
サクラメントのスケートカルチャー、サンフランシスコの音楽シーン、ロサンゼルスでの家族との暮らし ── 。ソロ作『Lady Rae』を携え初の日本ソロツアーを行ったJosh Lippiにインタビューを敢行した。Tommy Guerreroとの活動や砂漠のプロジェクト「Los Days」、そして父親になったことで訪れた創作の変化について語るその言葉からは、“コミュニティと人生の延長線上にある音楽”への深い愛情が滲み出ていた。
サクラメント、サンフランシスコ、そしてロサンゼルスへ
── カリフォルニア州サクラメント出身とお聞きしていますが、サクラメントとはどんなところですか? どのようなカルチャーがあるんでしょうか?
Josh サクラメントは素晴らしい所だよ。家族はずっとサクラメントに住んでいる。小さな町の居心地のよさがあるね。子どもを育てる家族には最適な雰囲気で、親戚も多くいたよ。すごくクールで良い公園も多く、子どものころからよくスケートボードをしていた。そして地元の音楽シーンもとても活発で、子どもの頃から地元のバンドに大いにインスピレーションを受け、そのおかげで音楽を始めたのもとても早かったといえる。まだ未成年の頃から地元のバーで演奏したりしてたよ。サクラメントのダウンタウンにあるバーで演奏するようになったのは14歳くらいだったね。時間が来るまでメンバーと外で待たされ、出番になると中に入れてもらって演奏し、終わったらすぐに追い出されてたよ。






── その後、サンフランシスコに移り、今はロサンゼルスに住んでいますね。生まれ育ったサクラメントとは違う環境だったと思いますが、それぞれの都市を表現するとすれば?
Josh 僕にとってサクラメントは家族や子ども時代の象徴なので、家族や友人とゆったりとしたペースで過ごした場所だ。サンフランシスコで過ごしたのは20代~30代だったけど、クレイジーで楽しくてエキサイティングだったよ。カルチャーに溢れ、音楽に溢れ、どうやって大人になるかを必死に学んでいた時期だったと思う。そしてロサンゼルスでは、親になる方法を模索しているほか、他の2都市を組み合わせたような感じだね。自分の家族を育てながら、音楽、アート、カルチャーの世界での仕事も続けていて、自分なりのコミュニティを築きつつ、今の自分にしか作れない音楽を生み出しているよ。
── 早くから音楽を始めたといっていましたが、いつから始めたのですか?
Josh 音楽を始めたのは11歳の時で、まだミドル・スクールに通っていた頃、7年生(日本の中学1年生)くらいだったかな。仲の良かった友人たちとガレージで練習するガレージバンドを組んで、ロックンロールやパンクロック、グランジロックとか90年代の音楽を演奏していたね。ハイ・スクールに上がってからはもっと本格的なバンドに入って、ツアー活動を始めたりしたよ。大学に進学する頃にはバンドでの演奏経験もそこそこあったし、自分はプロのミュージシャンになると心に決めていたから音楽をしっかり学ぶことにして、音楽の学位を取得したんだ。だから僕は11歳からずっと音楽漬けの生活を続けてきたといえるね。
── ご家族にも音楽に関わる方がいるんでしょうか?
Josh 僕の家族は、音楽に関係のある人とスポーツ好きな人たちとの2つに分かれているんだ。母方の祖母は歌手だったし、おじはギター・プレーヤー、そしておばたちはピアノを弾いてた。特に祖母は素晴らしい歌手でオーケストラと歌ったりしていたよ。彼女はプロの聖歌隊の一員で、大きな教会で歌ったり世界中の聖歌隊と歌うツアーも回ったりしていたんだ。
── ご家族と演奏したことはありましたか? また一緒に音楽を制作した経験は?
Josh おじにはギターをよく教えてもらったね。ギターを始めたばかりの頃にね。そして祖母のために曲を作ったことがあったよ。ぜひ祖母に歌ってほしいと思って作ったんだけど、残念ながらそのチャンスはなく彼女は亡くなってしまった。でもその後、その曲を収録して発表したんだ。初期の頃に出したレコードに収められていて、『For Nana』というインスト曲で、僕はマンドリンで演奏しているよ。なぜマンドリンかというと、祖母の父がポルトガル出身でマンドリンを弾いていたからで、マンドリンでメロディを奏でる1曲だったよ。

『Lady Rae』と、父親になって生まれた音楽
── 3月に『Lady Rae』というアルバムを出されましたが、評判はいかがですか?
Josh とても好評だね。僕にとってはとても特別なアルバムで、娘の誕生によってインスパイアされて制作したんだ。つまり娘が生まれ父親になってからの1年半の間に作り続けてきた曲ばかりだよ。そしてその音楽は多くの人に共感されて、僕がこの数年Los DaysやTommy(Guerrero)たちと制作した作品ともうまくフィットしているようで、同じ世界観で存在できる音楽に出来たことはとても素晴らしいと感じているよ。そして何よりこのアルバムで世界中をツアーして回れることがとても嬉しいね。すでにヨーロッパ、日本、アメリカもツアーして、反応も素晴らしいものだよ。大作にしようと思って作ったアルバムではなく、自分のために、今の自分にしか作れないものとして作ったものだったけど、多くの人に喜んでもらえて演奏してほしいと言ってもらえることが嬉しいよ。
── このアルバムではバリトンギターを演奏しているんですね?
Josh ああ、すべての曲がバリトンギターだね。バリトンギターによるソロ曲だけが収録されているよ。

── ギターもベースも演奏されますが、何を演奏するのは好きですか?
Josh それぞれ楽器の良さがあるからね。僕が何を弾きたいかが重要なのではなく、その曲に必要な音が何であるかを大事にしてるよ。このアルバムでバリトンギターを弾いたのは、バリトンギターは音域が低いため、よりダークでムードある音が出せて、普通のギターよりもベース寄りの幅広い音が出せるから。アコースティック・ギターやエレキ・ギターとは異なる独自の音だからね。そんなユニークな手法を使いたかったからでもあるね。
── 父親業をとても満喫していることが伺えますし、その気持ちが音楽にも影響を与えているようですね。父親となったことで音楽性や創造性がどのように変化したと感じますか?
Josh 明らかに自分が作る音楽や、時間の使い方を意識するようになったね。そして音楽を作るうえで新しいコンセプト(概念)も得られたよ。僕はこれまで理論的・概念的にレコードを制作してきたんだ。例えばLos Daysでは砂漠の真ん中に身を置き、その環境から受ける影響が曲に表現されたりね。でも娘のために子守歌を作った時は、単純に娘のための曲を作りたいと思ったんだ。その時に「もしかしたらこの手法でいろんな曲を作ってアルバムにできるかも」と考えたんだ。同じように泣いてる子どもを寝かせようとしている親とか、疲れ果てて自分自身が寝たい人、リラックスしたいと思っている人、そんな人たちにとっても、娘を寝かしつける時みたいに人を落ち着かせる音楽になるんじゃないか、と思ったんだよ。娘が新しいアルバムのインスピレーションを与えてくれたわけで、そんな風に音楽を作れることに感謝している。娘のおかげで人生そのものをありがたく思えるよ。
── お嬢さんが成長するとともに、ご自身の音楽の概念や曲の作り方もどんどん変わっていくと思いますか?
Josh もちろんそう思うし、いつかは娘も創作活動に参加してくれることを願っているよ。今回のアルバムの1曲で、実は娘がピアノを弾いているんだ。「BambENO」という曲でピアノ曲なんだけど、初めて娘を膝に乗せてピアノの前に座った時に彼女が出した音なんだよ。僕はただ録音しながら、音が伸びるようにペダルを踏んでいただけ。娘の初めてのピアノ曲だね。生後6か月でピアニストとしてレコーディングを経験したってわけだ。今後、彼女はドラムをやりたいとか他の楽器を弾きたいというかもしれないが、成長していく彼女のエネルギーがその時々のステージに合った新しい音楽のインスピレーションとなることは間違いないだろうね。今から楽しみだよ。
ツアー、Tommy Guerrero、そしてLos Days
── 初となるソロの日本ツアーを終えられたばかりですが、どのようなツアーでしたか?今のお気持ちを教えてください。
Josh 本当に素晴らしい経験だったよ。RUSH!プロダクションのみなさん、そしてともに成し遂げてくれた浅井一哲氏に心から感謝しているよ。日本で出会えた人々は、僕にとってはかけがえのない人々だ。ツアーでは、実際に人がライブを観に来てくれるか確証はないからね。いつもはTommyやRay(Barbee)といった著名なアーティストと来日してライブをしてきたけど、僕一人のツアーでもたくさんの人がライブに駆けつけてくれて、音楽を楽しみ、レコードまで買ってくれたことは、本当に最高の気分だったよ!これ以上何も望むことはないね。
── 特に印象に残った会場や都市はありましたか?
Josh 回った全ての場所がそれぞれに素晴らしかったね!その中でも宮古島は美しいロケーションで、参加してくれた人たちも、プロモーターのみなさんも本当にアメイジングで、最高のエネルギーを味わえたよ。さらに妻のKyleがステージに上がって一緒に歌ってくれたのも、さらに特別な経験となったね。でも今夜のLittle Napでのライブも素晴らしいものとなるだろうし、岐阜も大阪も加古川も…とにかく全てが本当に特別なショーだったよ。日本でツアーすると思うことだけど、どの会場でもプロモーターもスタッフもみな温かく迎えてくれる。それぞれの会場の良さもあって、どの都市も特別なショーとなったよ。
── Tommy Guerreroについて聞かせてください。Tommyとはどのように出会って、一緒に演奏するようになったんでしょうか?
Josh Tommyと初めて会ったのは2007年か2009年頃だったかな?僕の所属していたバンドがTommyのバンドの前座をしていたんだ。僕も小さい頃からスケートボードをしてきたからもちろん彼のことは知っていたし、彼の音楽のファンでもあったよ。サンフランシスコに住んでいたからTommyのライブも観ていたし、逆にTommyも他のアーティストと演奏する僕を観てくれていたんだ。2014年にTommyがヨーロッパツアーに行ったんだけど、その時彼のバンドのベーシストが肩を痛めて参加できなくなり、Tommyが僕に声を掛けてくれた。それ以来ずっと一緒にやってきたよ。
── Tommyと一緒にヨーロッパや日本、アメリカをツアーして回ってきたわけですが、国によって違いはありますか?違うヴァイブがあるとか?
Josh もちろん国ごとに独特でユニークなヴァイブはあると思う。日本に来るのをいつも楽しみにしているけど、いろんな国を回れること自体がとても特別な経験だと感じているよ。好きじゃない国があるという言い方はしたくないけど、どの国でもいい経験もあれば嫌な経験もあるよ。嫌な経験をしてしまうと、例え何倍もの嬉しい経験があったとしても悪いことだけが思い出されるものだけど、それもいい思い出になると考えているよ。そのため、いろんな場所を訪れて演奏することができ、たくさんの人に出会えることがとても楽しいし貴重なことだと思うよ。より多くの人が同じように色々な人と出会って、自分たちと同じ人間であると感じられるといいと思っているよ。場所は違っても同じような人生を送っていて、互いの幸せを願って日々を過ごしていることを理解できれば、ってね。少なくとも、僕は多くの都市を回っていろいろな人の前で演奏することで、観に来てくれた人をその時だけでも楽しませることができて、本当に幸せなことだと思っている。それをいろんな国のより多くの都市でできれば、より良いエネルギーとポジティブな気持ちをさらに多くの人に広められると思いたいね。
── Tommyと「Los Days」というプロジェクトに取り組まれていますが、Los Daysについて教えていただけますか?
Josh Tommyと僕がともに取り組む「Los Days」は砂漠にインスパイアされるプロジェクトで、カリフォルニア州ジョシュア・ツリー国立公園にあるWonder Valleyの砂漠を拠点としているんだ。広い砂漠が続き、ハイウェイだけが延々と続くジョシュア・ツリー国立公園の近くに、Twentynine Palms(トゥエンティナイン・パームズ)とWonder Valley(ワンダーバレー)という小さな町があって、友人がそこにソーラーパワー付きの家を持っているんだ。そこにギターだけ持ってみんなで集まり、事前準備など何もなしでその土地と景色からのヴァイブを受けて曲を作るんだよ。年に一度ほど、そこで集まって1日に2〜3曲くらい作って、LAに戻って友人のMonte Vallierと一緒にスタジオで曲を仕上げてレコードを作る、そんなプロジェクトだよ。砂漠のサントラ音楽だね。
── いつからやっているプロジェクトですか?
Josh うーん、2018年か2019年かな?最初のレコードを出したのは2020年だったけど、作ったのは2018年だったと思う。レコードを出したのは2020年、2022年、2024年の3枚だね。
── 決まった季節に集まるんですか?
Josh あまり暑くない時期にね。砂漠は本当に暑くなるから、焼け焦げることなく砂漠の静けさを楽しめる時期かな。

── さらに「The Park」の活動もされていますね。The Parkについて教えていただけますか?
Josh The Parkは、古くからのミュージシャン仲間のDerek TaylorとBen Schweirと立ち上げたプロデュースグループ(Production Collective)だよ。現在はLAにスタジオを構え、他のアーティストたちをプロデュースしたり、他の収録スタジオでセッション・ミュージシャンとして演奏したりしてる。それぞれは違うアーティストにサポート・ミュージシャンとして世界各地をツアーして回ったり、3人でバンドとしてアーティストのバックバンドを務めることもある。彼らとは20年も前からサンフランシスコでヒップホップ、ジャズ、パンクなどあらゆるジャンルのバンドで演奏してきたが、いつも一緒だったよ。The Parkはプロデュース業を行う集団で、今も拡大しつつあるけど、様々なアーティストが加わっても中心にいるのは僕ら3人なんだ。
── Los Days、The Park、さらにはソロで活動もされているわけですが、それぞれ異なる活動と捉えていますか?それともすべて繋がっていますか?
Josh 全て異なる活動だけど、共通する部分もあり関わるクルーも同じ時もある。例えば、僕のソロ活動の時にThe ParkのメンバーやTommyが参加することもある。The ParkのセッションにTommyがゲスト出演してくれた時もあるし、みんなでレコードを制作したこともあるね。Los DaysでもRich Goodというミュージシャンが参加する時もあるよ。つまり、みんなコミュニティ(共同体)、友情、そして音楽制作という共通概念で繋がっているんだ。それぞれのプロジェクトでは違うジャンルや世界観を表現することもあるけど、要は気の合う仲間同士が垣根や境界を取っ払って、ともに音楽を生み出しているだけだね。
── Joshは自分でも音楽を演奏し、他のバンドのプロデュースも行い、ツアーで色々な場所を回っていますよね。一番好きな作業は何ですか?何が一番楽しいですか?
Josh 一つ一つすべてが好きで楽しいんだ。なぜならたった1つのことしかできなかったら、たぶん僕は飽きてしまうからね。だからいろんなことに取り組めることがいいんだと思う。プロのミュージシャンとして生計を立てることはとても難しいことだから、仕事としてミュージシャンを続けていくにはいろんなことが出来ないといけないし、その方が仕事の機会も増えるからね。今回のツアーが終わって明日LAに帰るけど、翌日にはサンフランシスコに移動して他のミュージシャンのライブに出る予定だよ。
── 帰国後すぐにサンフランシスコに行くほかに、今後の予定で教えていただけることはありますか?
Josh 5月にはTommyと2人でアメリカ国内をツアーで回り、6月にはヨーロッパに行くよ。そして7月には結婚する予定さ。
── 本当ですか?おめでとうございます。
Josh とても楽しみにしてるよ。他にもいろんなことがあるだろうけど、まずはそれを終えることからだね。
── 最後に日本のファンにメッセージをお願いします!
Josh 音楽を作り続け、自由な発想を忘れずに!そして変わらないサポートに感謝してるよ!
Keep making music, keep being creative, and thank you for supporting!
INTERVIEW: 井上美樹子 / Mikiko Inoue

Josh Lippi & The Overtimers / ジョッシュ・リッピ・アンド・ザ・オーヴァータイマーズ
Lady Rae / レディ・レイ
2026.3.18 digital release
Tracklist:
- Sienna’s Theme
- Which Onesie (ft. Tommy Guerrero)
- Milk Drunk
- Nap Time
- Just A Little Gas
- Every 3hrs (at 4am)
- Pumping (ft. Money Mark)
- bambENO
- Shhh, Don’t Wake the Yucca Man
- What Are You Looking At?
- Me & You & You & You
- Sienna’s Theme Reprise ft. TK Rhodes 日本ボーナストラック
