天国へ連れていけ──Horse Lords、新作で到達した恍惚と構造の臨界点

反復と逸脱、構造とトランス。実験音楽とロックの境界を更新し続けてきたボルチモアの異能集団 Horse Lords が、ニューアルバム『Demand to Be Taken to Heaven Alive!』を2026年6月12日にリリースする。作品は RVNG Intl. より発表。あわせて先行シングル「Eureka 378-B / Brain of the Firm」が映像作品とともに公開された。

ポリリズムと身体性、その到達点

2010年の結成以来、ノイズ、ミニマリズム、インストゥルメンタル・ロックを横断しながら独自の音楽言語を築いてきたHorse Lords。Owen Gardner、Max Eilbacher、Sam Habermanを中心に始動し、Andrew Bernsteinを加えたカルテット編成で、複雑なリズム構造と強烈な身体性を併せ持つサウンドを展開してきた。

本作『Demand to Be Taken to Heaven Alive!』では、その探求がさらに拡張。全12曲にわたり、干渉し合うリズム、編み込まれる旋律、そして逃れがたいグルーヴが交錯し、聴覚だけでなく身体そのものに作用する音響空間が立ち上がる。

「距離」を超えて結ばれたバンドの言語

アルバム制作には、メンバーがそれぞれ異なる都市に拠点を置くという状況が大きく影響している。Gardner、Eilbacher、Bernsteinはベルリンで録音を行い、Habermanはボルチモアでドラムを構築。それでもなお、16年にわたり培われたバンドとしての“共有言語”が、作品全体を強固に結びつけている。

彼らは語る。反復的な演奏で検証するよりも、「互いのヴィジョンを信頼すること」が重要だったと。その姿勢こそが、本作に流れる緊張感と有機的な統一感を支えている。

声の導入がもたらす新たな地平

本作で特筆すべきは、Horse Lordsとして初めて本格的に導入されたヴォーカルだ。Nina Guo と Evelyn Saylor の声が、従来のインストゥルメンタル主体のサウンドに新たな層をもたらしている。

オープニング曲「Eureka 378-B」は、19世紀の賛美歌集『The Sacred Harp』を下敷きにしたアレンジ。伝統的な旋律にオートチューンやモジュレーションを施すことで、過去と現在が交差する異様な音響が生まれている。

一方「Brain of the Firm」では、脈打つベースと俊敏なリズムの上を、多声音のヴォーカルが言葉を持たずに漂う。IRCAMでの研究や中央アフリカのポリリズム、アパラチアのドローンといった要素が複雑に結びつき、グローバルかつ実験的なサウンドスケープを形成する。

音楽を「視点の装置」として

Horse Lordsにとって、アートとは単なる表現ではなく「視点を変えるための装置」だ。本作にはその思想が明確に刻まれている。

断片を切り出す“Rotation”シリーズ、変換アルゴリズムによって構造化された楽曲群、そして再帰的に組み替えられる作曲プロセス。音楽は固定されたものではなく、常に変化し続けるものとして提示される。

さらに「After the Last Sky」では、詩人 Mahmoud Darwish の作品から着想を得ることで、ユートピア的な志向と現実世界の緊張関係を浮かび上がらせる。抽象的でありながら、同時に極めて現実的な問いを内包しているのだ。

恍惚と解放、その先へ

「私たちは現状に挑戦し、聴き手に解放への道を示す音楽を作ろうとしている」 ── そう語るHorse Lords。

複雑な構造と高い抽象性を持ちながら、それでもなお強く身体に届くこのアルバムは、彼らの現在地を示す決定的な作品であると同時に、聴くたびに新たな発見をもたらす稀有なレコードだ。

聴き手の認識を揺さぶり、視点を変え、そしてどこか別の場所へと連れていく。『Demand to Be Taken to Heaven Alive!』は、そのタイトルどおり、音楽による“上昇”の体験を提示する。

Release Information

Artist: Horse Lords
Title: Demand to Be Taken to Heaven Alive!

Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-257
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.06.12
Price(CD): 2,200 yen + tax

※解説付き予定

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