
オランダの鬼才、ROSTO(ロスト)。グラフィックノベル、音楽、映像が交差する唯一無二の世界観で知られ、国際的に高い評価を得ながらも、日本ではまだその名を知る者は少ない。そんな彼の遺作となる『四つの悪夢(THEE WRECKERS TETRALOGY)』と、彼の創作人生を追ったドキュメンタリー『すべてが変わったようで、何も変わっちゃいない』が、特集上映<存在証明>として公開されることが決定した。8月16日(土)より、東京・シアター・イメージフォーラムにて先行上映、その後全国順次公開となる。
アートと音楽が交錯するROSTOの幻想世界
ROSTOは、1990年代初頭から自身のスタジオ「ROSTO A.D’s」を拠点に活動。短編映画「アングロビリー・フィーバーソンの興亡」(2002)と「ジョナ/トムベリー」(2005)は、カンヌ国際映画祭をはじめ数々の映画祭で受賞を重ね、世界中で称賛された。これらはすべて、オンラインで展開されていたマルチメディア・プロジェクト『Mind My Gap』の一部であり、映像、音楽、グラフィックノベルが緻密に連携した試みは、当時としては画期的なものであった。
その後、ROSTOはかつて所属していた幻のパンクバンド〈THEE WRECKERS〉を“黄泉の国”から呼び戻し、存在しないレコードのためのミュージック・ビデオとして、4部構成の短編群『THEE WRECKERS TETRALOGY』を制作。2008年から2018年にかけて、実に15年の歳月を費やして完成させた。
本作は、2019年に病に倒れたROSTOにとって遺作となった。没後、盟友であり『ユニコーン・ウォーズ』『LOGORAMA』などのプロデューサーであるミハエル・シュマーキンが中心となり、四部作を『四つの悪夢』として再編集。ドキュメンタリー作品とともに、ヨーロッパ各地で追悼上映が行われた。

押井守が“境界賞”を授与、宇多丸も驚嘆
『四つの悪夢』は第1回新潟国際アニメーション映画祭でも上映され、審査委員長を務めた押井守が、そのジャンルを超越する表現力に深く共鳴。「境界賞」を授与したことも記憶に新しい。また、同映画祭を視察したラッパー/ラジオパーソナリティの宇多丸が、ラインナップの中でこの作品のサムネイルだけ異質すぎて思わず二度見した、というエピソードも語られている。
幻のバンド〈THEE WRECKERS〉とは何者か?
〈THEE WRECKERS〉は1990年代に実在したオランダのパンクバンド。活動停止後も、その存在はROSTOの創作の中で変化を遂げる。『Mind My Gap』内では“存在しない映画のサウンドトラック”としてバンドが蘇り、映像と音楽の境界を曖昧にする「音楽映画」ならぬ「音楽のような映画」が生まれた。今回の『四つの悪夢』では、それぞれの短編がオリジナル曲とともに展開され、幻想的かつノイジーな旅路が描かれていく。

特集上映<存在証明> 詳細
上映作品:
●『四つの悪夢(THEE WRECKERS TETRALOGY)』
“No Place Like Home”(2008)
“Lonely Bones”(2013)
“Splintertime”(2015)
“Reruns”(2018)
(2020年/仏・蘭/DCP/英語・日本語字幕/45分)
●ドキュメンタリー
『すべてが変わったようで、何も変わっちゃいない』
(2020年/仏・蘭/DCP/英語・日本語字幕/20分)
監督:ジョアン・コスタ&ローベン・グラディセン
出演:ROSTO、THEE WRECKERS
公開情報:
8月16日(土)より、東京・シアター・イメージフォーラムにて先行公開。その後、全国順次公開予定。

“万人にはすすめられない、でもはまる人ははまる”
今回の上映を企画するのは、海外アニメーションの秀作を数多く紹介してきたリスキットの新レーベル〈Riskit Black Label〉。本レーベルは、「ユニコーン・ウォーズ」のアルベルト・バスケス監督、「ギムリ・ホスピタル」のガイ・マディン監督ら、強烈な個性を持つ作家を日本に紹介してきた。ROSTOの作品は、その系譜にふさわしい“アートと狂気の結晶”と言えるだろう。
アヌシー国際映画祭で話題となった地獄アニメ『Swallow The Universe』のNIETO監督作品など、今後のラインナップにも注目したい。