
23年ぶりに東京を訪れた、Attica Bluesのロバ・エル・エサウィー。2人の子どもと街を歩き、陶芸の静寂やセミの声に喜びを見いだす彼女は、その一方で、ガザで失われ続ける命と、世界を覆う沈黙に激しい怒りを抱いている。自宅のリビングルームで自ら音を重ね、完成させた『Raise a Symphony』は、抗議であり、祈りであり、一人ひとりに行動を促す交響曲だ。「喜びは回復力。抗議の声を長く上げ続けるためにも、自分のカップを満たさなければならない」。音楽は世界を変えられるのか。怒りの只中で希望を手放さず、自らの声を鳴らし続けるロバに、創作、抵抗、難民へのまなざし、そして未来への信念を聞いた。
23年ぶりの来日、家族と過ごす東京
── 初めに苗字はどのように発音されるか、教えてくれますか?
Roba 英語の発音では“エル・エサウィー”だけど、エジプトの言葉では“エラセウィー”と発音されるわ。「イエス・キリストの信奉者」という意味なの。
── そうなんですね。日本を訪れるのは久しぶりだと伺いました。
Roba ええ、本当に久しぶりよ。たしか23年ぶりかしら? 前回来日したのは2003年だったから。
── 東京にはすでに何日ほど滞在していますか? 東京での時間を楽しんでいますか?
Roba 東京には5日前に着いたけど、とても素晴らしい時間を過ごしているわ。中目黒は初めて訪れたけれど、このエリアはとても気に入っているの。少しゆっくりとしたペースで時間が流れる感じがしてとても素敵よ。そして今回は2人の子どもたちと来ているから、これまでとは全く違う経験ができているの。以前、日本に来た際はゲストとしていろいろな場所へ連れて行ってもらう立場だったけれど、今回の旅では自分で全て調べて、自分の訪れたい場所、子どもたちが興味を持ちそうな場所を探したわ。チームラボボーダレスも訪れたし、息子は毎日UNIQLOに行きたがるの(笑)。特にティーンエイジャーは優先事項がまったく違うから、私にとっても今までとは異なる東京を見ることができているわね。とても素晴らしい街だわ。
── 東京の後は京都を訪れるそうですね。他の都市も行く予定はありますか?
Roba 京都の後は大阪に行く予定よ。そして大阪から日本を発つの。
── ロンドンに戻られるのですか?
Roba いいえ、タイに戻るわ。今回の休暇はバンコクへの旅行がメインで、その途中で日本に足を伸ばしたというわけ。タイに戻ってからさらに2つの都市を巡って、それからロンドンに帰る予定よ。


抗議とレジスタンスのアルバム『Raise a Symphony』
── 昨年は新しいソロアルバムを発表されました。新アルバムを一言で表すとしたら、どのように表現しますか?
Roba 抗議のためのアルバムと言えるわ。抗議、抵抗、発言すること。自分の考えを自分の声を使って表現するためのアルバムよ。ここ数年間、ガザで起きていることでとても腹立たしい気持ちでいっぱいなの。みんなが沈黙してしまうことを目の当たりすること、そしてその沈黙を耳にすることがとても耐えがたいわ。沈黙とは従わせること。無関心な姿勢は、こうした恐ろしい事態を新しい「通常」として受け入れてしまうことでもあるのよ。だから私たちはそんなことを認めてはいけないの。今回作った曲の多くはガザで起きている殺戮への抗議の意を込めているわ。私にしかできない方法でやるべきことをしたいだけ。なぜなら人はみんな果たすべき役割があると思うからよ。
“Raise a Symphony”という今回のアルバムのタイトルは、1963年にマーティン・ルーサー・キング牧師が行った演説の中で「人々が手を取り合って兄弟愛に満ちた美しい交響曲を生み出そう」と語った一節から取ったものなの。一人一人が自分に出来ることを通してシンフォニー(=交響曲)を奏でて、行動しようということ。実際の交響曲でも例えばピッコロの音は小さなものだし、ティンパニは存在感のある大きな音を出すわ。どちらも常に音を発するわけではないけれど、それぞれ違った役割がある。全ての楽器、全ての人がそれぞれの役割があると思うの。私も自分の役割を果たし、周囲の人に各自ができることをやりましょうと促すことが使命なのよ。今回のアルバムの曲も、私たち一人一人に何ができるかを問いかけるものになっているわ。 アルバムの1曲目は『Joy』という曲で、前向きな気持ちを持ち続けることがいかに難しいか、大変の時にこそ喜び(Joy)を見出すことの大切さを表しているの。この『Joy』のリミックス・バージョンを、他の曲とも合わせて8/21にリリースするわ。さらに2000BLACKによるリミックスも含むリミックス版のEPも9/4にリリース予定よ。


── 今回のアルバムは自主制作ですか?
Roba その通りよ。自主制作、自主リリースしたわ。
── プロダクションについてですが、どのようなプロデューサー陣営が付いたのですか?とても素晴らしいプロダクションだったので。
Roba それは嬉しいわ!私がやったのよ、全ての音を自分がプロデュースしたの。私は自宅のリビングルームで音楽制作を行うの。リビングの一部が私のスタジオということ。そこで制作活動を行ったわ。そしてAttica Bluesのトニーがミキシングしてくれたわ。
── ボーカルはもちろんロバさんですが、コーラスも素晴らしかったっです。
Roba ボーカルもコーラスも全部私よ! 一部の曲では他のミュージシャンが参加してくれているけれど、ビートも全て私よ。数年前に最優秀ヤング・ジャズ・ピアニスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれたデシャネル・ゴードン(Deschanel Gordon)がキーボードを弾いてくれてるわ。デシャネルはOlivia Deanとも演奏していて、彼女とツアーを回っているとても素晴らしい演奏家よ。『Keep You Close』では2000BLACKのディーゴ(Dego)がベースを手伝ってくれたわ。『Axis』では詩人・俳優・活動家でもあるソウル・ウィリアムズ(Saul Williams)をフィーチャーしているし、『Listen』と『After Home』にはサクソフォン奏者のトニー・コフィ(Tony Kofi)が参加しているわ。マイケル・キング(Michael King)が『Wishful Thinking』でキーボードを弾いてるほか、ベース・シンセサイザーも演奏しているの。トニーは『Giving Thanks』でもタンバリンを担当していたり、デシャネルは『Faith』でもキーボードで参加してくれたりしたわ。なので多くのミュージシャンが協力してくれたわね。

── アルバムの評判はいかがですか?
Roba 私はインディペンデント・ミュージシャンなので、私の知る限りではとてもポジティブな評価を得ていると思うし、とても支持してもらっているわ。インディペンデント・ミュージシャンはとても大変で、お金もたくさん必要なのよ。さらに自分の作品を聞いてもらうというアクセシビリティ(手段・方法)が限られているのは課題ね。私の音楽を知ってくれている人はたくさんいるけれど、私の音楽をまだ知らないオーディエンスもまだまだ多いわ。今回のアルバムも高く評価されているけれど、オーディエンスは限られているわね。でも私はそれで満足しようと考えているの。私はクリエイターなので、自分にとって大切なことは音楽を作り続けることだから。なので商業的な側面は気にしないようにしているわ。今後もクリエイターとして制作活動を続け、作品をリリースし、その結果は結果として受け入れるわ。もし利益が生じればそれは素晴らしいけれど、生じなかったとしても自分の音楽的表現に満足するわ。いつの日かすべてのコストが回収できるようなアルバムが作れたらと願っているわ。いつかね。
── 今回のアルバムでは多くのアーティストたちが参加したということですが、そのことについてどのように感じていますか?
Roba とても嬉しいことだったわ!今回のアルバムはスタジオ・アルバムだったから、みんなが集まって一緒に音を作るというわけではなかったの。いろいろなアーティストが私のために演奏したものを自分で編集し、最適なテイクを選んで、ここの良い部分とあそこの良い部分を繋げたりと私の思うように作り上げるという作業が最高だったわ。私が音楽を始めた頃は耳にした音楽をサンプリングする時代だったから、その手法が抜けきらないのね。
Attica Bluesで音楽を始めた時はまだ若く経験もなかったし、大学で勉強をしながらの音楽活動だったため、単純にAttica Bluesのボーカリストであり作詞することしかしなかったわ。そこから大きく変わって、今は自分で音楽を作り、プロデューサー、作曲家、作詞家、リリースもプロモーションも自分でこなし、様々な役割を果たしているわ。自分自身の管理の下で制作活動ができて、思い通りの作品が出来上がることがとても楽しいわ。おとめ座だからこだわりが強いのかもしれないわね。
── アルバム・カバーの写真がとても印象深いですね。赤い色がとても目を引きます。どのような意味があるのですか?
Roba アルバムのカバーとなっている写真は、亡くなってしまった私の妹がエジプト革命に参加した際にエジプトで撮影したものなの。多くの人がエジプト国旗の下に集い、団結してともに旗を持ち上げているシーンよ。この写真は編集されたものではなく、色もそのままのオリジナルなの。透けて差し込む太陽の光がとても素敵でしょ?私もパレスチナ支持のための多くのデモに参加しているけれど、人々が団結する力には驚かされてばかりよ。なので旗を支える人たちの手、団結力、そして抗議の赤い色、すべてがメッセージの意図にピッタリだったわ。
── アルバムの中の絵の下に“Saul Williams”とありますが、詩人でラッパーのソウル・ウィリアムズのことですか?彼が描いた絵ですか?
Roba その絵はシングル『Axis』のカバーに使われたもので、ソウル・ウィリアムズはその曲にフィーチャーされているわ。ソウルはSlam Poetryの詩人であり、ラッパー、作家、プロデューサー、俳優、そして政治活動家でもあるの。彼はガザでの殺戮についても積極的に反対を説いていて、彼と仕事ができてとても光栄だわ。 8/28にソウルがリリースするアルバム「Leap Life」に私も参加していて、プロデューサー/ミュージシャンであるカルロス・ニーニョ(Carlos Niño)とともにロンドンでのソウルのショーにも出演したのよ。
── シングル・カバーの絵も彼が描いたんですか?
Roba いいえ、この絵を描いたのはリチャード・マーク・ローリンズという画家よ。私は一時期トリニダードに住んでいたことがあって、リチャードはトリニダード出身のアーティストなの。とても素晴らしいマルチ・メディア・アーティストで、この曲とアルバムにピッタリだと思って依頼したの。だからこの絵はリチャードの作品よ。『Axis』のコーラス部分の歌詞は“Soul of Soul”と歌っているわ。絵の中の老人はガザ出身のカレド・ナブハンという人物で、絵の中で彼が抱いているのは亡くなった孫娘のリームちゃんなの。インタビューを受けた彼は孫娘が彼の魂の中の魂(中心)だと語ったそうよ。なので私は彼と彼の孫娘に敬意を表してコーラス部分を作ったの。亡くなった彼の孫娘ももちろん、ガザで亡くなった全ての子どもたちを慰霊するためにもね。
一曲ごとに込めた想い
── ロバさんは意見・意思を表明することを大事にしていらっしゃいますが、混沌とする現在の世界情勢を前に音楽を通して伝えたいことは何ですか?
Roba 私は人々に自信を持って意見を述べてほしいと思っているわ。今は無関心が広まりすぎていて、それはとても危険なことだと私は危惧しているの。また、自分は発言する立場にないと考える人がとても多いけれど、そんなことはないのよ。私たち一人一人が自分の意見を口にするべきであるし、発言しないことによって言論の自由はさらに抑圧されてしまうわ。世界的にも極右思想が強まっていることもあって、とても不安に感じているの。私の音楽は、みなさんに自分の意見を声に出し続ける勇気を与えるための手段だと思っているわ。
── 歌詞の中にも特別なメッセージが込められていますか?
Roba そうね、見てみましょう。『Joy』は喜び(Joy)を見つけることの大切さを込めたわ。喜びをちゃんと見つけることができなければ前に進むことは難しいもの。喜びは回復力でもあるのよ。私は常に「自分の中のコップを満たすこと(fill my cup)」を心掛けているわ。今回、東京へ来て東京都庭園美術館で開催されていたルーシー・リー展を見に行く機会があり、本当に素敵だったわ。私は陶磁器が好きで、特に日本の陶芸が大好きなの。東京都庭園美術館での展示が素晴らしくて、美術館から出てくる時には喜びに満たされただけでなく、興奮もしていたし、とにかく素晴らしい経験ができたと感じたわ。その気持ちを私はずっと持ち続けると思うし、今後も私に活力を与え続けてくれるはずよ。現在、世界各地で起こっている悲しい状況、不当な行為や破壊などについて考えた時、私たちに前を向かせて前進する力をもたらしてくれるのはそんな喜びだと思うわ。それは子どもと過ごす時間だったり、美術や音楽と触れる時間だったりするかもしれないけれど、自分のカップを満たし続ける事が大事なの。自然の中に出向いて散歩したり、道を歩きながらセミの鳴き声を聞いたりすることもね。東京のような大都市の真ん中でセミの声が聞こえるなんて、ロンドンではできない経験よ。私たちは自分のカップを満たす努力をし続けなければならないの。それは健康に長生きするための秘訣でもあるし、抗議の声をより力強く、より長く発し続けるためにも大切なことだからね。『Keep You Close』は愛する人たちを守りたい気持ちを歌った曲よ。
『Hebron』はパレスチナの町の名前から取ったの。ヘブロンとは植民地化された後の名前で、元はアル・ハリールと言ったわ。イスラエル人が移り住んできたのがこの町で、次第にパレスチナ人たちを追放し始めたのよ。ヘブロンの大通り沿いの建物の高い階にイスラエル人たちは居を構えるようになり、低い階に住むパレスチナ人たちを抑圧するためにゴミを投げて彼らを虐げるようになったというの。そのためパレスチナ人たちは大通り沿いに鶏舎用の金網を張り巡らすようになったの。金網の下で暮らす生活なんて想像できるかしら?カゴに押し込まれているようなものよ。ヘブロンは、私の中ではイスラエルによるパレスチナの抑圧の象徴そのものと言えるわ。
ソウル・ウィリアムズが参加した『Axis』は、これまで西側諸国が中東諸国(南西アジアと北アフリカ地域)を指して「悪の枢軸」として敵視していたけれど、実際には悪の枢軸は西側諸国の政治家たちとその支配者たちだということを歌っているわ。そんな事実がいつの間にか作り上げられ、私たちはずっと騙されてきたのよ。リチャードの絵の中の老人は頭にクーフィーヤを巻いていて、見た目には西側の国々が悪人だと訴えるアフガニスタン人と同じように見えるけれど、その老人は孫娘の死を悼む心優しい穏やかな人物だったのよ。孫娘が亡くなった後、彼はおもちゃを集めて子どもや孤児たちに配って回るような人だったわ。
次の『Day’s Gon’ Come』は、報いを受ける日が必ず来ることを表現しているわ。殺戮に加担し過ちを犯した人々は必ず責任を問われることになる。若い世代はもうこれ以上ウソに騙されないわ。私たちは次の世代の人たちに必ず救われる。そうであると信じたいの。
『Listen』は群衆が手を取り合って協力することを歌っているわ。アルバム・タイトルの“Raise a Symphony”はこの歌のコーラス部分に入っているの。
『The Honourable』は腐敗した政治家をテーマにした歌よ。現在のイギリスの内務大臣、シャバナ・マフムードはパキスタン出身のイスラム教徒だけれど、かつては自らパレスチナを支持するデモ活動に参加していたの。それが政治家になり内閣に名を連ねたことで、逆にこうしたデモを取り締まる立場になってしまった。つまり人間は権力を手に入れた途端に、口をつぐんでしまうのよ。政治の腐敗は恐ろしいものだわ。そんな腐敗を歌った一曲よ。Honourableには高潔という意味があり、イギリスの政治家を指すときの敬称でもあるけれど、実際は高潔とは真逆ということね。
『Hollows and Grooves』は互いに優しくなろう、互いを理解しようという歌なの。パズルのピースのように、溝やくぼみがピッタリとはまり合うことを意味しているわ。私たちの中には人の面倒をよく見る人もいれば、他人に面倒を見てもらうことが多い人もいる。互いに優しさをもって接すれば、誰もが自分の場所を見つけられるのよ。
『Wishful Thinking』にはいろいろな意味が込められているわ。アルバムにこの曲を入れた時、私は大イスラエルを頭に思い浮かべていたの。イスラエルはヨルダン、シリア、エジプト、そしてもちろんパレスチナなど中東の多くの国々を手に入れたいと考えているわ。パレスチナだけでは満足しないのね。シオニズムの欲はやがて崩壊につながるわ。そう信じているの。
『Giving Thanks』。2023年の年末に私は足を骨折してしまったの。そしてデモなど抗議活動に参加できなくてイライラしていたわ。でも私が参加できない時に、雨の中でも冬の寒さの中でもデモ活動に参加していた人たちに対して私は感謝の気持ちでいっぱいになったの。彼らがパレスチナ支持のために私たちに代わり行進してくれたことにね。これは個人の自由という大きな犠牲を払ってまで、自分の主義・主張のために立ち上がる勇敢な人たちや組織に対し感謝を表明する一曲よ。自分にはできないかもしれないことだから。
『Peace. Love. Life』は説明する必要はないでしょう。
『After Home』は移民についての曲よ。この歌は家を失うことについて考えるものよ。環境難民、経済難民、戦争難民など国を離れる理由はいろいろある。もし自分や家族の安全のために急に家を後にしなければならなくなったとしたら?ヨーロッパの多くの国々は、そんな難民たちに対して「自国へ帰れ」「移民は送り返せ」と口を揃えているわ。国境はより固く閉ざされてしまい、そして人々は寛容さを失ってきている。ウォーサン・シャイア(Warsan Shire)という素晴らしい詩人がいて、彼女の詩の一節に「家に帰りたい、でも家は鮫の口だから、家は拳銃だから」という言葉があるの。ウォーサンは私の妹を通じて知り合った友人で、私も気づいたら彼女の詩を口にしていたわ。彼女の詩を歌詞に使用する許可を快く出してくれたので、この曲に引用しているの。もしあなたが急に家を追われたらあなたは何を持って逃げると思う?
── 想像できないけれど、何も持たないかも。家族と子どもを連れて逃げます。
Roba 私は携帯電話とパスポート、そして充電器かしら。難民となった人々が家から何を持ち出して逃げたかについて書かれた記事を読んだことがあるけれど、特に胸を打たれたのが子どもたちが学校の教科書を持って逃げてきたという事実だったわ。彼らはすぐに戻れると思って、普段からカバンに入れている教科書をそのまま持っていくのよ。勉強が遅れてしまわないためにね。もう二度と学校に通えないなんて考えもせずに。またガザでは、避難する家族の乗る車の屋根にベッドのマットレスや毛布が積み上げられている光景を見るわ。そして亡くなった人の遺体をくるむのに使われるのもその毛布なの。人々が難民に対して同情的な感情を持たないことに、とてもショックを受けたわ。難民が他国に逃れるのは理由があるからなのに。来たくて来るのではない、できれば家にいたいはずなのに。誰もが家にいたいと思うものよ。『After Home』はそんな曲よ。
『Sea Song』は船に乗って逃げる難民についての歌だわ。彼らは小型の船に乗り込んでようやく岸にたどり着いたのに、岸側では彼らを追い返そうとする人たちが待っているの。とても危険な航海を乗り越えて、航海の途中で命を落とす人もいるのに。死の恐怖から逃れるために難民になり、逃げるための航海でも死の恐怖に直面し、さらにようやく岸に着いてもどのような状況が待ち受けているか分からない。それでもその船に乗る選択肢しかないのよ。ほんの少しでも共感する気持ちを持てれば、と思うわ。他人への思いやりの欠如にビックリすることもあるわね。次の曲『With Care』はそんな歌よ。思いやりを持つことの大切さを表現しているの。少しだけでも互いに優しい気持ちを向けられたら、世界はもっと良い場所になるはずよ。
そして『Faith』は、未来を信じることを歌っているわ。

音楽と静寂、そしてこれから
── どれもとても深いメッセージですね。ロバさんはミュージシャンで音楽を生み出す仕事をしていますが、個人的にはどのような音楽を聴いていますか?
Roba そうね、ジャズをよく聞いているわ、ほとんどジャズ・ミュージックね。この後、Cotton Clubでサリバン・フォートナーのショーがあるから、チケットがまだあるなら聴きに行くべきよ。普段からよくジャズを聴きに行くけれど、実は最近陶芸にも夢中なの。陶芸を通して学んだことの一つが静寂、あれほど無音の静けさが心地よいと感じたのは初めてよ。頭の中を空にすることができて、とても興味深いわ。私にとって瞑想みたいなものね。なので、ジャズと静寂ね。
── 音楽に関わるようになったのはいつからですか?音楽は小さい頃から身近なものでしたか?
Roba そうでもなかったわ。私の母は子どもの頃よく歌っていたそうよ。でもより音楽好きだったのは父ね。ウンム・クルスームというエジプト人の有名な歌手がいて、父は彼女の歌から私の名前を付けたそうよ。幼い頃はエジプト人の歌手が歌うアラブ音楽を聴きながら育ったわ。大学に進学してからAttica Bluesというバンドに飛び込んでしまったの。大学では生物学と神経科学を専攻し、神経科学の修士号も取りながらAttica Bluesの活動を続けていたわ。Attica Bluesと出会わなければ、今も音楽制作の仕事はしていなかったでしょうね。人の人生なんて分からないものだわ!チャンスを与えられるって素晴らしいことね。
── 今後、ライブ活動などの予定はありませんか?特に日本ではいかがでしょう?
Roba 是非やりたいわ!今、新しいアルバムを作りたいと思っているの。そして何も制作しない期間を取るのもとても重要だと感じているわ。「休みを取る」ということではなく、例えば画家が次の絵を描くために創作のアイディアを探したり新たな情報を集めたりするための時間、というべきかしら。媒体を変えるということね。今回のプロジェクトをスタートさせた時、2つのプロジェクトを同時に構想していたの。1つは弦楽器を使ったオーケストラのアルバムを制作すること、そしてもう1つが今回のエレクトロニック・アルバムを制作することよ。なのでそのプランもまだ頭の片隅にあるけれど、今は自分のことに目を向ける時間を取りたいと考えているわ。
── Attica Bluesは伝説のレーベル、Mo’ Waxからリリースされたわけですが、Mo’ WaxやAttica Blues、ジェームスとの思い出などがあれば教えてください。
Roba もちろん楽しい思い出ばかりだわ!その頃、日本に来てヤスシ(RUSH!の高山康志)と会ったのもいい思い出よ。Mo’ Waxはとてもよかったわ。ジェームスとは今でもたまに会うわね。DJ Krushが2017年にロンドンのJazz Caféでライブを開催した時に、Attica Bluesとして久しぶりに一緒に演奏してとてもいい時間だったわ。Attica Bluesのトニーとはよく一緒に制作活動をしていて、いつかそれも発表したいと考えているの。トニーはアルバム“Habitus”のリリースを控えているわ。なので、Mo’ Waxは最高の思い出ばかりよ。
── Attica Bluesとしての活動で教えていただけることは何かありますか?
Roba トニーとチャーリーとは今もとても仲が良くて、よく会っているわ。でもチャーリーはとても忙しいのよ。彼はDJでもあり、ランナーでもあり、ランニング・チーム「Run Dem Crew」も主宰していて世界中を飛び回っていて、さらにLululemonのアンバサダーも務めているからね。なので、音楽を作る暇もないくらい忙しいわ。トニーと私は今ももちろん音楽活動を続けているし、トニーは若いアーティストをサポートするCDRの活動にも深く関わっているわ。素晴らしい活動よ。トニーの新しいアルバムには私も参加しているわ。
── 近いうちにまたロバさんの音楽を聴けるのですね。楽しみにしています。今日はありがとうございました。
Roba こちらこそありがとうございました!

『Raise A Symphony』
MidnightRoba
2025年11月7日リリース
Written & Produced by Roba El-Essawy
Mixed by Tony Nwachukwu
Mastered by Andy Baldwin, Metropolis
Cover Photography by Yosra El-Essawy
https://midnightroba.bandcamp.com/album/raise-a-symphony
