
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のアーティストは?
人気アイドル“26時のマスカレイド”をはじめ、通算11年間のアイドル活動を続けてきた江嶋綾恵梨さん。多忙な活動を卒業後、とある理由で知ったというヨガの道へ進み、現在はインストラクターとしても活動の幅を広げています。そんな彼女が語るのは、音楽とヨガに通じる「リズム」の力、そして身体と心が整ったことで変わった“歌”の感覚でした。音楽ファンにも、ヨガファンにも届けたい、ジャンルを超えて交差するふたつの世界の話。

身体=楽器を整えるってことが大事なんだ
VETHEL そもそもヨガにハマったきっかけを教えてください。
江嶋綾恵梨 元々はアイドルの活動中に体調を崩しちゃったことがあって、少しお休みをいただいたんです。だけど、ただ寝て、のんびりして何もしないと、すぐにライブ活動に復帰できない不安もあって……それに病院のススメで適度な運動が大事と言われたので、ほとんど興味はなかったんですけどヨガを始めたんです。そしたら体験1日目、身体のスッキリ感と夜の睡眠の深さが劇的に変わって、継続はもちろん大事ですけど、最初の1回でそんなに効果が出るものじゃないって思ってたし、最初は軽視してたところもあって、「ヨガすご!」って(笑)。
VETHEL 割と軽い気持ちで体験されたんですね?
江嶋綾恵梨 何かやった方がいいってことで「……やるかぁ……」みたいな(笑)。そのころはダンスがすごく好きだったから、習いに行ったりもしてたんですけど動きで言うと、だいぶ激しいので。なので、今までやってきてなかったヨガの“リラックス”を体験して、本当にびっくりしました。以前は就寝後2〜3時間ごとにパッと起きちゃって、眠れないときはテレビを観て寝ることを諦めたりしてたのが全くなくなって、よく眠れるようになりましたね。
VETHEL すごい効果ですね。それで先生を目指すまでハマってしまった?
江嶋綾恵梨 最初は週に2〜3回で、そのあとからめちゃめちゃ行き始めたのがきっかけなんです。通う間にどんどん身体の調子が良くなってきて。私、興味が出てくると深掘りしていきたいタイプなので、その対象がヨガになって、「あっ、資格あるんだ」と。

VETHEL 今はヨガの人たちとは先生として接しているわけですが……。
江嶋綾恵梨 自分も最初そうだったんですけど、ヨガって始めるのがちょっとハードル高いイメージじゃないですか? 難しそうっていう謎のイメージもあって、それで遠ざけてた部分もある。そういうのを払拭したくて、自分のスタジオを始めて2年経ったんですけど、1年目からみんな初心者で一緒に走ってきて、みんなで2年目になってっていう感じで。
VETHEL 一緒に進んでる?
江嶋綾恵梨 そう、途中で入ってきたお客さんも、基本はそんなに激しいことやってないのでリラクゼーション感覚で来てもらってる感じで……ヨガの先生だけど、先生って感じもしてないっていうか……。
VETHRL サークルの部長みたいな感じ?
江嶋綾恵梨 そうですね、最初はヨガの先生になって、みんなを良くしてあげたいとか、不調を取ってあげたいっていうのがスタートだったんですけど、最近はみんな肩こりが緩和してきたり、腰痛が良くなったりして、少しアクティブになってる(笑)。なので、最近はnoteでヨガの哲学を書いたり、月の満ち欠けの話を書いたりして、どちらかというとメンタルケアよりのことを教室でもウェブでもやっていて、今来ているお客さんたちからも、タメになる、ありがとうって言っていただくことが増えて、教えながら自分もだいぶ変わったなと思っています。
VETHEL なるほど。
江嶋綾恵梨 最初は身体のことをやってたけど、お茶ヨガをやってみたり、休息のクラスが増えたり、今は動くクラスよりはリラックスできるレッスンをみんなに提供すること。あとは哲学的なマインドの話とか自分の経験を話す、ヨガは今この2軸ですね。

VETHEL 元々アイドルされていて音楽にどっぷりだったわけですが、ヨガと音楽って関わりありますか?
江嶋綾恵梨 ヨガで大事な、呼吸ってリズムだし、音楽もリズムと歌 ── 歌うのに身体を使うじゃないですか? 今まで自分の身体が楽器だっていう認識はなかったんですよ。
VETHEL なるほど。それはよく言われますよね。
江嶋綾恵梨 もちろん身体を使ってるなぐらいの浅はかな感じしか理解できてなかったんですけど、ヨガを始めて久しぶりに音楽活動をしたときに、身体が緊張状態じゃないからすごく楽に声が出たんです。今までは高いところは頑張って腹筋を使って出してたところがスーって出るし、姿勢も乱れないし、余計な力が入ってないから声の立ち上がりも早い……身体が楽器っていう意味が分かって、自分の体調が悪いとメンテしないと出ない。昔は力んで頑張らないと、負荷かけないと声が出ないっていうのをやってたんだって思ったんですよ。それでも歌が好きだったから悩んで、歌えてたと思うんですけど、最近のレコーディングやライブでは、スルスルって声が出ちゃう。普段から呼吸を深くしてる分、息も続くし。当時よりは身体が整ってるから、トレーニングも大事ですけど、まずベースの身体=楽器を整えるってことが大事なんだなって思いました。
VETHEL ヨガをやってから全然違う。
江嶋綾恵梨 体幹が違いすぎますね。よく背中から上に抜けるようにって言われてイメージしながら声出ししてたんですけど、当時も意味は分かってやってたけど、今やるともっとできる。自分のヨガのクラスでも、手のこの辺を意識してっていうのも、意識を向けるっていうのも難しい人には難しいんですけど、定期的にやってると自然とできるようになる。声を出すのに背中から抜けるような感じ、響かせるイメージみたいなのが、今なら具体的に分かるし、すぐできる。

音楽は自分のテンションを上げるもの/ヨガは気持ちを鎮めるもの
VETHEL 音楽体験で言うと、アイドル時代と今って音楽の聴き方が変わったり、聴くものが変わったりしてますか? 逆にアイドル時代はどんなものを聴いてたのかも気になりますが。
江嶋綾恵梨 元々、女性アイドルさんが大好きで、ハロプロさんもずっと聴いてきて、それは全然変わってないし、今も聴くし、最近サブスクを解禁してくださって、昔よく聴いたアルバムとか聴き直したりしてるんですけど……元々シンガーソングライターとか、この曲を誰が作ってるかみたいな、見るのが好きだったので、
VETHEL 裏方さんを知りたいタイプ。
江嶋綾恵梨 そう。歌詞って誰が書いてる?、この曲って誰が作ってる? そういうのを見るのは昔から好きだったから、それは今も変わってないかもしれない。音楽に対する向き合い方は、あんまり変わってないですね。むしろ最近流行ってる曲とかは全然知らない(笑)。
VETHEL アイドルとしてステージに立ってたころと、今ヨガで人を導く立場と共通点はありますか?
江嶋綾恵梨 対人数が違って、以前は何百人〜何千人で、今は20人くらい。でも自分のスタンスは変わってないんです。正直、前の方が意気込んで緊張してる感じはありました。やるぞ!って。今はそういうちゃんとしようみたいなのは、いい意味でない。肩の力が抜けてるというか……グループだったからっていうのもあったし、性格的に完璧にやりたいタイプだったので、1人これだけ練習したし、私は大丈夫みたいな。本当に毎回すごい力んで、あれはあれで良かったと思うんですけど、今は準備ももちろんするけど、事細かく決めてってやらなくなったんです。
VETHEL 常にリラックス?
江嶋綾恵梨 要点はちゃんと押さえつつ。あとはアイドルのときの経験=あれだけ全部真面目にやってたから、自分にも気づいたらある程度できることが増えていて、今はヨガがベースですけど、他のいろいろなお仕事をいただいても、緊張することはなくなりました。前の方があれだけ仕事数をこなしてたのに、今思うと身体がめっちゃ緊張してた気がする。
VETHEL 余裕ができた感じですね。
江嶋綾恵梨 です。確実にヨガのおかげです。ヨガをやらずに、今同じ感じで仕事してたら相変わらず緊張してると思います。

VETHEL さっきおっしゃってた、呼吸とかリズム ── ヨガと音楽に共通する流れについてもう少し伺いたいんですが。
江嶋綾恵梨 ヨガのクラスや先生にもよるんですけど、太陽が出てる時間=朝方によくやる、12個のポーズを連動してやる太陽礼拝という動きがあるんです。吸って動いて吐いてっていう動きが繋がっていて、私的にはリズムが一番感じられるものかなって思って。吸うのが長すぎても息が吸えないし、短すぎてもヨガの効果が出ない。これは私の持論なので、一般的にどう言われてるか分からないですけど、その感覚やリズムはダンスをやってビートを刻んでた分、ちょっと乱れると自分が気持ち悪い。この一定間隔のリズムを、吸ってはいての動きに合わせるのは得意なんだなってやってて思いました。
VETHEL 音楽を聴くという行為と、ヨガの感じるという行為って似てるところはありますか?
江嶋綾恵梨 似てると思います。心地よさみたいなリラックスとか。ヨガもいろいろな種類があって、アクティブなヨガ、ホットヨガ、フィットネス系、私がやってるリラックスのクラスもある。音楽もヒップホップやジャズ、それぞれ好きなものを選んで聴く。私も以前はヨガはヨガっていうものだと思ったんですよ。いくつか種類はあったとしても、ヨガっていうくくり。でも自分がやり始めると、先生によってレッスンも違うし、同じリラックスでもそれぞれの先生によって伝えてるリラックスの方法やレッスンの内容も違う。音楽もそうで、歌ってる人によって同じジャンルでも全然違うふうに聴こえたり。だから基本一緒だと思います、その感じる部分も聴くっていう行為も。

VETHEL ご自身にとって音楽とヨガは、それぞれどんな存在でしょう。
江嶋綾恵梨 音楽は自分のテンションを上げるもの。もちろん音楽を聴いてリラックスすることはあるけど、どちらかというと気持ちを上げて行く方のものかなって思ってて「陽」な感じ。ヨガは整えたり、気持ちを鎮めたり「陰」な感じ。これで自分はバランスを取ってるなって去年は感じました。自分は音楽だけやってると、“イケイケ、ゴーゴー、頑張ろう!”みたいになっちゃうんですよ(笑)。仕事に似てて、新しい案件が来た、頑張ろうって覚醒しちゃう。けど私は今、基本的に週に5日ぐらいはスタジオでレッスンがあるので、日中に音楽を聴いたり、歌ったり、バーって気分が上がったとしても、夜の時間や土日のレッスンでしっかりとヨガに入るので、それで気分が陰と陽の真ん中に戻ってくる。自分で両方できてる感じがバランスがいいなって思います。こうやって日中、取材や撮影は楽しいし、当時の自分がやってたことを思い出して振り返ったりするとワーッて楽しくなってワクワクするんですけど、自分の中でちょっと浮ついてる感じがある。ヨガをやると冷静に自分を見つめ直して考えたり、今後どうしようって改めて考えたりもできるので、突っ走っていいみたいなのは、いい意味でなくなってきましたね(笑)。

Interview & Text : VETHEL
PHOTO:夢見るサトシ