建築では語り尽くせない、もうひとつのル・コルビュジエ ── 銀座 蔦屋書店で“画家”としての創作世界に迫る展覧会が開催

「近代建築の巨匠」という肩書だけでは、ル・コルビュジエという人物は語り尽くせない。

《サヴォア邸》や《ロンシャンの礼拝堂》といった20世紀建築を象徴する名作を生み出した一方で、彼は毎朝アトリエに向かい、生涯を通して絵筆を握り続けた画家でもあった。その知られざる創作活動に光を当てる展覧会「画家 ル・コルビュジエ 建築の巨匠が紡いだ絵画の世界」が、7月25日から銀座 蔦屋書店で開催される。

建築家ではなく、「画家」としてル・コルビュジエを見る

本展は、建築作品ではなく、ル・コルビュジエのドローイングやリトグラフを中心に構成された貴重な企画だ。

彼にとって絵画は建築の余技ではない。むしろ、建築へ至る思考の原点であり、あらゆるアイデアが最初に形を得る実験の場だった。線を引き、色を置き、構図を探る。その繰り返しが、のちに世界遺産となる建築へと姿を変えていく。

本展では、創作初期から晩年までの作品を通して、ひとりの芸術家としての歩みをたどることができる。

「ピュリスム」から読み解く創造の原点

展示の見どころとなるのは、《ピュリスムの静物》(1927年)と《手》(1951年)という二つの原画だ。

第一次世界大戦後、ル・コルビュジエは画家アメデ・オザンファンとともに「ピュリスム(純粋主義)」を提唱した。キュビスムを継承しながらも、より秩序だった構成と機能美を追求したこの思想は、その後の建築哲学にも大きな影響を与える。

《ピュリスムの静物》では、無駄を削ぎ落とした直線的なフォルムが印象的だ。その合理性は、後年に完成する《サヴォア邸》の設計思想を予感させる。

一方、《手》では、生命力を感じさせる大胆な曲線が画面を支配する。その自由な造形は、《ロンシャンの礼拝堂》や《開いた手のモニュメント》へとつながる、晩年の有機的な表現へと結実していく。

二つの作品を見比べることで、絵画表現の変化がそのまま建築思想の進化であったことが浮かび上がる。

『直角の詩』に宿る、巨匠最後の宇宙観

展覧会の中心を成すのは、1955年に発表された版画集『直角の詩(Le Poème de l’angle droit)』。

《ロンシャンの礼拝堂》が完成した年に制作されたこの代表作は、ル・コルビュジエ自身が考案した独自の配置理論「イコノスタシス」に基づき、太陽、自然、人間、愛、そして「開いた手」といったモチーフを通して、自らの宇宙観を19点のリトグラフで表現した壮大な作品群である。

建築を超えた一人の思想家としてのル・コルビュジエを知るうえでも、本展最大の見どころと言えるだろう。

建築ファンだけではもったいない展覧会

ル・コルビュジエの名前を聞けば、多くの人は建築を思い浮かべる。しかし、その建築を支えていたのは、毎日描き続けた一枚一枚の絵だった。

本展は、建築史の裏側を知る展示ではない。絵画という表現を通して、一人の芸術家が世界をどのように見つめ、思考し、創造していたのかを体感できる展覧会である。

建築ファンはもちろん、現代アートやデザイン、グラフィックに興味がある人にもぜひ足を運んでほしい内容だ。

開催概要

「画家 ル・コルビュジエ 建築の巨匠が紡いだ絵画の世界」

  • 会期:2026年7月25日(土)~8月27日(木)
  • 会場:銀座 蔦屋書店 アートウォール
  • 時間:10:30〜21:00(最終日は18:00閉場)
  • 入場:無料

建築の歴史を変えた男の「もうひとつの代表作」は、もしかするとキャンバスの上にあったのかもしれない。今回の展覧会は、その事実を静かに、しかし力強く教えてくれる。

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