坂本龍一、久石譲にも影響を与えた“ミニマルの創始者” ── テリー・ライリー決定版ディスクガイド

ミニマルミュージックの創始者として、20世紀音楽史にその名を刻んだコンポーザー、テリー・ライリー。その全貌に迫る初のアーカイヴブック『テリー・ライリー完全版』が、河出書房新社より2025年4月30日に刊行される。

編者は松村正人。全240ページにおよぶ本書では、ライリーがこれまでに発表したレコード、CD、カセット(さらに一部デジタルリリース)までを徹底的に網羅。1964年の歴史的名作「インC」から、「ババ・オライリー」の源流とも言われる「ア・レインボウ・イン・カーヴド・エア」、さらには2000年代以降のオーケストラ作品や合唱曲まで、ジャンルの枠を超えて展開されるライリーの音世界を多角的に紐解いていく。

音楽家としてのライリーは、「ミニマル」の枠だけでは到底収まりきらない。インド古典音楽、即興演奏、純正律、そしてアフリカ的なリズムやアジアの旋律といった多彩な要素を自在に行き来しながら、そのすべてを自らの作曲言語へと昇華させている。作曲家・久石譲が「ジャズのニュアンスがベースにあることが、人々を惹きつける要素」と語るように、ライリーの音楽は常に自由で、どこか親密な響きをもって聴き手に迫る。

ディスコグラフィにとどまらないその構成

本書の読みどころは、単なるディスコグラフィにとどまらないその構成にある。時代を区切った章立てでキャリアを追いながらも、「In C」だけにフォーカスした特集、「クロノス・カルテットとの協働」といったテーマ別のアプローチをとることで、テリー・ライリーという存在の多面性を照らし出す。また、藤枝守や湯浅学をはじめ、ジャンル横断的な執筆陣が集結している点も特筆すべきであろう。

さらに、2022年からライリーとグループ活動を共にする美術家・横尾忠則や、現代の音楽シーンで彼の影響を色濃く受け継ぐヨシダダイキチ、継承者であるサラ、そしてプロデューサー・宮本端らへのインタビューも収録。巻末には、同じく60年代から活動する作曲家・カール・ストーンとの特別対談が収められており、ライリーの生い立ちから創作の核心までを立体的に読み解くことができる。

現在89歳。2025年6月には90歳を迎え、来日公演も予定されているというテリー・ライリー。その軌跡を追いながら、今なお響き続ける彼の音楽的ヴィジョンに触れるための最良の手引きとなる一冊である。

目次

『テリー・ライリー完全版』

編者:松村正人
仕様:A5判/並製/240頁
発売⽇:2025年4⽉30日
税込定価:2,860円(本体2,600円)
ISBN:978-4-309-25793-8
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