

都市のざわめきが途切れた瞬間、そこにはどんな音が残っているのだろう ── ナイロビ生まれ、現在ベルリンを拠点に活動するサウンド・アーティストKMRUが来日。2026年10月1日、東京・代官山UNITにてFenneszとのツーマン公演を行うことが決定した。
公演は、EACH STORYが新たに送り出す特別シリーズ「Urban Echoes」の第1夜「Emergence」として開催されるもの。さらに10月8日にはGoldmund、10月12日にはSuso Saizが登場し、クラブ、チャペル、能楽堂というまったく異なる3つの空間を舞台に、“都市にひそむ余白と共鳴”を探る。
そしてKMRUは来日直前となる9月25日、最新アルバム『Kin』の日本盤をPLANCHAからリリースすることも決定している。静謐と轟音、環境音とノイズ、記憶と空間。その境界線を溶かしながら、現代のアンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックを更新し続ける才能が、この秋、日本へやってくる。
KMRUとFennesz ── 二つの音響世界がUNITで交差する
「Urban Echoes」の幕開けを飾るのは、KMRUとFennesz。
フィールド・レコーディングやドローンを起点に、環境に潜む音そのものへ耳を澄ませてきたKMRUと、ギターと電子音響の境界を溶解させながら独自の音響世界を築いてきたFennesz。両者は2022年にUSツアーを共にするなど交流を重ねてきた盟友でもある。
その関係はKMRUの最新アルバム『Kin』にも刻まれている。収録曲「Blurred」はFenneszとの交流から生まれた楽曲であり、Christian Fennesz自身が共作・共同プロデュースとして参加。ギターの響きと巨大なドローンが重なりながら、美しさと異物感が同居する音響空間を作り出している。
レコーディング作品の中で交わってきた二人の音が、今度は同じ夜、同じ空間に立ち上がる。10月1日のUNITは、単なるツーマン・ライブ以上に、KMRUの現在地を目撃する重要な一夜となりそうだ。
クラブ、チャペル、能楽堂 ── 「Urban Echoes」が都市に仕掛ける3つの物語
「Urban Echoes」が掲げるテーマは、“都市にひそむ余白と共鳴”。都市には絶え間なく音が存在している。しかし、その喧騒の向こう側には静けさがあり、時間と時間の隙間には、普段意識されることのない響きが潜んでいる。そんな“見えない余白”を音と空間によって呼び覚ますこと。それがこのシリーズの試みだ。
第1夜「Emergence」は10月1日、代官山UNITでKMRUとFenneszが出演。第2夜「Stillness」は10月8日、大久保のウェスレアン・ホーリネス教団 淀橋教会で開催され、Keith Kenniffによるピアノ/アンビエント・プロジェクトGoldmundが登場する。そして第3夜「Dissoble」には、スペインのアンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックを長年にわたって切り拓いてきたSuso Saizが出演。10月12日、舞台となるのは梅若能楽学院会館だ。
クラブから教会、そして能楽堂へ。通常なら同じシリーズとして結びつくことのない空間を移動しながら、その場所が蓄積してきた時間や記憶と音楽を共鳴させていく。会場そのものを巨大な楽器として捉えるような構成も、「Urban Echoes」の大きな魅力と言えるだろう。


ナイロビからベルリンへ。KMRUが探求してきた「聴く」という行為
KMRUことJoseph Kamaruはナイロビ生まれ、現在ベルリンを拠点とするサウンド・アーティスト/プロデューサーだ。フィールド・レコーディング、ドローン、ノイズ、電子音響を軸に、彼が探求してきたのは単なる“美しいアンビエント”ではない。環境に存在する音、そこに蓄積された記憶、空間と人間との関係、さらには「聴く」という行為そのものを作品へと変換してきた。
その名を国際的に知らしめた重要作が、2020年にPeter Rehberg率いるEditions Megoから発表された『Peel』だった。フィールド・レコーディングと繊細な電子音、ゆっくりと変化するドローン。その音楽は、何かを強烈に主張するのではなく、聴き手の知覚そのものを静かに変化させていく。
その後もAho Ssanとのコラボレーションや、The BugことKevin Richard MartinとのKRM & KMRU名義による『Disconnect』など、ジャンルを横断する共同制作を展開。ベルリン芸術大学(UdK Berlin)のSound Studies and Sonic Artsでも学びながら、インスタレーションや長時間パフォーマンスへと活動領域を拡張してきた。
静謐から轟音へ ── 最新作『Kin』でKMRUが踏み込んだ場所
そして2026年、KMRUは『Peel』以来となるEditions Megoからのアルバム『Kin』を完成させた。これまで彼の作品を特徴づけてきたフィールド・レコーディングとドローンは健在だ。しかし『Kin』では、そこへギター、ディストーション、ノイズといった荒々しい質感がこれまで以上に大胆に入り込んでいる。
作品の背景には、Editions Megoを率いた故Peter Rehbergの存在がある。アルバムの構想は、Rehbergと交わした「『Peel』の次にどんな作品を作るのか」という会話から始まったという。2021年初頭にナイロビで制作がスタートしたものの、Rehbergの死によって一度中断。2022年からゆっくりと制作を再開し、長い時間を経て完成した。
アルバムの最後に記された言葉は「For Pita.」。『Kin』は新たな音響への挑戦であると同時に、失われた人物との記憶を音として残す作品でもある。
「Blurred」から20分を超える「By Absence」まで
『Kin』は、温かく揺らめく「With Trees Where We Can See」から始まる。続く約12分の「Blurred」ではFenneszが参加。爪弾かれるようなギターと巨大なドローンが混ざり合い、音の輪郭がゆっくりと曖昧になっていく。
「They Are Here」ではメランコリックなドローンへと沈み込み、「Maybe」では多幸感を孕んだ電子音が広がる。そして「We Are」では鋭利なノイズと複雑なリズムが衝突し、従来のKMRU像をさらに押し広げていく。
クライマックスは20分を超える「By Absence」。アコースティックな響きと万華鏡のような電子音が幾重にも折り重なり、アルバムを閉じるというよりも、その向こう側へと聴き手を送り出すような余韻を残す。
静寂と轟音は対立するものではない。KMRUの音楽を聴いていると、むしろその二つが同じ場所から生まれていることに気づかされる。
「ゆっくりと、そして大音量で」聴きたい秋
『Kin』日本盤はPLANCHAより9月25日にリリース予定。そして、そのわずか6日後となる10月1日にはFenneszとの東京公演が待っている。アルバムの中で交錯した二人が、今度は代官山UNITという物理的な空間でそれぞれの音を鳴らす。さらにGoldmund、Suso Saizへと続いていく「Urban Echoes」は、単に著名なアンビエント/エクスペリメンタル・アーティストを招聘するシリーズではないだろう。
クラブにはクラブの残響がある。教会には祈りの記憶があり、能楽堂には長い時間の蓄積がある。そこへ音楽を置いたとき、何が聞こえてくるのか。都市を歩き、場所を変え、耳を澄ます。2026年秋の東京で展開される「Urban Echoes」は、“音楽を聴く”という行為そのものを、もう一度発見するための3夜になりそうだ。

【公演情報】
EACH STORY presents「Urban Echoes」
DAY1「Emergence」
2026年10月1日(木)
会場:UNIT(代官山)
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:Fennesz / KMRU
前売 ¥7,500 / 当日 ¥9,000 ※別途1ドリンク
DAY2「Stillness」
2026年10月8日(木)
会場:ウェスレアン・ホーリネス教団 淀橋教会(大久保)
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:Goldmund
前売 ¥8,000 / 当日 ¥9,500
DAY3「Dissoble」
2026年10月12日(月・祝)
会場:梅若能楽学院会館
OPEN 16:00 / START 17:00
出演:Suso Saiz
前売 ¥8,000 / 当日 ¥9,500
【リリース情報】
KMRU『Kin』
Label:PLANCHA
Format:CD / Digital
日本盤発売日:2026年9月25日
CD価格:2,200円+税
Tracklist
- With Trees Where We Can See
- Blurred (feat. Fennesz)
- They Are Here
- Maybe
- We Are
- By Absence
