旅の記憶は、やがて音になる ── Isik Kural、新作『Motorcycles and Cherry Wind』から2曲を先行公開

トルコにルーツを持ち、現在はスコットランド・グラスゴーを拠点に活動する作曲家/ソングライター、Isik Kuralが、10月30日にリリースするニュー・アルバム『Motorcycles and Cherry Wind』から、新たに2曲を公開した。

今回発表されたのは、アルバムのタイトル・トラック「Motorcycles and Cherry Wind」と「Under the Canopy」。旅先で出会った風景や街のざわめき、移動の途中で耳にした環境音、そして時間とともに姿を変えていく記憶――Kuralが長年向き合ってきたモチーフが、それぞれ異なる角度から浮かび上がる2曲となっている。

アルバムはRVNG Intl.より10月30日にリリース。日本では同日、PLANCHAよりボーナス・トラック2曲を追加したCDも発売される。

マラケシュの記憶を閉じ込めた「Motorcycles and Cherry Wind」

タイトル曲「Motorcycles and Cherry Wind」が捉えるのは、Kuralが2022年に訪れたマラケシュでの記憶だ。

秋の午後の温もり、風に漂う甘い香り、道行く人々の話し声、市場に積み上げられた色鮮やかな果実。そうした旅先の断片が、フィンガーピッキングのギターと軽やかなストリングスによって、一冊のスクラップブックをめくるように立ち現れていく。

Kuralが記録しようとするのは、旅先で「何があったのか」という事実そのものではない。むしろ、その瞬間に感じた温度や匂い、光、音といった、時間の経過とともに輪郭を失っていく感覚だ。

曲の終盤では円環するハーモニーがゆっくりとほどけ、穏やかなシンセサイザーへと移行。記憶のなかを歩いていた人間が、ふと現在へ戻ってくるような余韻を残す。

雨のグラスゴー、到着と出発のあいだ

もうひとつの先行曲「Under the Canopy」は、移動の最中に生まれた楽曲だ。

舞台となるのは雨に濡れたグラスゴー。きらめくシンセサイザーの向こうで、列車が発車する低い振動や、ひび割れたスピーカー越しの駅のアナウンスが響く。それらは次第に雷鳴や雨音へ溶け込み、メロディとフィールド・レコーディングの境界も曖昧になっていく。

描かれているのは、目的地そのものではなく「どこかを離れ、どこかへ向かっている時間」だ。駅や列車という日常的な風景から、出会いと別れ、そのあいだに生まれる一時的なつながりをすくい上げる。

マラケシュの温かな記憶を封じ込めた「Motorcycles and Cherry Wind」に対して、「Under the Canopy」に漂うのは雨と移動の静かな憂い。同じ“旅”を扱いながら、対照的な感触を持つ2曲だ。

世界各地で集めた「音の記憶」が一枚のアルバムへ

通算4作目となる『Motorcycles and Cherry Wind』は、Kuralが旅を通じて蓄積してきた記憶を、13曲(日本盤はボーナス・トラックを含む14曲)の音楽へと編み直した作品となる。

イスタンブールの乗合バス「ドルムシュ」で録音した音、古代リュキアを訪れた記憶、スコットランドのブリッジ・オブ・アランで採取した鳥のさえずり。Kuralはそうしたフィールド・レコーディングをアーカイヴとして保存し、時間を置いて何度も聴き返しながら楽曲へと取り込んでいった。

ピアノやナイロン弦ギター、木管楽器、弦楽器、シンセサイザーと環境音が緻密に重なり合い、牧歌的なフォークとアンビエント、実験的なサウンド・デザインの境界を行き来する。

レコーディングにはブラジル、アルゼンチン、イタリア、北マケドニア、スペイン、イングランド、ドイツ、トルコ、スコットランドにルーツや拠点を持つ9人のミュージシャンが参加。異なる土地から集まった音楽的背景が、Kuralの拠点であるグラスゴーをひとつの結節点として交差している。

過去の音を、現在へと持ち帰る

イスタンブール出身のKuralは、10代でナイロン弦ギターを手にし、偶然耳にした会話や言葉を歌詞へ取り入れることから音楽制作を始めた。マイアミ大学で音楽を学び、ニューヨークでの生活を経てスコットランドへ移住。グラスゴー大学ではサウンド・デザインとオーディオヴィジュアル・プラクティスを学んでいる。

2019年にファースト・アルバム『As Flurries』を発表し、2022年にはRVNG Intl.から『in february』をリリース。2023年のインストゥルメンタルEP『peaches』、2024年の『Moon in Gemini』と作品を重ねながら、フィールド・レコーディング、フォーク、アンビエント、声や文学的なモチーフを交差させた独自の音楽世界を築いてきた。

新作『Motorcycles and Cherry Wind』でも、その関心は一貫している。ただし今回、彼が耳を澄ませているのは旅そのもの以上に、旅が終わったあとにも身体のどこかに残り続けるものなのかもしれない。

街角のざわめき、古代の土地に吹く風、列車の振動、鳥の声、午後の光。それらは時間が経てば「記憶」と呼ばれるものになる。しかしKuralの手にかかれば、その記憶はもう一度、音として現在に現れる。

Isik Kuralのニュー・アルバム『Motorcycles and Cherry Wind』は、10月30日にRVNG Intl.よりリリース。日本盤CDはPLANCHAより同日発売され、ボーナス・トラック2曲に加え、解説、歌詞、対訳の収録が予定されている。

Artist: Isik Kural
Title: Motorcycles and Cherry Wind Out
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-268
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.10.30
Price(CD): 2,200 yen + tax

※日本盤ボーナス・トラック2曲収録
※解説・歌詞・対訳付き予定

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