バンクシーの「消えた名作」たち ── 作品はどこへ行ったのか?

ストリートアートの宿命なのか、それとも現代社会の商業主義の犠牲なのか ──。世界でもっとも謎多きアーティスト、バンクシーの“失われた”作品の数々を追いかけた一冊が刊行される。タイトルは『失われたバンクシー あの作品は、なぜ消えたのか』(青幻舎)。著者は『Banksy: The Man Behind the Wall』で知られるジャーナリスト、ウィル・エルスワース=ジョーンズ。刊行は2025年8月下旬を予定している。

『失われたバンクシー あの作品は、なぜ消えたのか』中面

本書は、壁や扉、歩道、車両など、街のあらゆる場所に描かれながら、その多くがすでに姿を消してしまったバンクシーの作品群を掘り下げたルポルタージュである。清掃員による消去、建物の解体、アートマーケットによる囲い込み、あるいは他のグラフィティアーティストとの対立による上書き ── その消失の背景には、多様な事情が複雑に絡み合っている。

『失われたバンクシー あの作品は、なぜ消えたのか』中面

選ばれた50点の代表作には、それぞれ鮮烈なエピソードがある。たとえば、デトロイトの荒廃地帯に描かれた《ダイヤモンド・ガール》は、誰にも買い取らせたくないという意志のもと撤去が試みられたが、最終的には行方不明に。グレートヤーマスに置かれた《馬小屋》は、コロナ禍で観光の起爆剤となるも、最終的には80万ポンドで落札されている。他にも、ヴェネチアの運河に描かれ水位で消えつつある《移民の子ども》など、どれもバンクシー作品の運命を象徴する事例ばかりである。

翻訳監修は、バンクシーに関する多くの書籍を監修してきた社会学者・毛利嘉孝(東京藝術大学大学院教授)が務める。膨大な取材と豊富な図版に裏打ちされた本書は、単なるアートガイドにとどまらず、ストリートアートの存在意義や公共空間における表現の意味、そしてアートの「消失」をめぐる現代的な問いを我々に突きつけてくる。

“場所と不可分で、誰のものでもなかったはずの表現が、価値を帯びたとたんに囲われていく”── そんなパラドックスすら「バンクシー的」と評された現代アートの本質を、あらためて考えるための一冊である。

1 Performing Monkeys Page 91 topImage credit: Trixie Delite
5024616650_c44a703bd9_o Page 57Image credit: Rob Corder
IMG_4214 Page 43Image credit: Peter Senteris

書誌情報

書名:失われたバンクシー ── あの作品は、なぜ消えたのか
著者:ウィル・エルスワース=ジョーンズ
翻訳監修:毛利嘉孝
仕様:B5変型・144頁・上製本
価格:2,970円(税込)
ISBN:978-4-86152-989-4
発売日:2025年8月下旬予定
Amazonページhttps://amzn.to/4lkhFzQ

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