
暗闇の中でしか見つけられない光がある。世界を代表するチェリストのひとり、シェク・カネー=メイソンが、Decca Classicsとの契約10周年という節目に新作『HOPE IN SHADOW』を発表する。リリースは2026年11月13日。
エドワード・ガードナー指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との共演で、サン=サーンス、ブルッフ、ラヴェル、ブロッホ、そしてジョン・ウィリアムズまでを収録。そこにあるのは単なる名曲集ではない。「影の中の希望」というひとつのテーマを通して、苦悩、悲しみ、祈り、そしてその先に現れる光を描き出す、極めてパーソナルなアルバムだ。
その幕開けとして、ジョン・ウィリアムズによる映画『シンドラーのリスト』のテーマが先行配信された。
10年前、ひとりの少年がクラシックの風景を変え始めた
2016年、BBC Young Musicianで優勝し、一躍注目を集めたシェク・カネー=メイソン。同じ年にDecca Classicsとの契約を果たしてから、2026年でちょうど10年を迎える。
この10年間で彼は世界各地の主要オーケストラやコンサートホールに招かれ、クラシック音楽を代表する存在へと成長した。2018年にはウィンザー城で行われたサセックス公爵夫妻のロイヤル・ウエディングで演奏。そのパフォーマンスは世界中で約20億人が視聴し、クラシックという枠を超えてその名を知らしめる大きな転機となった。
同年に発表したデビュー・アルバム『インスピレーション』は英国公式アルバム・チャート18位、クラシック・チャート1位を記録。近年ではデジタル・プラットフォームでの累計ストリーミング再生数が5億回を突破している。
しかし『HOPE IN SHADOW』が映し出すのは、そうした華やかな成功の軌跡とは少し違う。ここでシェクが見つめているのは、もっと根源的な問いだ。
人は暗闇の中で、どのように希望を見つけることができるのか。
「影の中の希望」を音楽に探す
『HOPE IN SHADOW』に収められたのは、シェク自身が長年愛し続けてきた作品たちだ。かつてはひとりのリスナーとして耳を傾け、やがて演奏家としてその内部へと入り込んでいった音楽。それらを「影の中に存在する希望」という視点から再び結び直した。
シェクは本作について、音楽が絶望の深みへと沈んでいく中にも、美しさや強い意志、そして突然現れる「きらめき」のようなものが存在すると語っている。
暗闇や悲しみを消し去るのではない。その中へ深く潜り、そこから差し込んでくるわずかな光を見つける。
世界が不安定さを増し、多くの人がその影響を受ける現在において、彼は本作を「希望を見いだすための小さいながらも力強い叫び」と位置づける。それは同時に、静かに思いを巡らせ、自分自身と音楽を重ね合わせ、ほんの少しでも慰めを見つけるための時間でもある。
『シンドラーのリスト』 ── ヴァイオリンの記憶をチェロへ
アルバムから最初に届けられたのは、ジョン・ウィリアムズによる映画『シンドラーのリスト』のテーマ。
スティーヴン・スピルバーグ監督による1993年の同名映画のために書かれ、オリジナル・サウンドトラックでは名ヴァイオリニスト、イツァーク・パールマンが演奏した、映画音楽史を代表する旋律のひとつだ。
シェク自身も「本当に心を揺さぶられる」と語るこのテーマを、『HOPE IN SHADOW』ではチェロとオーケストラのための編曲で収録。人間の声に近いとも言われるチェロの深い響きによって、あまりにも有名な旋律が新たな陰影を帯びて立ち上がる。
この選曲は、アルバム全体の思想を象徴しているようにも思える。深い悲しみを抱えながら、それでも旋律は消えない。むしろ暗闇が深ければ深いほど、その一音一音は強い光を放つ。
祈り、哀願、そして魂 ── チェロという“声”を追いかけて
アルバムではさらに、ラヴェル《カディッシュ》、ブロッホ《ユダヤ人の生活から》、ヘブライ狂詩曲《シェロモ》、ブルッフ《コル・ニドライ》など、祈りやユダヤの精神文化と深く結びついた作品が重要な位置を占める。
9月18日にシングルとしてリリースされるラヴェル《カディッシュ》について、シェクは旋律が大きな音程の跳躍ではなく同音反復を中心としていることから、「歌というよりも語りのように感じる」と話す。
一方、10月16日に先行配信されるブロッホ《祈り》は、彼にとって幼少期から特別な作品だ。初めて学んだのは9歳頃。チェロという楽器がこれほどまでに豊かな音を生み出せることに夢中になり、「魂と音の宇宙全体が目の前に開かれた」ように感じたという。
『HOPE IN SHADOW』におけるチェロは、単なる独奏楽器ではない。ときには歌い、ときには語り、ときには祈る。人間が言葉になる以前に抱えていた感情を代弁する、もうひとつの“声”として鳴っている。
サン=サーンスが描く、嵐から希望への物語
アルバムの大きな柱となるのが、サン=サーンス《チェロ協奏曲第1番》。シェクが幼い頃から惹かれ、自身が最初に学んだ協奏曲のひとつでもある。
1872年に作曲されたこの作品は、3つの楽章を切れ目なく演奏するという当時としては独創的な構成を持つ。シェクの耳には、その音楽が極めて鮮明な物語として聞こえているという。
劇的な冒頭は、まるで突然、海の嵐へ投げ込まれるよう。巨大な波、雷、稲妻。その荒れ狂う世界から、夢のような優雅さや情熱的な歌、強靭なヴィルトゥオジティによって抜け出そうとする ── 彼はそんなイメージを作品に重ねている。
激しい苦悩を通過し、複雑な音楽の道筋をたどった先で、ようやく希望へと到達する。それこそが『HOPE IN SHADOW』というアルバム全体を貫くドラマなのだろう。
世界が不安定な今、音楽は何ができるのか
シェク・カネー=メイソンが10周年というタイミングで選んだのは、自身の成功を祝福するための作品ではなかった。むしろ彼が見つめているのは、悲しみや苦悩を抱えながら生きる人間と、その傍らに存在し続けてきた音楽だ。
暗闇をなかったことにはできない。悲しみを簡単に消すこともできない。それでも音楽の中には、ときに説明のできない美しさが現れる。一筋の旋律が人を慰め、ひとつの響きが、ほんの少しだけ前へ進む力を与えることがある。
『HOPE IN SHADOW』 ── 影の中の希望。
シェク・カネー=メイソンがキャリア10年の先に見つけたのは、チェロという楽器が持つ圧倒的な表現力と同時に、音楽が何世紀にもわたって人間へ手渡してきた、ささやかで、それゆえに強い光なのかもしれない。
『HOPE IN SHADOW』は2026年11月13日リリース。先行シングルとして「ジョン・ウィリアムズ:映画《シンドラーのリスト》のテーマ」が配信中。9月18日にラヴェル《カディッシュ》、10月16日にブロッホ《祈り》、11月13日にはサン=サーンス《チェロ協奏曲第1番》第1楽章が順次リリースされる。

■商品情報
シェク・カネー=メイソン『HOPE IN SHADOW』
2026年11月13日(金) リリース
CD 品番:487-2248 価格:オープン・プライス
2LP 品番:487-2249 価格:オープン・プライス
【シェク・カネー=メイソン】
ユニバーサル ミュージック公式HP:https://www.universal-music.co.jp/sheku-kanneh-mason/
