まるで“映画のない映画音楽”── 宋英男『PO WAH BUILDING 寶華大廈』が描く、20分の幻影

韓国の音楽家、宋英男(ソン・ヨンナム)が新作EP『PO WAH BUILDING 寶華大廈』を2025年8月8日にリリースする。本作は、「映画のない映画音楽」とも形容される、音と情景が織りなすコンセプチュアルな作品である。

全体で20分にも満たない短い時間の中に、アルバムは三幕構成の小劇場のような密度を持って展開される。古いギターの爪弾き、ラジオのノイズ、遠くから聞こえる女性の歌声……。そうした断片が積み重なり、聴き手はまるで、薄い壁越しに隣人の暮らしを盗み聞きしたり、窓越しに見知らぬ誰かの生活を覗き込んでいるような感覚を覚えるだろう。

音楽性としては、1970年代の細野晴臣による実験的なサウンドスケープ、あるいは往年の香港映画のようなノスタルジックな空気感を想起させる。現代の録音技術を用いながらも、どこか時代から切り離されたような佇まいを持ち、聴き手の記憶や想像力を刺激する。

SSS(SoundSupply_Service)より届けられるこの作品は、リスナーにとって音の向こうに広がる風景を思い描かせる、極めて私的でありながら普遍的な「聴く映画」として機能するだろう。まるで音楽そのものが、香港の古い集合住宅「PO WAH BUILDING」に宿る記憶を紡ぎ出しているかのようである。


Bandcamp | Spotify | Instagram

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!