テックハウスの巨人がグライムへ接近 ── Loco Dice、新曲「Eyes On Me」で自身のヒップホップ・ルーツと再会する

テックハウスの世界的アイコンとして長年ダンスフロアを牽引してきたLoco Diceが、新たな方向へと踏み出した。ニューシングル「Eyes On Me」をUniversal Musicよりリリース。UKグライム/アーバン・ミュージックの感覚と、彼が培ってきた重量級のクラブ・グルーヴを接続した一曲だ。

しかし、これは突然の“路線変更”ではない。ハウスやテックハウスのDJとして世界的な存在になる以前、Loco DiceはヒップホップDJ/ラッパーとしてキャリアをスタートさせている。「Eyes On Me」で起きているのはジャンルの越境というより、30年以上を経て自身の原点と現在が再び接続された瞬間なのだ。

グライムとテックハウス、その境界線を溶かす「Eyes On Me」

「Eyes On Me」を駆動させるのは、分厚いビート、研ぎ澄まされたサウンドデザイン、そしてサンプリングを軸にした大胆な構築だ。

UKアーバンやグライムへと接近しながらも、楽曲の骨格そのものは徹底してダンスフロア仕様。パーカッションがグルーヴを引っ張り、ローエンドは必要以上に膨らませることなく、巨大なサウンドシステムで鳴った瞬間に最大限の威力を発揮するよう設計されている。

いわゆる“クロスオーバー作品”を狙ったというより、異なる音楽文化を自分自身のDJ感覚によって自然に同居させた一曲と捉えるべきだろう。

その兆候は、リリース以前からすでにフロアに現れていた。2026年7月、Loco DiceはイビサのHï Ibizaで行われたMás Tiempoのレジデンシーに登場し、Club Roomでグライムを代表するSkeptaとブースを共有。今回の「Eyes On Me」は、そこで交差していた二つの世界をスタジオへ持ち込んだような作品でもある。

実は“ヒップホップへの帰還”でもある

Loco Diceといえばテックハウス――そんなイメージが強いだけに、「グライム」というキーワードは意外に映るかもしれない。

だが、彼のキャリアを遡れば、その印象は大きく変わる。

チュニジアにルーツを持つ多文化的な家庭で育ったLoco Diceは、1990年代初頭のドイツでヒップホップDJ、そしてラッパーとして活動を開始。Snoop DoggやIce Cubeらのサポートを務めながら世界を巡り、そこで培ったリズム感覚とサンプリングへの意識が、その後のプロダクションにも深く刻み込まれていった。

2000年代に入ってから徐々にエレクトロニック・ミュージックへと軸足を移し、2002年の「Phat Dope Shit」を契機にクラブシーンで存在感を拡大。やがて世界屈指のDJへと成長していく。

つまり「Eyes On Me」で鳴っているヒップホップの感触は、新たに手に入れた武器ではない。彼が最初から持っていたDNAなのである。

Carl CoxからSkrillex、Moby、Black Coffeeまで ── ジャンルを横断してきた男

Loco Diceのキャリアを振り返ると、そもそも彼を「テックハウス」というひとつのジャンルだけで括ること自体が難しい。2008年には自身のレーベルDesolatからデビューアルバム『7 Dunham Place』を発表。その後『Underground Sound Suicide』『Love Letters』、そして2025年の4thアルバム『Purple Jam』へと作品を重ねてきた。

その一方で、SkrillexとFireboy DMLを迎えた「Heavy Heart」をはじめ、Carl Cox、イタリアのラッパーGué、ドイツのHaftbefehlなど、国籍もジャンルも異なるアーティストと共演。リミックスにおいてもMoby、Disclosure、Black Coffee、Basement Jaxxらの作品を手掛けている。彼にとってジャンルとは守るべき境界線ではなく、むしろ異なる文化を接続するための材料なのだろう。

世界最大級のフロアで鍛え続けられる“身体の音楽”

そのサウンド哲学を支えているのは、圧倒的な現場経験だ。Time Warp、Sunwaves、Coachellaといったフェスティバルから、イビサのCircoloco(DC-10)、Amnesia、そしてSpace Miamiまで。アンダーグラウンドな地下空間から巨大フェスティバルのメインステージまでを横断しながら、Loco Diceは「大きな空間で身体をどう動かすか」という感覚を磨き続けてきた。

「Eyes On Me」における無駄を削ぎ落としたローエンドや、パーカッション主体の構造も、その経験と無関係ではない。ヘッドフォンの中だけで完成する音楽ではなく、満員のクラブで巨大なスピーカーから放たれたときに完成する音楽なのだ。

2026年秋にはアメリカとヨーロッパを巡るツアーも予定されており、イビサのPachaではMau P、ミラノではCarl Coxと共演。さらにロンドンのMinistry Of Soundへの出演も控えている。「Eyes On Me」もまた、そうした現場で試され、更新されていくことになる。

DJ、レーベル、ファッション ── クラブカルチャーを越えて

Loco Diceの活動領域はDJブースだけに留まらない。2007年にはDesolatを設立し、Dubfire、Moritz von Oswald、Martin Buttrich、DJ Sneak、Yayaらの作品をリリース。その後もEn Couleur、SB Recordingsといったレーベルを立ち上げてきた。

さらにファッションの世界では、ミラノ・メンズ・ファッションウィークにおけるMarcelo Burlonのランウェイ・サウンドトラックを制作。Daily PaperやNew Eraとのコラボレーション、自身のクロージングブランドSeran Bendecidosなど、音楽以外のカルチャーにも活動を拡張している。

ヒップホップ、ハウス、テクノ、ファッション、ストリートカルチャー。それらを別々のものとして扱うのではなく、一つの文化圏として行き来してきたことこそ、Loco Diceというアーティストの本質なのかもしれない。

「Eyes On Me」は未来への一歩であり、原点への帰還だ

2025年のアルバム『Purple Jam』以降、活発なリリースを続けるLoco Dice。「Eyes On Me」はUniversal Musicから発表された「Hold Up (You Feel That)」に続く最新章となる。グライムへ接近しながら、ヒップホップのサンプリング文化へ回帰し、それをピークタイムのダンスフロアへ持ち込む。

一見すると新しい挑戦だ。しかし彼自身の歴史を振り返れば、それはむしろ必然だったようにも思えてくる。30年以上前、ヒップホップDJとしてターンテーブルの前に立っていた青年が、ハウスとテクノの巨大な世界を旅した末に、再び自らのルーツと向き合う。「Eyes On Me」は過去へのノスタルジーではない。原点を知る者だけが鳴らすことのできる、未来のためのクラブ・ミュージックだ。

Artist: Loco Dice
Title: Eyes On Me
Label: Universal Music
Release date: August 28, 2026

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