
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?
応援歌が自然発生的に広まり、ファン同士の熱狂が渦を巻くスタジアム。その光景は、まるで巨大なライブ会場のようだ。外資系IT企業に勤める一方で、イングランドのフットボール文化に魅了され、現地にも通う小須田一磨さんは、サッカーを“音楽のような体験”として捉えている。グリーン・デイとの出会いから始まった音楽遍歴と、リヴァプールFCへの傾倒が重なった先に見えてきた、音楽とフットボールの交差点とは?

ファンの一体感を観て、直感的に惹かれるものがありました
VETHEL 小須田さんは、現在どんなお仕事をされてるんでしょう?
小須田一磨 普段は外資系のIT企業で、日本のお客様向けに技術的なサポートをしています。
VETHEL フットボールは全く関係ない?
小須田一磨 フットボールも音楽も全然関係ないですね(笑)。
VETHEL そもそもフットボールにハマったきっかけは?
小須田一磨 2010年に、たまたま深夜にリヴァプールFCの試合を観て……試合内容も良かったですし、あのスタジアムが揺れるような熱狂と、ファンの一体感を観て、直感的に惹かれるものがありました。
VETHEL 小さいときからサッカーをやっていたとかは?
小須田一磨 未経験です。学生時代は野球をやっていて、基本野球しか興味なかったんですけど、2010年にワールドカップ南アフリカ大会があって、野球の仲間もワールドカップの話題で盛り上がったりしていて……
VETHEL んじゃ観てみるかみたいな?
小須田一磨 そうですね。そのワールドカップ自体は流れに乗り遅れてあまり見ていなかったのですが、ワールドカップの後にリヴァプールFCの試合を観てハマった感じです。
VETHEL 野球の楽しさと全然別じゃないですか?
小須田一磨 全然別ですね。
VETHEL フットボールのどこが刺さったんですか?
小須田一磨 一番は熱狂具合ですね。ファンの盛り上がりを観て、私もその一員になりたいなと。ゴールが決まったら盛り上がるみたいなのもわかりやすいですし。スポーツには何でも熱狂があるかもしれないけど、たまたま自分はフットボール、リヴァプールFCに惹かれました。
VETHEL いわゆる野球の応援スタイルとは違う熱狂具合を感じた?
小須田一磨 野球を観るのも好きですが、雰囲気は違いますね。野球は応援団がいて、ラッパや太鼓で応援を先導していて統率が取れてるんですけど、イングランドのフットボールチームは多くの場合、応援団がないんです。自然発生的に観客が応援歌を歌ったり手をたたいたりします。シラけるときはシラけますし。盛り上がるときは自然とスタジアムが一体になってものすごい熱狂が生まれるので、高揚感があります。
VETHEL そこからは、フットボールを見に現地に通われてるとか?
小須田一磨 そうですね。年に3回のペースで現地に通っています。一時期はリヴァプールに留学して毎試合スタジアムに行っていました。
VETHEL どっぷりはまっちゃった?
小須田一磨 どっぷりですね。もう抜け出せないという感じ(笑)。
VETHEL ここのところ野球観戦はしてない?
小須田一磨 しました! つい最近、海外のリヴァプールのファンの友人が旅行で日本に来て、やっぱり日本と言えば野球だよねってことで一緒に東京ドームに行ってきました。その友達はプロ野球の応援団の演奏やファンの応援歌を聴いて感動していました。野球の応援も素敵ですね。

ファンが勝手に応援歌を作って勝手に盛り上がっちゃうリヴァプールスタイルが好き
VETHEL 一方で音楽遍歴を教えていただきたいんですけど、小さいころからどういう音楽を聞いてきましたか?
小須田一磨 小さいころは全然音楽を聴いていませんでした。高校生のときに、YouTubeでグリーン・デイのライブ映像を観てかっこいいなと思って、そこからですね。大学でバンドサークルに入って本格的に演奏もするようになって、こちらもどっぷりハマっていきました。
VETHEL そこからパンクロック方面に?
小須田一磨 グリーン・デイにハマった後は、パンクばっかりというわけでもなかったですね。彼らがカバーしているアーティストを聴くことが多かったです。クイーンとか、ザ・フーとか、ザ・クラッシュとか ── 彼らもパンクですけど ──そこからさらに昔のアーティストに興味を持つようになったりしました。
VETHEL ちょっと抽象的な質問ですけど、フットボールを観るときには頭の中で音楽は鳴ってますか?
小須田一磨 フットボールを観るときはチャントといういわゆる応援歌を、頭の中というより実際に歌っています。テレビで観るときにはそのチャントがずっと頭の中で鳴っていますね。チームのチャントを歌うこともあれば、選手がいいプレーしたらその選手のチャントを歌ったりとか

VETHEL チャントってCDが出てたりするんですか?
小須田一磨 有名なものはアーティストがカバーした音源が出てたりもします。でも初めは基本的に口コミ(笑)。チャントはクラブが作っているわけではないので、ファンの間でこんな感じでいいじゃん!って作って、それが口コミで広まってスタジアムで歌われるんです。それを現地で聞いて覚えたり、様子がYouTubeやSNSに投稿されてもっと広まったりって感じですね。
VETHEL 誰が言い出しっぺ?
小須田一磨 いろいろありますが、ファンがパブでノリで作っちゃうなんてことも多いです。それがだんだん広まってスタジアムで何万人も歌えるようになるんだから、すごいなあと思います。だいたい有名な曲の替え歌ですね。ビートルズの曲が元ネタだったりとか、イギリスに限らずアメリカのバンドの曲が元ネタになったりとか。
VETHEL 小須田さんはそれ基本を全部覚えている?
小須田一磨 逐一キャッチアップしてほぼ(笑)。

VETHEL ちなみにシーズンごとに流行の歌が変わったりするんですか?
小須田一磨 変わりますね。活躍する選手のものが頻繁に歌われたり、退団した選手のものが歌われなくなったりってことももちろんあります。あとはクリスマスの時期にはそれにちなんだチャントが流行ったりとかも。一方でそういうの関係なくただ曲が良くて流行ったりもします。対象の選手が出ていないのに曲が良いから楽しくてたくさん歌っちゃったりとか(笑)、この歌を歌ってると気持ちいいよね、っていうのがあるとそればっかり歌ったりしてますね。応援の意味もありつつも、誰かが口ずさみ始めると皆自分たちが楽しくて歌っちゃうって側面もあるので、面白いですね。応援団が率いていると試合と関係ないチャントを歌うことはあまりないと思うので、こうやってその場のノリで盛り上がるのもイングランドのフットボールらしさなのかなと思っています。
VETHEL スペインやフランスはない?
小須田一磨 スペインやフランス、イタリアなど欧州の他国のチームとのアウェイの試合を観に行ったことがありますが、応援の雰囲気はイングランドと全然違いますね。ヨーロッパの他国のチームの多くは応援団がいて、拡声器や太鼓を使って応援の指揮を執っていました。やり方としては、日本のプロ野球やJリーグに似てる。あとはスタイルの違いで言うとイングランドだとチームのレプリカユニフォームを着ていないファンが多いのに対して、ドイツやイタリアのチームのゴール裏(応援席)は皆ユニフォームを着て一色に染まっていたりなど。統率がとれていてすごいなあと思います。私はファンが勝手に応援歌を作って勝手に盛り上がっちゃうイングランドというかリヴァプールスタイルが好きです(笑)。
VETHEL それってイングランドは応援団を作らなくても、行く人が全員応援団みたいな感じしますね。心持ちとしてはどうなんでしょうね。
小須田一磨 私の感覚だと、良くも悪くもフットボールを“娯楽”として捉えているファンが多いんじゃないかなと思ってます。ガチガチ縛られた中で応援するってより、応援もするし自分たちも全力で楽しむみたいな。
VETHEL 次はこの曲を歌うぞじゃなくて、自然発生的にワーッてなる?
小須田一磨 そうですね、次これとかは無くてあくまで場面とノリで自然発生。
コーナーキックの時はよくこういうコールするとか何となくはあったりしますが、それも誰かが決めたわけではなく何となく現場出来上がってきたノリで、染みついたものが自然と口から出るって感じですね。
VETHEL パブで飲んでワイワイしてるのをそのままスタジアムで……。
小須田一磨 まさにそういう感覚だと思います。戦いのつもりでピリピリした気持ちで行く人もいると思いますけど、僕の体感としてパブのノリのままスタジアム行っているひとが多いと思います。
VETHEL ちょっと話がそれますが、フーリガンって最近そんなに話題にならないですよね? 今ってそういうのないですか?
小須田一磨 昔ほど危ないフーリガンみたいのはあまりないと思います。ちょっと白熱しちゃってスタジアムの物壊すファンがいるくらい。スタンドでタバコやお酒OKな国もありますが、イングランドでは今スタンドでお酒を飲んじゃいけなかったり(コンコースでは可)、火気厳禁だったり。たまにこっそり持ちこむやつもいますけど(笑)そういう規制が進んでるっていうのはありますね。
VETHEL ノンアルコールであれだけ盛り上がれるんだ(笑)。さて、小須田さんの中でこのゴールシーンにはこの曲が合うと思ったことはありますか?
小須田一磨 これはリヴァプールの試合の時じゃないですが、ゴール決まったときにスタジアムDJがブラーの「Song2」とか、ザ・ホワイト・ストライプスの「Seven Nation Army」がスタジアムで流すことが多い気がして。そのあたりは自分もゴールに合ってるなって思います。国を問わず定番曲みたいなイメージ。リヴァプールだと試合中にスタジアムDJが曲をかけることはないんですけど、たくさん点が入ったりするとファンがジョニー・キャッシュの「Ring of Fire」のイントロを歌うんです。なんでか分からないですけど(笑)。きっとみんなが知っていて、あのメロディが歌ってて楽しいから。たくさん点が入るとみんなが歌い出して、今日ノリノリだぞ!っていう雰囲気になりますね。
VETHEL では東京の街中でも「Ring of Fire」がかかっていたら……
小須田一磨 なんか楽しい気持ちになりますね(笑)。
VETHEL ワールドカップや現地でフットボールを観たりする中で、特に印象に残ってるテーマソングってありますか?
小須田一磨 ワールドカップはあまり見たことなくて……でもSuperflyの「タマシイレボリューション」。あれはワールドカップの曲だなってすごい記憶に残っています。それこそ僕がリヴァプールを好きになった2010年の南アフリカ大会のテーマソングで。大会自体は見てなかったんですけど、みんな盛り上がっててもの曲も良く耳にしました。後から聞くとまさにフットボールの熱気を体現してるような、アップテンポで、力強いボーカルで、ぴったりだなと思って。
VETHEL 応援してるチームや選手にぴったりの曲あるとしたらどんな曲ですか? これはリヴァプールの……。
小須田一磨 リヴァプールのアンセムである「You Never Walk Alone」。
VETHEL リヴァプールの方は誰でも知っている?
小須田一磨 知ってると思います。試合前にみんなで歌うんですけど、その雰囲気が本当に素晴らしくて。あとメッセージ性もリヴァプールの街にぴったりだと思うんですよね。タイトルの通り“あなたは決して一人じゃない”っていうメッセージの曲なんですけど、アイデンティティが強烈でかつ、ファミリーのような温かさや連帯感を持つリヴァプールという街にぴったりだと思っています。リヴァプールってしばしばワーストアクセントに挙げられるくらい訛りが独特だったり、労働者階級の文化が根付いていて中央政府を嫌う人が多かったりとかして、何かと他の地域と一線をかくしています。そしてそれを誇っていて「僕らはイングランドじゃなくてリヴァプールなんだ」って言ったりするんです。良い意味で“アウトサイダー”の誇りを持ちながら、街の中ではまるで家族のような温もりと連帯感が息づいているなと。私も留学中にそれを強く感じました。イギリスじゃなくてリヴァプールが好き、サッカーじゃなくてリヴァプールFCが好きでここに来たというと嬉しそうにしてくれるし本当にいろいろと良くしてくれる人が多かったです。その感じがまさに「You Never Walk Alone」。試合前に歌う曲というだけでなく、私が感じた街の雰囲気にぴったりなので、リヴァプールといえばこの曲です。
VETHEL リヴァプールってやっぱりビートルズが出てくると思うんですけど……
小須田一磨 そうですね、リヴァプールと言えばビートルズ。ビートルズももちろん好きなので、聖地巡礼したり、有名なキャバーン・クラブでビートルズのカバーバンドの演奏を見たりしました。実はビートルズとリヴァプールFCにそれほど深い関係性はないんですよね。メンバーがそんなにフットボール好きじゃなかったようで……でもリヴァプールFCのチャントにはビートルズの替え歌もあったりします。街中やパブでビートルズが流れているとやっぱりみんな歌っちゃいますね。
VETHEL サッカー観戦と音楽フェス観戦、似てると思う瞬間ありますか?
小須田一磨 日本のフェスはあまり行ったことが無くて、イギリスの音楽フェスには何度か行ったことがあるんですが、超似てると思いました。やっぱり観客主導の熱狂具合ですかね。フットボール観て盛り上がって歌う ── イギリスのフェスもとにかく観客が歌って騒いでました。歌メロもそうですがギターリフを大合唱したり、アーティストの演奏が聞こえないくらいに(笑)。あと演奏していない時間やバンド転換中も勝手にコールが始まってみんなに広まってたりとか。フットボールも音楽フェスも、観に行くだけじゃなくて各々が歌ってはしゃぎに行っているみたいな感じがして、あの観客主導で大騒ぎしちゃう感じ似てるなあと思いましたね。
VETHEL この試合の後に聞いた曲が忘れられないっていう経験はありますか?
小須田一磨 これは私ドンピシャくるものがあって、昨シーズンの最終戦の後にスタジアムで流れたボブ・マーリーの「Three Little Birds」。これ、“スタジアムDJ、ナイス”って感じです。リヴァプールにクロップという名物監督がいまして、9年間チームを指揮して昨シーズンで退任したんです。熱さがチームにぴったりで、ファンに愛されていて、そんなクロップ監督のラストシーズン、好調だったものの最終的にリーグ優勝できなかったんです。そんなクロップ監督が指揮する最後の試合が終わって感謝と寂しさが入り混じっていた時に、スタジアムで「Three Little Birds」が流れて、ファンが大合唱しました。優しいメロディに合わせて「Don’t worry about a thing ‘Cause every little thing gonna be alright “心配しないで、すべてうまくいくから”」って歌う曲なんですが、まるでクロップ監督メッセージのように響いて……胸が熱くなりました…僕と同じ気持ちになった人がたくさんいたんじゃないかな。その時の雰囲気を忘れられないです。
VETHEL それはDJがいい仕事しましたね。
小須田一磨 そうなんです。そして監督が変わった今シーズン、優勝しちゃったので。曲のメッセージの通り、本当にうまくいきました。感動です。
VETHEL 小須田さんにとって音楽とサッカーってどういう存在ですか?
小須田一磨 それぞれ単独でもものすごくよいものですが、自分の中では2つが密接につながっています。フットボールスタジアムには音楽があってほしいですし、切っても切れない“熱狂の両輪”のような感じですね。あとはどちらも我を忘れて楽しめるものですね。誰しもそういうものはあって私の場合たまたま音楽とリヴァプールなだけかもですが、理屈はよくわからないけどどっちも聴いたり観たりしたら無性に楽しいし、それこそ熱狂してしまいますね。
VETHEL 例えばそんなにフットボール好きだったら、フットボール関係の仕事に就きたいとかいうのはないですか?
小須田一磨 リヴァプールFCや街、そしてファンに貢献できて、それがもし仕事になるならとても嬉しいです。でもあくまでお金関係なしに、自分も楽しみつつ同志のためになることやりたいという思いが強いですね。最近、東京や現地リヴァプールのスポーツバーで、試合前に応援歌を弾き語りしたりしているんですが、自分も楽しいですしそれでファンが盛り上がってくれると本当に嬉しいです。特に日本のリヴァプールファンが私の演奏を見て現地の応援歌に興味を持ってくれて、気づけば試合中に一緒に歌ってくれたりするのを見るともう最高ですね。演奏以外でも同志のためになることはどんどんしたいなという気持ちです。もしもこの思いが結果的に仕事になるようなことがあればそれは本当に幸せですね。

Interview & Text & Photo : VETHEL