
2018年、BBEミュージックが世界に向けて放った『J Jazz』第1巻は、日本のモダンジャズという「知る人ぞ知る」世界を、一気にグローバルな聴衆のもとへと引き出した。それから8年。2026年6月5日にリリースされる第5巻をもって、このシリーズはついに完結を迎える。トニー・ヒギンズとマイク・ペデンという二人の目利きが、自らのレコード・コレクションの最も深い棚の奥へと手を伸ばし、これ以上はないという選曲で、伝説に最後の一筆を加える。
超レア盤の発掘が、今回も核心にある
シリーズを通じて変わらないのは、入手困難な音源への飽くなき執念だ。クリスタル・ゾーンの「Rai Rai」は1971年に一発限りのプロモ用45回転盤として製造された、文字通りの幻の一枚。Mile and Halfのトラックは超レアなプライベートプレス盤にのみ存在し、その激烈な狂乱ぶりは「聴き手に酸素とバリウムが必要になるほど」とリリース資料が表現するほどだ。収録曲の大半がこのコンピレーションで初めて再発されるという事実は、これが単なるベスト盤ではなく、真剣な音楽考古学の産物であることを示している。
ジャズ・ファンクから幻覚的部族ファンキーまで、振れ幅の広さが圧巻
選曲の多様性もまた、このシリーズの真骨頂だ。本田俊之の「Eastern Legacy」や増田幹夫の「Sonic Barrier」が放つ白熱したジャズ・ファンク・フュージョン、河野康弘がスタンダード「My Favorite Things」を解体して再構築した抽象的なソロ・ピアノ、今田勝の壮大なソウル・ジャズ、宮沢昭の鋭角的なポストバップ、そして佐藤允彦率いるガランドーのトリップ感あふれる幻覚的部族ジャズ「Africa To Africa」まで——70〜80年代の日本のジャズシーンがいかに豊かで実験的であったかを、14曲が雄弁に証言する。市川秀男の静謐な映画的ピアノや中村誠一のサンバも、この音の宇宙に奥行きと温度をもたらしている。
書籍、ライナーノーツ、写真 ── 音を超えた文脈の充実
BBEミュージックが2024年に刊行した大型書籍『J Jazz: Modern and Free Jazz from Japan 1954-1988』と連動するかたちで、今作には約7000語に及ぶ詳細なライナーノーツが付属する。「Tokyo Jazz Joints」プロジェクトの写真を掲載した4ページのインサート、帯付きの豪華見開きスリーブに収められた180g重量盤3枚組ヴァイナルという仕様は、このシリーズが音楽体験であると同時に、ひとつの文化的記録として設計されていることを如実に示している。マスタリングはグラミーノミネート歴を持つカーヴェリー・スタジオのフランク・メリットが担当し、前4巻が積み上げてきた高水準を最後まで守り抜いた。
シリーズ完結という言葉には、いつも少しの寂しさが伴う。しかし『J Jazz』第5巻が差し出すのは喪失感ではなく、充実の余韻だ。日本のジャズが世界に向けてこれほど丁寧に紹介されたことは、かつてなかった。そしておそらく、これほどの愛情と執念をもって掘り起こされることも、これからそうそうないだろう。
V.A.
アルバム名:『J Jazz volume 5: Deep Modern Jazz From Japan 1970-1988』
フォーマット:2CD、3枚組アナログ盤とデジタル配信
発売日: 2026年6月5日
ジャンル: Jazz
カタログ番号: BBE794
