喪失の先に、私たちは何を手放せるのか ── Eden Samara、傑作セカンド・アルバム『Odyssey』完成

©︎Karolina Bajda

ロンドン・アンダーグラウンドで最も美しい“境界線”を鳴らすアーティストのひとり、Eden Samaraが、約4年ぶりとなるセカンド・アルバム『Odyssey』を完成させた。

ジャングル、オルタナティヴR&B、エクスペリメンタル・ポップ、UKクラブ・ミュージック。そのどれにも属しながら、どれにも回収されない音楽。さらにライヴ・ハープやコーラスを大胆に取り入れた本作は、喪失、共依存、そして再生を神話的なスケールで描く、彼女のキャリアを決定づける一枚となりそうだ。

クラブ・ミュージックを“物語”へと変える才能

カナダ・ブリティッシュコロンビア州の山岳地帯で育ったEden Samaraは、幼少期からフォークソングを書き、合唱や演劇に親しんできた異色の経歴を持つ。人生を大きく変えたのは、ヨーロッパ旅行で出会ったロンドンのクラブ・カルチャーだった。

2019年にロンドンへ移住すると、Loraine James、Parris、Call Superらとコラボレーションを重ね、エレクトロニック・ミュージックとR&B、ポップを横断する唯一無二の表現者として急速に頭角を現す。

The Guardian、Pitchfork、Rolling Stone、DJ Magといった主要メディアがこぞって彼女を取り上げる理由は、その歌声ではない。感情そのものをサウンドデザインへ変換する能力にある。

『Odyssey』は“帰還”ではなく、“解放”の物語だ

アルバム・タイトルが示す通り、本作の着想源はホメロスの『オデュッセイア』だ。しかし描かれる旅は英雄譚ではない。

身近な人々が薬物依存やメンタルヘルスの危機に直面する姿を見つめる中で生まれた喪失感。愛と犠牲を履き違えた共依存。そして「誰かを救うために、自分を失わなくていい」という気づき。

『アルケミスト』や『ドリアン・グレイの肖像』といった文学作品からの影響も織り込みながら、Eden Samaraは極めて私的な体験を、誰もが共有できる神話へと昇華している。

タイトルの“Odyssey”とは、遠くへ旅することではなく、自分自身へ帰るための長い航海なのだ。

ジャングルとハープが共鳴する、32分の音世界

前作『Rough Night』ではクラブ・ポップと内省的R&Bを鮮烈に融合させた彼女だが、『Odyssey』ではさらに音楽的なスケールを拡張している。

ジャングル特有の疾走感あるブレイクビーツ。深夜のクラブを思わせる重低音。そこへライヴ・ハープの透明な響きや、多層的なコーラスが溶け込み、デジタルとオーガニックが驚くほど自然に共存する。

ビートは鋭いのに、歌はどこまでも親密。ヘッドフォンで細部を味わう繊細さと、大音量のフロアで身体を委ねたくなるフィジカルな快楽。その両極を成立させている点こそ、本作最大の魅力だ。

Loraine James、Tim Reaper、TSVI──UK最前線が集結

プロダクションには現在のUKエレクトロニック・シーンを代表する才能が集まった。

とりわけ注目は、Loraine Jamesとの共作「Dorian Gray」と「How to Let Go」。複雑に折り重なる電子音響と繊細なヴォーカルが交差し、アルバムでも屈指のハイライトとなっている。

さらに、ジャングル・シーンを牽引する Tim Reaper、メロディックなクラブ・サウンドで知られる TSVI、Ryan Pierre、Comfort Zone、Dan Only、Ryan Clover、Lighghtらが参加。Marysia Osuによるハープ、Fyn Dobsonのドラム&ギターも作品に豊かな奥行きを与えている。

『Rough Night』を超える、新世代UKエレクトロニックの到達点

2022年のデビュー作『Rough Night』は、Dazedで高い評価を受け、Mixmag年間ベスト・アルバムにも選出された。その時点で彼女は“注目の新人”だった。

しかし『Odyssey』でEden Samaraは、その肩書きを完全に脱ぎ捨てる。

ジャングルでもR&Bでもエクスペリメンタル・ポップでもない。それらすべてを飲み込み、Eden Samaraというジャンルを完成させたと言っていい。

Loraine JamesやLocal Action周辺のサウンドを愛するリスナーはもちろん、先鋭的なクラブ・ミュージックとパーソナルなソングライティング、その両方を求める人にとって、2026年屈指の重要作となるはずだ。

Artist: Eden Samara
Title: Odyssey
Label: PLANCHA / Lapsus / Local Action
Cat#: ARTPL-269
Format: CD / Digital
Release Date:  2026.09.04 (Digital) / 2026.10.02 (CD)
Price(CD): 2,200 yen + tax

※日本独自CD化
※解説・歌詞・対訳付き

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