
大阪・関西万博が進行する今、かつて1970年の大阪万博に対し真っ向から異を唱え、国家と資本に肉体で抗ったアート集団〈ゼロ次元〉が再び注目を浴びている。彼らの思想と実践を一冊にまとめた決定版『反万博の思想 加藤好弘著作集』(細谷修平編/河出書房新社)が、2025年5月27日に刊行された。
本書は、〈ゼロ次元〉の創設者であり、戦後前衛芸術の異端児として知られる加藤好弘の著作、記録写真、図版、ポスターなどを網羅したものである。その芸術表現は単なるパフォーマンスではなく、肉体をメディアとしたアジテーションであり、同時代の社会への痛烈な批評でもあった。
美術批評家・椹木野衣は「大阪万博の大屋根リングは、ゼロ次元の『0』の亡霊かもしれない」と語り、森美術館館長・片岡真実、戦後日本前衛美術研究家・黒ダライ児らもその意義を称賛している。


「万博破壊」を掲げた異端のアート運動
ゼロ次元は1963年の元旦、名古屋市で「はいつくばり行進」と称するパフォーマンスを敢行。以後、全国で“儀式”と呼ばれる肉体表現を繰り返し、路上や劇場、そして時に万博会場そのものを舞台とした。
中でも1970年の大阪万博を前に、〈ゼロ次元〉は〈告陰〉などの仲間と共に「万博破壊共闘派」を名乗り、裸身のパフォーマンスや街頭での抗議活動を実行。これにより公然わいせつ物陳列罪でメンバー7名が逮捕されるなど、その行動はたびたび物議を醸した。
同時期に活動した〈ハイレッド・センター〉が「東京ミキサー計画」などで知られ美術史に組み込まれていく一方、ゼロ次元は即興性、暴力性、政治性の強さゆえに長らく正統な評価を得ることはなかった。
しかし2000年代以降、椹木野衣や黒ダライ児らによる再検証が進み、彼らの活動が戦後日本のカウンターカルチャーにおいて極めて重要な位置を占めていたことが明らかになる。街頭を舞台とした儀式は、まさに美術・演劇・映画・政治の境界を突き崩すものであった。


「日本的身体」とアナキズムの交差点として
本書には、加藤好弘の執筆したマニフェスト、対談、そしてパフォーマンス時の記録写真が豊富に掲載されており、その中には「万博粉砕ブラック・フェスティバル」や「都電首つり蒲団チンチン送儀」など、数々の衝撃的なイベントが記録されている。
加藤が打ち出したのは、単なる反体制ではなく、日本的身体観とアジア的思想を背景としたラディカルなアートのあり方であった。現代の「万博」への疑義が再燃する今こそ、その思想はより強い説得力を持って読み返されるべきであろう。
政治と芸術の境界を踏み越え、肉体の叫びを通して世界に楔を打ったゼロ次元。『反万博の思想』は、そんな彼らの軌跡を今に伝える、まさに“儀式”の書である。
書籍情報
書名:反万博の思想 加藤好弘著作集
編者:細谷修平
発行:河出書房新社
発売日:2025年5月27日
判型:A5/ページ数:本文272頁+図版32頁
