
ポートランド拠点の電子音楽デュオ、ヴィジブル・クロークスが、約5年ぶりとなるフルアルバム『Paradessence』を発表する。リリースはRVNG Intl.より2026年5月22日。これに先駆け、Félicia Atkinson、尾島由郎、柴野さつきを迎えた新曲「Thinking / Shapes」が公開され、その全貌の一端が明らかになった。
“生成”と“錯覚”が交差する音響空間
『Paradessence』の主題は「emergence(生成)」と「illusion(錯覚)」。全14曲を通じて、夜の空間にほのかに光が滲むような音像が展開される。音は固定された形を持たず、揺らぎ、きらめき、重なりながら、まるで自然界をハイパーリアルに再構築したかのような広大なサウンドスケープを形成していく。
それはアンビエントという枠組みを静かに逸脱し、より抽象的で流動的な領域へと踏み込む試みでもある。壮大さとミクロな繊細さが共存する構築は、これまでの集大成でありながら、新たなフェーズへの移行を感じさせる。
「Thinking / Shapes」──言語と音の境界を揺らす二部構成
アルバムの核となるのが、連結された二部構成の楽曲「Thinking」と「Shapes」。本作は2019年のツアーを起点に、尾島由郎と柴野さつきとの共演から発展した。
「Shapes」では、繊細に脈打つパッドのレイヤーが、仮想的なホーンやピアノの断片、遠くに漂う声を包み込む。一方「Thinking」では、尾島によるテキストが柴野によって日本語で朗読され、それがフランス語へと翻訳され、Félicia Atkinsonの声として再構築される。言語が変換されるプロセスそのものが音響体験となり、知覚の輪郭を静かに揺さぶる。
3Dスキャンが生む“崩れる現実”の映像体験
公開された映像は、ロンドンのビジュアル・アーティストgrade eternaが手がけたもの。フォトグラメトリやNeRFといった先端技術によって現実空間をスキャンし、デジタル上で再構築。仮想カメラはその内部へと侵入し、境界や輪郭を崩しながら進んでいく。
フランス語、日本語、英語のテキストが重層的に配置されることで、視覚と言語、そして音が交錯する複合的な知覚体験が立ち上がる。
“沈黙”というもうひとつの楽器
本作において重要な役割を果たすのは、音そのものではなく“沈黙”である。建築理論家Christopher Alexanderの提唱する「ポジティブ・スペース」に着想を得て、音と同じ密度で“空白”が設計されている。
音は沈黙を伴って運ばれ、存在と不在のあいだを振動する。その様は、まるで微生物のように生成と消滅を繰り返す生命体の運動にも似ている。
現実と仮想の境界を溶かすコラボレーション
『Paradessence』には、多彩なアーティストが参加している。Motion GraphicsことJoe Williamsは“合成木管”で音の輪郭を形成し、アルバムのミックスも担当。さらにルーマニア出身のヴァイオリニストIoana Șelaruが「Intarsia」に参加し、実在する弦と仮想的なストリングスの境界を曖昧にする試みが展開される。
また、Spencer DoranによるプロジェクトComponium Ensembleが「System」の基盤を担い、自動生成的な音楽構造がアルバムに新たな層を与えている。
環境ではなく“生きた素材”としての音楽
ヴィジブル・クロークスは本作において、音楽を単なる“環境”としてではなく、絶えず変化し続ける“生きた素材”として捉え直す。複数の音が群れのように振る舞い、せり出し、引き、変容していくそのダイナミズムは、静謐でありながら確かな運動性を内包している。
『Paradessence』は、未来への楽観でも、過去への郷愁でもない。現実と仮想、存在と不在、そのあいだに漂う曖昧な領域をすくい上げる、きわめて現代的な音響作品だ。

Artist: Visible Cloaks
Title: Paradessence
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-254
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.05.22
Price(CD): 2,200 yen + tax
※CDボーナス・トラック1曲収録
※解説付き予定
