
「成功は本当に実力だけで決まるのか?」
そんな誰もが一度は抱く疑問を、極上のポップ・ソングへと昇華した一曲が誕生した。オーストラリア発のインディーロック・バンドLast Dinosaursのギタリストとして知られるLachlan Caskeyによるソロ・プロジェクト、Notes From Under Groundがニューシングル「Names In Blue」をリリース。爽やかなヨットロックのサウンドに乗せて、音楽業界に潜むネポティズム(縁故主義)というデリケートなテーマへ鋭く切り込んでいる。
Wikipediaの“青いリンク”が語る、成功のもう一つの物語
タイトルの「Names In Blue」が指すのは、Wikipedia上で青く表示されるハイパーリンクだ。
誰かのプロフィールをたどっていくと、父親や母親の名前にもリンクが貼られている。そのリンクを開けば、そこには著名なプロデューサー、俳優、ミュージシャン、あるいは文化的・経済的な影響力を持つ人物の名前が並ぶ──。
Caskeyは、この「青いリンク」をモチーフに、一見すると才能だけで勝ち取ったように見える成功の背景には、受け継がれる文化資本や人脈、そして可視化されにくい特権が存在することを、ユーモアと皮肉を交えながら描き出している。
甘く洗練されたサウンドに潜む鋭い批評性
「Names In Blue」は、Notes From Under Groundの持ち味である文学的なソングライティングをさらに押し広げた作品だ。
ピアノを軸にしたシアトリカルなアレンジ、どこか懐かしいヨットロックの質感、そしてクラシック・ポップを思わせる端正なメロディ。その心地よさとは裏腹に、歌詞は現代の音楽業界が抱える構造的な問題へと静かにナイフを向ける。
説教臭さはまったくない。むしろ軽快で洗練されたサウンドだからこそ、その批評性はより鮮やかに浮かび上がる。
豪華ミュージシャンたちが支える完成度
本作ではCaskeyが作詞・作曲からプロデュース、アレンジ、演奏までを一手に担当。
ドラムにはMiles Morris(Bad Suns)、追加ピアノにはMichael Seyerが参加し、ミックスとマスタリングはJake Millerが担当。これまでにROSALÍA、Yves Tumor、Eyedressらの作品にも携わってきたエンジニアだけに、楽曲全体には現代的で立体感のあるサウンドスケープが広がっている。
“発見すること”そのものを映像化したミュージックビデオ
公開されたミュージックビデオも実にユニークだ。
Wikipediaを思わせるインターフェースをモチーフに、リンク、定義、歌詞、検索結果が次々と画面を横断していく構成は、インターネットで情報をたどる私たち自身の視点を巧みに再現している。
最初は純粋な好奇心だったものが、リンクを追うたびに新たな人脈や血縁へとつながり、やがて「成功とは何なのか」という問いへ変わっていく。その体験そのものを映像として可視化した作品は、どこかユーモラスでありながら、不穏な余韻を残す。
ドストエフスキーの名を冠した、現代社会への観察者
Notes From Under Groundというプロジェクト名は、地下室の手記に由来する。
その名の通り、Lachlan Caskeyは常に社会を少し斜めから見つめる観察者だ。クラシック・ポップやソフトロック、現代インディーの美学を自在に横断しながら、階級や文化、そして音楽業界の不条理を知的なユーモアとともに描き出してきた。
「Names In Blue」はネポティズムを告発するプロテストソングではない。誰もが目にしているはずなのに見過ごしてしまう”構造”を、極上のポップミュージックとしてそっと照らし出す一曲だ。青いリンクをクリックしたその先に見えてくるものは、現代のカルチャーそのものなのかもしれない。
