
ヨーロッパのジャズシーンにおいて、ひときわ異彩を放つ存在がいる。ブダペスト発のトリオ Jazzbois。ジャズとヒップホップ、そしてビート・カルチャーを横断する彼らが、新作『Montreal』をリリースする。
これは単なるライブ盤でも、スタジオ作品でもない。
“その瞬間”を、そのままパッケージした一枚だ。
モントリオールで刻まれた、一度きりのセッション
本作は2025年6月、世界最大級のジャズフェスティバル Montreal Jazz Festival 出演のタイミングで制作された。舞台はカナダのスタジオ「Fast Forward」。映像監督 Rémi Hermoso の提案により、少人数の観客を招いた特別なレコーディングが行われた。
結果は驚くべきものだった。
全5曲、ノーカット、ノーオーバーダブの一発録り。
予定されていた4時間のセッションは、濃密な集中の中で一気に収束。編集も修正も一切なし。そこに刻まれているのは、演奏というより“出来事”に近い、生々しい音の連なりだ。
即興が導く、ジャズとビートの交差点
Jazzbois の真骨頂は、即興性とグルーヴの絶妙なバランスにある。ベース、キーボード、ドラムというミニマルな編成でありながら、彼らのサウンドはどこまでも自由だ。
ジャズの語法をベースにしながら、ヒップホップ由来のビート感覚が深く根を張る。流動的なテンポ、揺れるリズム、そして瞬間ごとに形を変えるメロディ。すべてがリアルタイムで生成され、消えていく。
それは“完成された楽曲”というよりも、“生成し続ける音楽”だ。
世界が注目する理由
彼らの評価はすでにヨーロッパを越え、世界へと広がっている。
Gilles Peterson はその活動を高く評価し、Jamie Cullum もまたその音楽性を称賛。さらに海外メディアからは、Herbie Hancock のような鍵盤、Thundercat を想起させるベース、そして J Dilla 的なスウィングを併せ持つ“現代的メルティングポット・ジャズ”と評されている。
ロンドンの〈Jazz Café〉や〈Village Underground〉、アムステルダムの〈Melkweg〉といった名門ヴェニューをソールドアウトさせてきた実績も、その評価を裏付けるものだ。
「パッションの記録」としてのアルバム
ベーシストのViktor Ságiは、この作品をこう語る。
それは音楽であると同時に、カルチャーであり、そして人とのつながりの記録だと。
実際、『Montreal』に収められているのは、完璧に整えられた演奏ではない。むしろ、不完全さや揺らぎすら含めた“リアル”そのものだ。
だが、その揺らぎこそが、音楽を生きたものにする。
その場にいた空気、熱、視線――すべてが音に封じ込められている。
今、この瞬間のジャズ
ストリーミング時代において、無数の音楽が均質化されていく中で、『Montreal』は明確に異なる方向を指し示す。
編集されないこと。
磨きすぎないこと。
そして、その場で起きたことをそのまま差し出すこと。
Jazzbois がこの作品で提示するのは、“いま、この瞬間にしか存在しない音楽”の価値だ。
それは録音でありながら、同時にライブであり続ける。
『Montreal』は、そんな矛盾を抱えたまま、静かに、しかし強く響き続ける。

【作品概要】
アーティスト: Jazzbois(ジャズボーイズ)
タイトル: Montreal
ジャンル: ジャズ / ヒップホップ / フュージョン
収録曲:
Raindance
Butterfly
Narctis (Prelude)
Narctis
Kulka (Windmills of Your Mind)
Song of Hope
Kulka (Easy space version)
メンバー:
Viktor Sági(ヴィクトル・サギ):ベース
Bence Molnár(ベンツェ・モルナール):キーボード
Tamás Czirják(タマス・チルヤーク):ドラム
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