
このコラムでは、毎回一つのコーヒー銘柄にスポットを当て、その魅力とともに、そのコーヒーに合う、あるいはそのコーヒーからインスパイアされた音楽を10曲ご紹介します。コーヒーを淹れる時間、そして音楽に身を委ねる時間。どちらも私たちに豊かな癒しと活力を与えてくれるものです。この連載が、皆さんの日常に少しでも彩りを添えることができれば幸いです。
初回となる今回、選んだコーヒーは、深く、そして多層的な香りが魅力の「マンデリン」です。
マンデリンと聞いて、多くの方がその独特の深いコクと香りを思い浮かべるのではないでしょうか。マンデリンは、インドネシアのスマトラ島北部、トバ湖周辺で栽培されているアラビカ種のコーヒーです。この地域の熱帯雨林気候と肥沃な火山灰土壌が、マンデリン特有の風味を育んでいます。
一般的に、マンデリンは「スマトラ式(ウェットハル)」と呼ばれる独特の精製方法が用いられます。これは、収穫されたコーヒーチェリーの果肉を除去した後、パーチメントコーヒー(生豆を覆う薄皮がついた状態)のまま半乾燥させ、再度脱穀して乾燥させるという手間のかかる方法です。この製法によって、マンデリン独特のアーシーな香りと、ハーブやスパイスを思わせる複雑な風味、そしてとろりとした舌触りが生まれます。
一口飲むと、どっしりとしたボディと、ナッツやチョコレートのような甘み、そして後味に長く続くスモーキーな香りが広がります。苦味の中にもしっかりとした甘みを感じられるため、ブラックでじっくりと味わうのはもちろん、ミルクを加えてもその個性が際立ち、深みのあるカフェオレを楽しむことができます。
マンデリンに捧げる10の音楽
マンデリンの深く、そしてどこかミステリアスな魅力に触れると、広大な自然や異国情緒あふれる風景、そして人間味あふれる力強いサウンドを聴きたくなります。そこで今回は、マンデリンが持つ「大地」や「自然」、そして「アジア」の要素をテーマに、さまざまなジャンルから10曲を選んでみました。
インドネシア民謡「Rasa Sayang」
マンデリンの故郷、インドネシアの代表的な民謡です。陽気でリズミカルなメロディは、インドネシアの豊かな自然と人々の温かさを感じさせます。マンデリンの持つ大地のような力強さと、そこに息づく生命力を表現する1曲目として選びました。
David Bowie「Ashes to Ashes」
ボウイの深く、そしてどこかミステリアスな世界観は、マンデリンの複雑で多層的な香りと共鳴します。特に、内省的な歌詞と重厚なサウンドは、マンデリンをゆっくりと味わう時間に寄り添ってくれるでしょう。
Ella Fitzgerald「Summertime」
マンデリンの持つ重厚さとは対照的に、この曲は穏やかで心地よい夏の空気を感じさせます。しかし、エラの歌声の深みとジャズの持つ自由な雰囲気は、マンデリンが育まれた豊かな自然の情景を思い起こさせ、意外な相乗効果を生み出します。
Santana「Samba Pa Ti」
サンタナのギターが奏でる情熱的でメロディアスな旋律は、マンデリンの持つエキゾチックな魅力と見事にマッチします。瞑想的でありながら力強いこの曲は、マンデリンの複雑な風味をより深く感じさせてくれるはずです。
Norah Jones「Come Away With Me」
しっとりとしたノラ・ジョーンズの歌声とシンプルなピアノは、マンデリンの持つ落ち着いた雰囲気にぴったりです。雨の日に窓の外を眺めながら、マンデリンとともにこの曲を聴けば、心が穏やかになることでしょう。
Louis Armstrong「What a Wonderful World」
マンデリンの持つ大地の恵みを感じさせる風味は、この曲が歌い上げる「素晴らしい世界」というテーマと深く結びつきます。ルイ・アームストロングの温かい歌声は、マンデリンの温かみのある苦味と甘みに通じるものがあります。
Jeff Buckley「Hallelujah」
ジェフ・バックリィの繊細かつ力強い歌声は、マンデリンの持つ奥深さと共通する感動を与えます。この曲が持つ神聖で荘厳な雰囲気は、マンデリンの独特の風味をより高尚な体験へと昇華させてくれるでしょう。
Ismail Marzuki「Indonesia Pusaka」
再びインドネシアの楽曲から。この曲は、インドネシアの美しい自然と文化を称える、愛国心のこもった名曲です。マンデリンが育まれた土地への敬意を込めて選びました。静かに、そして力強く流れるメロディは、マンデリンの背景にある豊かな歴史を感じさせてくれます。
Eddie Vedder「Guaranteed」
広大な自然の中を旅する主人公の姿を描いた映画『Into the Wild』のサウンドトラックから。マンデリンのアーシーな風味は、まさに大自然の中にいるかのような感覚を与えてくれます。エディ・ヴェダーの素朴で力強い歌声が、その世界観をさらに深めます。
Simon & Garfunkel「The Sound of Silence」
マンデリンの深い味わいをゆっくりと堪能する時間には、静かで思索的な音楽が合います。この曲の持つ詩的な雰囲気と、アコースティックギターの音色は、マンデリンの複雑な香りを紐解くのに最適です。
マンデリンと音楽が織りなす至福のひとときを
マンデリンの深く複雑な風味は、聴く音楽によってその表情をさまざまに変えてくれます。皆さんもマンデリンを片手に、このプレイリストを聴いてみてください。芳醇な香りが立ち上るカップを口に運び、深みのある苦味と甘みが舌の上でとろけるその瞬間に、音楽が静かに、あるいは力強く寄り添い、五感を刺激する至福の体験が生まれるはずです。

リトル・パウ:音楽が生活の中心にあるライター。日々の暮らしの中で、音楽をより豊かにしてくれる素敵なものとの出会いを大切にしています。コーヒー、ウイスキー、そして猫が好き。これらは私の創作活動に欠かせないインスピレーションの源です。心に響く音色とともに、皆さんの日常に彩りを添える情報をお届けできたら幸いです。