[連載:JAZZ IN MOTION]ビバップの誕生 (1940年代~1950年代)

ジャズは20世紀初頭のアメリカで誕生し、その後100年以上にわたり進化を続けてきた音楽である。ニューオーリンズの街角で生まれた即興演奏は、やがてスウィング時代のダンスミュージックへと発展し、ビバップによって知的な芸術へと昇華された。さらに、モード・ジャズやフリー・ジャズが新たな表現を切り拓き、フュージョンやスムース・ジャズが多様なリスナーへと広がっていった。

そして2000年代以降、ジャズはヒップホップやエレクトロニカ、ワールドミュージックと融合しながら、新たな時代を迎えている。ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンが現代ジャズを牽引し、UKジャズシーンではシャバカ・ハッチングスやアルファ・ミストが独自の進化を遂げている。

今もなお変化し続けるジャズ。その歴史を紐解きながら、音楽の魅力と未来を探っていこう。

ビバップは1940年代から1950年代にかけてジャズの世界に革命をもたらした音楽スタイルである。それまでのスウィングジャズのダンス音楽的な要素を排除し、より芸術性の高いスタイルへと進化した。速いテンポ、複雑なコード進行、高度な即興演奏技術を特徴とし、知的で前衛的なジャズの形を確立した。その誕生と特徴を見ていこう。

速いテンポとリズムの革新

ビバップの楽曲はスウィングジャズよりもはるかに速いテンポで演奏されることが多く、200BPMを超えることも珍しくなかった。リズムはより複雑になり、ドラムの役割が強調され、スウィングのように単純なビートではなく、細かいシンコペーションやポリリズムが多用された。ドラムのバスドラムやシンバルは、単なるリズムキープではなく、インタラクティブな演奏の要素として機能するようになった。

複雑なコード進行とハーモニーの進化

ビバップでは、それまでのジャズよりもはるかに複雑なコード進行が使用された。スウィングジャズでは比較的単純なコード進行を使用していたのに対し、ビバップでは頻繁に転調を伴う進行や、代理コード、拡張和音、テンションノートを多用した。これにより、演奏者はより自由な即興演奏が可能になり、個々のプレイヤーの技術と音楽的センスが試されることとなった。

即興演奏の重要性の向上


ビバップでは、ソロの即興演奏が楽曲の中心的な要素となった。テーマ部分は比較的短く、すぐにアドリブパートに移行することが一般的だった。これにより、演奏者の個性や演奏技術がより強調され、ジャズミュージシャンにとって創造性が非常に重要な要素となった。

小編成のバンド編成

ビバップは、スウィング時代のビッグバンドとは異なり、コンボと呼ばれる小編成のバンドで演奏されることが多かった。通常、サックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムの5人編成が基本とされ、それぞれの楽器が対等にソロを取る形が主流となった。小編成にすることで、演奏の柔軟性が増し、より自由度の高いアドリブが可能になった。

ビバップの主要アーティストとその貢献

チャーリー・パーカーはビバップの創始者のひとりであり、最も影響力のあるアルトサックス奏者である。彼の演奏スタイルは、高速なパッセージと複雑なハーモニーを特徴とし、即興演奏の新たな地平を切り開いた。代表曲には「Billie’s Bounce」「Now’s the Time」「Ornithology」などがあり、ビバップのスタイルを確立する上で重要な役割を果たした。


ディジー・ガレスピーはビバップのもうひとりの創始者であり、卓越したトランペット奏者であった。彼の演奏は、非常に高音域を多用し、複雑なリズムを駆使したものが特徴的である。また、彼はアフロ・キューバン音楽とジャズを融合させ、新たなジャズのスタイルを生み出した。代表曲には「A Night in Tunisia」「Salt Peanuts」などがあり、ジャズの発展に多大な影響を与えた。


セロニアス・モンクは、ビバップの形成に重要な役割を果たしたピアニストであり作曲家である。彼の音楽は独特のリズムとハーモニーを持ち、一聴して彼とわかる個性的なスタイルが特徴である。代表曲には「’Round Midnight」「Blue Monk」などがあり、その独特なアプローチは後のモダンジャズにも大きな影響を与えた。

ビバップの影響とその後の展開

ビバップはジャズの歴史において極めて重要な転換点となり、以降のジャズスタイルに大きな影響を与えた。ビバップ以前のスウィングジャズは主にダンス音楽としての役割を果たしていたが、ビバップの登場によってジャズはより芸術的な音楽として認識されるようになった。

ビバップがもたらした影響のひとつとして、ジャズミュージシャンの演奏技術の向上が挙げられる。ビバップの複雑なハーモニーと速いテンポは、高度な技術を必要とするため、ジャズミュージシャンのレベルが飛躍的に向上した。また、即興演奏の比重が増したことで、ミュージシャンの個性がより明確に表現されるようになった。

ビバップの影響を受けて、その後クールジャズやハードバップといった新しいジャズのスタイルが登場した。クールジャズはビバップの速いテンポと複雑なフレーズを抑え、より洗練された響きを持つスタイルとして発展した。一方でハードバップは、ビバップの要素を受け継ぎつつも、ゴスペルやブルースの影響を強く受けたスタイルとして形成された。

ビバップは現代ジャズの基礎を築き、多くのミュージシャンに影響を与え続けている。その革新的な精神と演奏スタイルは、今なお世界中のジャズミュージシャンによって受け継がれており、ジャズの発展に欠かせない重要な要素となっている。

Jiro Soundwave:ジャンルレス化が進む音楽シーンにあえて抗い、ジャンルという「物差し」で音を捉え直す音楽ライター。90年代レイヴと民族音楽をこよなく愛し、月に一度は中古レコード店を巡礼。励ましのお便りは郵便で編集部まで

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