
ポートランド拠点のエレクトロニック・デュオVisible Cloaksが、名門レーベルRVNG Intl.より5月22日にリリースするニューアルバム『Paradessence』から、新曲「Intarsia」をMVとともに公開した。“出現”と“錯視”をテーマに掲げる本作は、彼らのキャリアにおける到達点であり、同時に最も冒険的な領域へと踏み込んだ作品でもある。
音と沈黙がせめぎ合う“巨大な空洞”
『Paradessence』は、全14曲からなるサウンド・スカルプチャーだ。ほの暗い光を帯びた空間のなかで、音は揺らぎ、反射し、溶け合いながら変容していく。
その背景にあるのは、建築理論家クリストファー・アレグザンダーの「ポジティブ・スペース」という概念。音そのものだけでなく、“音が存在しない空白”にも等価の意味を与えることで、存在と非存在のあいだを往復するような聴覚体験を生み出している。
アンビエントの延長ではなく、より純粋な抽象へ ── 本作はその臨界点を探る試みだ。
「Intarsia」 ── 弦と声が溶け合う錯覚
公開された「Intarsia」は、アルバムの核心を示すトラックのひとつ。ルーマニア出身の作曲家/ヴァイオリニストIoana Șelaruを迎え、現実の演奏と仮想音響の境界を曖昧にする実験が展開される。
弦を擦る摩擦音は誇張され、やがて合成的な質感へと拡張。Șelaruの声は倍音の層となって空間に溶け込み、どこからが“現実の音”で、どこからが“生成された音”なのか、その輪郭は次第に失われていく。
結果として立ち上がるのは、理屈を超えて迫ってくる圧倒的な情感の塊だ。
映像もまた“現実を取り損なう”装置
「Intarsia」のMVは、フォトグラメトリストgrade eternaとのコラボレーションによって制作。実在するチェロのデータをもとに生成された“gaussian splat”映像は、物質の内部構造や質感を追いながら、現実を逸脱した視覚体験へと観る者を導く。
メンバーのSpencer Doranは、「ツールが現実を正確に捉え損なう瞬間にこそ興奮する」と語る。精度の逸脱が、新たな抽象空間を生む ── その思想は音と映像の両面に貫かれている。
交差するコラボレーションと“生きた素材”としての音
本作には、Motion Graphicsや尾島由郎、柴野さつき、Félicia Atkinsonらが参加。音は固定されたオブジェクトではなく、環境のなかで変化し続ける“生きた素材”として扱われる。
複数の要素が群れのように現れ、消え、再び形を変える ── その運動は、まるで見えない生態系を聴いているかのようだ。
Visible Cloaksが辿り着いた“曖昧さ”の美学
Visible Cloaksはこれまで、日本の環境音楽や電子音楽の影響を独自の方法論へと変換し、翻訳・生成・再構築を繰り返してきた。
『Paradessence』では、そのプロセスがさらに推し進められ、現実/仮想、音/沈黙、人間/機械といった境界そのものが溶解していく。
それはどこかユートピア的でありながら、決してノスタルジーにもシニシズムにも回収されない。ただ静かに、しかし確実に、聴き手の知覚を更新していく作品だ。

Artist: Visible Cloaks
Title: Paradessence
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-254
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.05.22
Price(CD): 2,200 yen + tax
※CDボーナス・トラック1曲収録
※解説付き予定
