[音楽と〇〇]デッキを組むように音楽を作る──ミコ・トコマレ(・オ)が語る“音楽とポケモンカード”の共鳴

VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?

音楽活動とポケモンカード──まったく異なる世界のようでいて、実は驚くほど多くの共通点が潜んでいる。作曲とデッキ構築の「引き算の美学」、ライブと大会前に訪れる独特の緊張感、そして何よりコミュニティの持つ温度感。コンポーザー、マルチプレーヤーとして活動する傍ら、ポケモンカードのプレイヤーとしても熱心に取り組むミコ・トコマレ(・オ)さんは、その両方からインスピレーションを得ながら創作を続けている。彼にとってポケモンは幼少期からの心の友であり、今も音楽の源泉であり続ける存在だ。本インタビューでは、「正解のない世界」に身を投じる面白さと、音楽とポケカが交差する独自の哲学をじっくり語ってもらった。

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気づいたら全部やるようになっていた

VETHEL すごくたくさんのバンドをされていて、ご自身でお多くのパートを演奏されますが、その理由は?

ミコ・トコマレ(・オ) 曲のイメージや音の方向性が頭の中にはっきりあるので、自分で弾いた方が早いんです。アナログな感覚もあって、「気づいたら全部やるようになっていた」というのが正直なところですね。例えば管楽器の人が来て吹いてくれると、「その吹き方だとちょっと違うかも」と思ってしまうこともあったり。

VETHEL 理想と現実にギャップがある、ということでしょうか。

ミコ・トコマレ(・オ) そうですね。自分の理想とのギャップよりも、入ってくれる人の側にギャップがあることが多いんです。演奏する人にとっては「これくらい吹けば抜けるはずなのに、なぜか抜けない」とか、「なんでだろう? ニューカマーだからかな?」といった戸惑いがあると思う。そこを理解して埋めていくのが難しい部分ですね。

VETHEL ご自身の中ではどのように理想形をイメージされていますか?

ミコ・トコマレ(・オ)  一周回って、今は自分自身が“ファン”の立場になっている感覚です。例えばトランペットであれば、自分がファーストトランペットを吹けるようになったからこそ、新しく入ってきた人に「ここはこう吹いたらこうなりますよ」と具体的に示せる。ある意味で「言語化」ができるようになったと思います。

VETHEL それは人材マネジメントにも似ていますね。

ミコ・トコマレ(・オ) そうなんです。ある意味で人事=HRのような役割も自分が担うことになった感覚です(笑)。曲作りや演奏だけでなく、編成の中でどう人を配置してどう生かすかを考える。その責任も自然と自分に回ってくるようになりました。

小さい頃から「なければ作る」タイプ

VETHEL まず音楽活動を始めたきっかけを教えてください。

ミコ・トコマレ(・オ) 音楽を始めたのは13歳、中学1年生の頃です。最初はクラシックギターでしたね。当時は無知で、ただ「ギターが弾ければいい」と思って始めたんですけど、やりたいこととの距離が遠かった。BUMP OF CHICKENをやりたかったのに、クラシックギターでは「天体観測」も弾けないぞと(笑)。そこからクラシックやアコギを2年間真剣にやってみたんですが、結局「コピーするより曲を作った方がBUMPに近づけるんじゃないか」と思ったのが転機でした。

VETHEL いきなりオリジナル曲に挑んだんですね。

ミコ・トコマレ(・オ) そうです。最初にバンドをやるときもコピーはせずにオリジナルから始めました。部室もなかったので担任の先生に直談判して、空いている教室を借りて機材を持ち込み、自分でライブを始めました。それが原体験です。小さい頃から「なければ作る」タイプだったので、そこに繋がっていると思います。

VETHEL ちなみに好きなジャンルは?

ミコ・トコマレ(・オ) 10代の頃はthe pillowsやBUMP OF CHICKENのように、日本語を大事にしたロックが中心でした。その後やっていたバンドが解散してからは幅広く吸収しようと思い、ピアノやドラムを覚えたり、ヒップホップ、R&B、ジャズ、クラシックまで学びました。クラシックギタリストのフランシスコ・タレガやショパンにも惹かれましたし、音楽を新しいものから遡って探求する時期もありましたね。

「正解がない」「全部が正解」という広さが共通点

VETHEL 音楽とポケモンカード、共通点を感じる部分は?

ミコ・トコマレ(・オ) そもそもポケモンは幼少期に最初の友達のような存在でした。母が遅くまで働いていて1人でいる時間が多かったので、ポケモンに救われたんです。カードゲームも同じで、強い・弱いポケモンはいるけれど、選び方や相性でいくらでも戦える。それって音楽にも似ていて、「正解がない」「全部が正解」という広さに共通点を感じます。

VETHEL デッキを組む感覚と楽曲制作の感覚は似ていますか?

ミコ・トコマレ(・オ) すごく似ていますね。デッキは60枚で組むんですが、強いカードばかり入れればいいわけではない。むしろ制約があるからこそ引き算が重要になる。音楽も同じで、音を足しすぎると一番大事なものが伝わらなくなる。だから「核を決めて削る」ことが大事で、そこは強い共通点だと思います。

VETHEL 自分の音楽スタイルに一番近いポケモンは?

ミコ・トコマレ(・オ) ラウドボーンですね。ホゲータが進化してラウドボーンになるんですが、防御が高くて後半になるほど強くなる。自分のスタイルとも重なるし、何よりホゲータが一番好きなポケモンなので、親和性を感じています。

ポケモンは純粋に“好きだから集まる”コミュニティ

VETHEL ポケカの大会と音楽ライブ前の緊張感は似ていますか?

ミコ・トコマレ(・オ) 全然違います。ライブは事前に準備をすれば不確定要素は少なくて、ほとんど緊張しません。でもポケカは違う。最初にサイドに置くカード6枚にキーカードが落ちてると勝てないことがある。その緊張感は独特ですね。

VETHEL 音楽とポケカ、それぞれのコミュニティとの関わりは?

ミコ・トコマレ(・オ) 音楽はどうしても知識や歴史の深さで衒学的……ヒエラルキーができやすい。でもポケモンは純粋に“好きだから集まる”コミュニティで、ファンダムの純度が高い。そこで得た感覚を音楽に持ち帰ると、とても健全でポジティブに再解釈できる。両方のコミュニティが自分にとって大事な価値観を育ててくれました。

VETHEL ポケカから音楽のインスピレーションを受けることはありますか?

ミコ・トコマレ(・オ) ありますね。例えば2025年のチャンピオンリーグ大阪での大逆転劇を見て、「これは絶対曲にしよう」と思いました。その土地の地名やポケモン金銀の第2世代の世界観を絡めて、体験したプレイヤーの目線も織り交ぜながら曲を作りました。歌詞の中にゲームのBGMや用語を忍ばせることもあります。

VETHEL 最後に、音楽とポケモンカードを掛け合わせてやってみたい企画は?

ミコ・トコマレ(・オ) 企画というより表現そのものですね。自分の人生の出来事を振り返ったとき、常にポケモンがそばにあった。その影響を音楽で再現して、聴いた人にポジティブな体験を与えられるようにしたい。大きく言えば、アメリカのハーフタイムショーで、ポケモンと音楽を融合させた壮大な表現も夢見ています。

ミコ・トコマレ(・オ) X

Interview & Text : VETHEL

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