欲望と怒りをダンスフロアへ ── MERTDERが放つデビューEP『Carnal Riot』、政治と身体をめぐる4つの挑発

現代社会の不安や怒り、そして身体に宿る衝動を、ダンスミュージックへと昇華するアーティストが現れた。プロデューサー/アーティスト MERTDER によるデビューEP『Carnal Riot』が、2026年3月19日にリリースされる。本作はインダストリアル、エレクトロ、シンセポップ、ハウスといったジャンルを横断しながら、自己破壊、政治的欺瞞、性的抑圧、そして芸術の役割といったテーマを鋭く切り取る作品だ。攻撃的でありながらカタルシスに満ちた4曲は、単なるクラブトラックにとどまらず、今という時代を映す鏡のような存在になっている。

自己破壊からの脱出を描くリード曲「Hussy」

EPの幕開けを飾る「Hussy」は、自分自身が作り上げた“悪循環”から抜け出す瞬間を描いたアンセム。人が抱える精神的なブロックや自己破壊的なパターンを直視し、それを断ち切る決断をテーマにしている。

サウンドはインダストリアルを基盤にしながら、エレクトロやシンセポップ、さらにダークウェイヴのテクスチャーを織り交ぜたもの。荒々しいエネルギーと、どこか啓示的な瞬間が交錯する構造が印象的だ。

楽曲の中に現れる“hussy ender”という象徴的なフレーズは、自己破壊的な習慣を断ち切る行為を表し、一方で“Hacienda”という言葉は再生のための避難所として機能する。破壊と再生、その二つの感情のせめぎ合いが、この曲の核となっている。

政治の透明性を問うプロテスト・トラック「Glass」

EPの2曲目「Glass」は、重厚なベースラインと反復的な構造が特徴の楽曲だ。サビのフレーズ「I can see through you like glass(ガラスのように見透かしている)」は、政治的レトリックが繰り返される現代社会の構図を象徴している。

政府と市民のあいだに存在する“透明性”という言葉の幻想。その矛盾を暴くかのように、この曲はあえて同じフレーズを反復し続ける。聴き手の中に蓄積される苛立ちとカタルシスは、まさに政治システムそのもののループを思わせる構造だ。クラブトラックでありながら、強いメッセージを持つプロテストソングとして機能している。

性と権力の偽善を暴く「Whoredom」

3曲目「Whoredom」は、ハウスミュージックの軽やかなリズムをベースにしながら、社会的偽善を鋭く突くトラック。フックに登場する挑発的なフレーズ「state boredom(国家的な退屈)」は、抑圧された社会の空気感を皮肉として描き出す。

この曲がターゲットにするのは、道徳を盾にしながら裏では欲望を抑圧し、同時に消費している権力構造だ。性的な欲望は人間の本質であり、それ自体が罪なのではない。むしろ問題なのは、他者を抑圧し、羞恥を武器に支配しようとする態度だとMERTDERは主張する。

「Whoredom」は、性的エネルギーそのものを反抗の力へと転換する。抑圧されてきた欲望が、逆に体制を揺さぶる力になる ── そんな過激なメッセージが、この曲の中心にある。

芸術の“奉仕”を描くダンス・トラック「Geisha」

EPの最後を飾る「Geisha」は、これまでの攻撃的なトーンとは少し違う角度から、芸術の役割を語る一曲。アップリフティングなダンスビートの背後には、「アーティストは何のために創作するのか」という問いが潜んでいる。

タイトルにある“Geisha”は、芸術家が社会や観客に対して奉仕する存在であるという比喩だ。政治的混乱や社会的不安が広がる時代の中で、アーティストは真実や感情を表現することで、人々に休息とつながりを提供する。そんな思想がこの楽曲の根底にある。

MERTDERは次のように語っている。
「自分が愛するものを見つけたとき、その一部を観客に差し出すことは名誉だと思っています。芸術家には、人を支え、つなげる空間を作る責任がある。『Geisha』はその思いを表した曲です。」

欲望、政治、再生――ダンスフロアに投げ込まれる“暴動”

『Carnal Riot』というタイトルが示す通り、このEPは欲望と怒り、そして社会への疑問が渦巻く作品だ。だがそれは単なる破壊ではない。自己再生、抵抗、そして芸術の役割というテーマが、クラブミュージックのフォーマットの中で鋭く展開されている。

インダストリアルの粗さ、エレクトロの緊張感、ハウスの解放感。それらを横断しながら、MERTDERはダンスフロアを一つの政治的・感情的な空間へと変えていく。

『Carnal Riot』は、踊るための音楽でありながら、同時に“時代のノイズ”をそのまま鳴らすような作品だ。クラブのスピーカーから鳴り響くそのビートは、もしかすると、静かな暴動の始まりなのかもしれない。

https://linktr.ee/mertder

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