそが、このアルバムのすべてを説明している。
リーヴスの言葉もまた印象的だ。「お互いを単なるミュージシャンではなく一人の人間として理解し合っていること。その輪の中に身を置き、それぞれが持つ独自のリズム感やハーモニーの語彙に触れることで、私はこれまでとは違う場所へ行くことができた」。そして最後にこう付け加えた。「ブランフォードには『そのうち踊り出さなくちゃいけなくなるかもしれないわね』なんて話したのよ」。
全曲新アレンジ、そしてボーナス3曲
アルバムの核となるのは、『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』(2013年グラミー殿堂入り)の全収録曲を息をのむような新アレンジで収録した部分だ。「オータム・セレナーデ」「ユー・アー・トゥー・ビューティフル」「ラッシュ・ライフ」「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」「ゼイ・セイ・イッツ・ワンダフル」 ── いずれもリーヴスのボーカルとマルサリスのサックスが絡み合い、63年前のアルバムとは異なる輝きを放つ。
カルテット演奏による「ビッグ・ニック」「セントラル・パーク・ウェスト」といったコルトレーン自身の筆による楽曲も加わり、さらにボーナス・トラック3曲が締め括る。『バラード』から「セイ・イット(オーヴァー・アンド・オーヴァー・アゲイン)」のカルテット版とトリオ版、「ナンシー」と「ビッグ・ニック(トリオ)」 ── ファンにとっては聴き比べの喜びもある構成だ。

ブランフォード・マルサリス & ダイアン・リーヴス『デディケイテッド・トゥ・ユー』
2026年9月18日発売 UCCQ-1231 SHM-CD ¥3,300(税込)
https://Branford-Marsalis-Quartet.lnk.to/DedicatedToYouPR
