[音楽と〇〇]「全力で走れ、滑走路用意できてるぜ」 ── お笑い芸人・快児が音楽に救われた日

VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?

ピン芸人・快児。文化祭のコント台本を独りで書き上げていた中学時代から、ダウンタウンに憧れた青春、スピッツに恋した高校時代、そして肝硬変からの生還まで ── 芸歴のすべてに、なぜか音楽が寄り添っていた。お笑いと音楽、その意外な交差点について、じっくり語ってもらった。

快児(かいじ):本名・小山快児。1978年7月14日生まれ、兵庫県宝塚市出身。兵庫県立宝塚北高等学校卒、大阪芸術大学芸術学部舞台芸術学科中退。
ピン芸人としてNHK『爆笑オンエアバトル』、日本テレビ『エンタの神様』などに出演。R-1ぐらんぷり2013準決勝進出。芸人活動のかたわら舞台の作・演出も手がけ、相対音感を活かしてドラマ出演者への関西弁アクセント指導も行う。X、YouTube「快児ちゃんねる」、note、TikTokなどでも精力的に発信中。

文化祭のコント台本を独りで書いていた中学時代

VETHEL そもそも、芸人を目指したきっかけを教えてください。

快児 もう中三の頃から芽が出てたんですよ。文化祭ってあるじゃないですか。夜店みたいなのを出すクラスもあれば、舞台でお芝居やパロディをやるクラスもある。うちのクラスで「何をやるか」って話になった時点で、僕はもう持ち時間20分のコントの台本を書き終えてたんです(笑)。日直が「何かしたい人?」って聞いても、誰も手を挙げない。それで僕だけ手を挙げて「コントがしたいです」って言って、そのままコントに決定。自分が一番得意なことを考えたら、お笑いだったんですよね。人間って笑ってる時が一番幸せじゃないですか。人を幸せにできたら、させた側も嬉しい。しかも笑いを取るのって、泣かせるお芝居を作るより難しいって言われてる。一番快感があって、一番難しいものだから、挑戦したいなと思ったんです。

VETHEL 当時、目指していた芸人さんはいますか?

快児 最初はもちろんダウンタウンさんですね。ドリフから始まって、とんねるずさんやウッチャンナンチャンも見てましたけど、一番面白いのはダウンタウンさんだなと。松本さんが書いた『遺書』も読みましたし。

VETHEL 音楽の記憶についても伺いたいです。お笑いを目指した当時、よく聴いていた音楽は?

快児 スピッツです。僕、兵庫県の宝塚出身なんですけど、地元の高校に珍しく演劇科があって。その演劇科にいた女の子のことが好きになってしまって。まだ「ロビンソン」が出る前の話です。その子が「スピッツっていいんだよ」って言うから、「そんな人らいるんや」と思って、当時出てた5、6枚のアルバムを全部買いました。その子と喋りたい一心で(笑)。だから「空も飛べるはず」の方が、実は「ロビンソン」より前にリリースされてるんですよ。ドラマ『白線流し』で使われたから「ロビンソン」より後だと思われがちなんですけど。結局その子とは、話すところまでしか行けなかったですけどね(笑)。

ネタが降りてくる瞬間、そして肝硬変からの生還

VETHEL ネタ作りをしている時、音楽は聴く派ですか? それとも静かな環境派?

快児 「よし、ネタ作ろう」って思って作るタイプじゃないんです。何か降りてきた時に、バーッと書きまくるタイプ。あえてネタ作りの時間を作るとしたら、興味のない歌をかけますね。好きな曲をかけると、頭の中でその歌を歌っちゃうから邪魔なんですよ。興味ない曲なら、聴いても覚えてないし、歌詞も気にならない。

VETHEL ネタが降りてくるのは、どういう時が多いんですか?

快児 実は2ヶ月前まで肝臓が悪くて、寝起きに鬱っぽくなって3時間動けなかったり、頭の回転も記憶力も落ちてたんです。肝硬変になっていて……。そこから2ヶ月以上禁酒したら、昔のひらめきがどんどん戻ってきました。お酒を飲んでハイになって降りてくるんじゃなくて、お酒が抜けてからの方が調子がいいんです。バイト先のバーで立ったまま失神して倒れて……病院で血液検査したら、γ-GTPの数値が正常なら0〜79くらいのところ、僕は8884だったんです。「ゾロ目ちゃうんかい」と思いましたけどね(笑)。今は70日以上一滴も飲んでません。おかげで朝起きた瞬間から「今日は何しよう」って計画を立てて、どんどん実行できるようになりました。

「茜色の夕日」に救われた日

VETHEL 芸人になってから出会った音楽で、考え方に影響を受けた曲はありますか?

快児 フジファブリックの、志村さんが生きていらっしゃった頃の「茜色の夕日」です。「東京の空の星は見えない」と言われて育ってきたけど、見えないこともないんだな、という曲で。『エンタの神様』に出るまで、僕はずっと「東京の空は薄くて星も見えないな」って思ってたんです。でも出た後、「あれ、ちょっと見えるんちゃん?」って感覚が自分に来て。もやがかかってる時もあるけど、かすかに星が見える瞬間がある。それでまた雲が濃くなって見えなくなったりもするんですけど。R-1グランプリの準決勝まで行った時も、「かすかに星見えてる」って思えました。

VETHEL テレビに出ると、お仕事の入り方も変わるものですか?

快児 変わりますね。『エンタ』に出た直後から地方営業がすぐ入りました。テレビに出たことのない芸人の営業単価に比べて、民放に一回でも出ると倍くらいになるって言われてます。

VETHEL ところでお笑いと音楽って、似てるなと思う瞬間はありますか?

快児 リズムはどちらも大事だと思います。ただ、お笑いの生の単独ライブって、観客席500人くらいが上限なんです。多くても900人とか。1,000人以上の前で単独ライブをやる芸人っていない。ラーメンズでも一公演の最大が900人でした。だから音楽の方が圧倒的に、たくさんの人を一度に楽しませることができる。今考えると、音楽をやっておけばよかったなとも思うんです。中学の頃から全部の力を音楽に捧げてたらどうだったかな、って。お笑いだと単独で3,000人ホールとかやったら、ちょっとした仕草とか表情が伝わらなくなっちゃうんですよ。言ってること自体の面白さは伝わっても、身体を使った部分や表情は伝わらない。そこが音楽とは圧倒的に違いますね。

音楽的な芸人とは ── 「リズムを外す」という高度な技術

VETHEL 「この人、お笑いのセンスが音楽的だな」と思う芸人さんはいますか?

快児 レギュラーさんかな。あるあるネタって、単位というか、リズムがあるんですよ。俺が一番好きだったのは「ババアがジジイを抑え込む」ってやつ(笑)。あと、あえていいリズムを崩そうとしてるのが、永野さん。例えば「くわばたおはらがおったら、そこはもう大阪や」っていうのは、それだけでいいリズムなのに、それをあえて聞こえないような早口で言ったり、テンポを無視したりする。あれはすごく高度なことをやってると思うんです。逆に気になっちゃうというか、「今ちゃんと言わなかった」って引っかかりが残る。あれも音楽的だと思いますね。

VETHEL 快児さんは相対音感があるそうですね。

快児 絶対音感ではないんですけど、この音とこの音、どっちが高いかはわかるんです。絶対音感を持ってるパーマ大佐さんに「快児さんは相当高音感がありますね」って言われました。東京に来て28年になるんですけど、関西弁のアクセントを一度も間違えたことがないんです。だいたいの人はちょっとずつ東京弁っぽくなっていくものなんですけど、僕は一回でも間違えたら反省して直すので、絶対に染まらないんですよ。その相対音感を活かして、ドラマに出演する役者さんへの関西弁のアクセント指導もやっています。ある大御所俳優さんの方言指導をした時、それまでの指導者が感情を込めて演技っぽく読んだのが逆に気に入らなかったらしくて。僕は棒読みでセリフを録音したら、それが気に入られたということもありました。

快児が今、聴いてほしい3曲

VETHEL 最後に、VETHEL読者にぜひ聴いてほしい3曲を教えてください。

快児 1曲目は、さっき話したフジファブリックの「シュガー」。「全力で走れ、全力で走れ」ってサビがあって、実は僕、鬱になった時にこの曲で立ち直ったことがあるんです。シングルの初回限定DVDに、地元の富士五湖文化センターでのライブ映像が入っていて。志村さんのMCが忘れられなくて。「のほほんと音楽やってるみたいだけど、ちゃんとミュージシャンで、今日このライブができてよかった」って話した後、「お客さんを呼ばずに、フジファブリックのファンだけでこの富士五湖文化センターをいっぱいにする」という目標が達成された、という報告をするんです。それを聞いた後、18歳の時に初めて作った曲「茜色の夕日」を歌い始めるんですけど、途中で志村さんが泣いてしまって歌えなくなる。僕もその映像を見て泣きました。

2曲目は、Suzumushiさんの「夢追い同盟」。最近TikTokで少し話題になってるんですけど、つい最近知り合いになったんです。「もっとお客さん入ってええやろ」って思うくらい、いい曲。

3曲目は、筋肉少女帯の「くるくる少女」。歌詞がいいとか曲がいいとかいう理由より、とにかく聴いてて気持ちいいんです。狛江のラジオに月一で出演していた時、僕が出てくる場面で必ずこの曲がかかっていて。自分の出囃子みたいに思ってます。

先日48歳になったんですけど(取材時)、決めたことが3つあります。1つは「取らぬ狸の皮算用をしない」。実現してもいないのに「こんだけ儲かる」とか考えない。2つ目は「一喜一憂しない」。いい時もそこまで喜ばず、嫌な時もそこまで凹まず、平行に生きたい。そして一番大事にしてるのが「絶対に有言実行にする」ということ。口に出してたら叶うこともあるんです。さっき話したSuzumushiさんの「夢追い同盟」も、TikTokで流れてきたのを聴いて泣けてきて「ええな」と思って、知り合いのラジオDJに勧めたんです。それが東京の有名なFM局でオンエアされて、本人たちが「緊急で動画を回してます」って喜んでくれて。今ではXでも繋がって、友達みたいな関係になりました。あれも、言葉にしなかったら起きなかったことだと思うんです。で、有言実行かどうかは謎なんですけど、筋肉少女帯が好きだと公言していたら、ある日ロフトプラスワンのトークライブに誘われて、階段で偶然すれ違った大きな人がニット帽を取って「大槻ケンヂと申します」って自己紹介してきたこともありました。全然狙ってなかったのに、本人と20分以上話す機会があって。人伝いじゃなくても、思いを口に出してた方が、実現する力は絶対強まると僕は思っています。

Interview & Text : VETHEL

快児 出演情報

8月20日(木)@ラスタ池袋
ラスタ池袋昼寄席 開演16時45分

8月23日(日)@なかの芸能小劇場
なかのya@ライブ 開演14時

8月25日(火)@新高円寺STUDIO
マサシンライブ番外編OWARAIDOL Vol.16 開演19時

9月6日(日)@西荻BETTY ROOM
声彩フェス 開演13時

9月20日(日)@バーzeyoQ
快児大喜利塾 開演17時15分

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