
インディー・フォーク・バンドFloristのメンバーとして知られ、近年はアンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックの最前線でも高い評価を集めるEmily A. Spragueが、ニュー・アルバム『Cyano』を10月2日にRVNG Intl.よりリリースする。日本盤CDはPLANCHAから発売予定。あわせて先行シングル「Sing To」と、そのミュージックビデオも公開された。
本作は、これまでインストゥルメンタル作品を中心に活動してきた彼女が、本格的に自身の歌声を作品の中心へ据えた初のアルバムでもある。
架空の惑星「Cyano」が映し出す、私たちの世界
『Cyano』の舞台となるのは、感情や自己表現を失った住人たちが暮らす架空の惑星「Cyano」。かつて地球によく似たこの星は、誤解によって崩壊し、個性よりも同調を強いる社会へと変貌してしまった。その世界で主人公”Cyanic”は、記憶や象徴、そして小さな感情の欠片を頼りに、本来の共感や表現を取り戻そうと旅を続ける。
壮大なSF作品のようでありながら、その物語は現代社会にも静かに重なっていく。可視性とは何か。他者とのつながりとは何か。そして、言葉にならない感情を私たちはどう伝えることができるのか。『Cyano』は、その問いを音だけで描き出している。
シンセサイザーだけで描く、新しい生命の風景
本作で鳴っている音は、すべてシンセサイザーによって生成されている。アコースティック楽器もサンプル音源も使用せず、モジュラー・シンセを中心とした精緻なサウンドデザインによって、どこかピアノやギターを思わせながらも決して既存の楽器には還元できない、不思議な音響世界が立ち上がる。
Emily A. Spragueは、この音を「自己と他者、生態系、そして遠い惑星をつなぐ存在」として捉える。自然音とも人工音とも言い切れないその響きは、風景を描写するというより、風景そのものへと聴き手を溶け込ませていく。
初めて前景化された歌声
『Cyano』最大の変化は、Emily自身の歌声が作品の核となっていることだ。これまでのソロ作品では、声はあくまで音響の一部として扱われることが多かった。しかし本作では、歌が物語を運び、感情を伝え、作品世界へ導く存在となっている。
先行シングル「Sing To」は、その象徴ともいえる楽曲だ。冷たい風が身体をすり抜けるようなシンセサウンドの上で、Emilyの静かな歌声が淡く浮かび上がる。誰かに歌いかけられることを願いながら、それが叶わない孤独。記憶の中へ沈んでいく感覚。静かな告白。そのすべてが幾重にも重なり合い、聴き終えたあとには不思議な温もりだけが残る。
アイスランドで生まれた映像作品
「Sing To」のミュージックビデオは、Emilyのパートナーであり映像作家でもあるV Haddadが監督。アイスランドで過ごした冬の旅と、現在暮らすニューヨーク州北部の日常風景を織り交ぜながら、記憶によって結ばれた二人の姿を抽象的に描いている。
映像は『Cyano』の物語世界を補完するもう一つの作品として機能し、現実と想像、ドキュメンタリーとSFの境界を静かに溶かしていく。
フォークとアンビエント、その先へ
Floristで見せる親密なフォークソングと、ソロ作品で追求してきたアンビエント/実験音楽。Emily A. Spragueは長年、この二つの世界を別々に歩んできた。しかし『Cyano』では、その両者が初めて完全に交差する。歌とサウンドスケープ、物語と抽象性、メロディとノイズ。それらは対立するものではなく、一つの生命体のようにゆっくりと呼吸を始める。
2019年に魅了された植物学者Anna Atkinsのサイアノタイプ写真から着想を得て生まれた本作は、音楽であり、SF文学であり、環境音響作品であり、そして極めて個人的な祈りでもある。
『Cyano』は、遠い惑星の物語を描きながら、実は私たち自身の感情の在り処を静かに照らし出している。アンビエントでもフォークでもない、その境界線から生まれた新しい音楽は、Emily A. Spragueというアーティストのキャリアにおける大きな転換点となるだろう。

Artist: Emily A. Sprague
Title: Cyano
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-261
Format: CD / Digital
※日本盤独自CD化
※解説付き予定
Release Date: 2026.10.2
Price(CD): 2,200 yen + tax
