
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?

宇宙に“音”は存在しない。けれど、音楽は存在しうる──。宇宙ビジネスの最前線を突き進むAmateras Space Inc.の蓮見大聖さんが語るのは、真空という無音の世界における「音楽の可能性」である。地球では当たり前の“空気を震わせる”サウンドは、無重力下でどう変化し、人間の知覚や感情とどう共鳴するのか。宇宙飛行士の鼓動、機械の振動、電気信号、そして人間の身体──それらすべてが楽器になる未来を、彼は想像する。宇宙の音楽とは何か? そして、誰のために鳴らされるのか? 無限の空間と、音のない世界に広がる、無限の創造について語った。
音楽も宇宙も、“音”の存在が本質的に大きな意味を持っている
VETHEL そもそも宇宙に興味を持ったきっかけは?
蓮見 宇宙飛行士って小さいころからの男のロマンじゃないですか? ズーッと宇宙に憧れてたのもあるんですけど、10代のころに試行錯誤もがいた中で、「もう地球はいいかな」って思ったんですよね(笑)。あと親が学校の教師ということもあって、お硬い家系にいたので。宇宙だったら自由じゃないですか? まだ誰も何も決めてないし、自分で国を作れるじゃん!って(笑)、本当にそんなところからですね。自由が欲しいと思ったら、重力とかに縛られないなら宇宙じゃんという感じ。
VETHEL 宇宙じゃん!と思って、どんなアクションを?
蓮見 大学を休学して、全く宇宙のことを分からない状態から、宇宙企業に入って修行して、その後JAXAの方でも研究に携わらせてもらって、それから学生起業したんです。就職せずにここまで来たというか、会社はまだ一期目ですが。
VETHEL 一方で音楽はどういうものを聴きますか?
蓮見 ジャンル問わず幅広く、ほぼ常にApple Musicで音楽を流しています。最近だと洋楽よりはサカナクションにハマっていて、アニメ『チ。ー地球の運動についてー』のオープニング曲「怪獣」が刺さるんですよね。
VETHEL 音楽はジャンルを特定せずにいろいろ?
蓮見 ラップも聴きますし、洋楽も聴きますし、K-POPも聴きますし、ONE OK ROCKやアヴィーチーのようなメインストリームのものも聴きます。そのときの自分の感情やライフスタイルに合わせて聴くことが多いです。
VETHEL 音楽と宇宙は、蓮見さんの中でどういうふうに結びついていますか?
蓮見 音楽も宇宙も、“音”の存在が本質的に大きな意味を持っていると感じます。物理的に言うと音って空気の震えで鳴るじゃないですか? 宇宙で真空の場合って、自分の鼓動が、ある種、音にも繋がってくる。そう考えると、悟りを開いたような音楽感が面白いなって思うんです。それに真空状況ではないですけど、宇宙ステーションの中に入って、無重力で音を聴けるってめっちゃ面白い。いろいろなアーティストのライブに行きますが、みんな、(応援する動作として)手を振るくらいしかできないんですよね。全身で無重力で動き回って表現できたらめっちゃ面白いと思って(笑)。
VETHEL なるほど。
蓮見 観客側、聴く側の表現方法も多彩。無重力だから上も下も分からない。縦も横も分からなくなるので、どういう体験が生まれるのか興味があります。
VETHEL 無重力でギターを弾くと……ボロンボロンと鳴るじゃないですか? でも音の波動は同じか。
蓮見 宇宙ステーションのキャビンの中は1気圧で、音の聴こえ方も変わると思ってます。それに狭い空間なので、反動の影響もあるでしょうね。
VETHEL 喋り声の聴こえ方も違いそう。
蓮見 だから宇宙のライブ会場、めちゃくちゃ面白いと思います(笑)。
宇宙特有の音 ── 宇宙の音楽がある
VETHEL その宇宙空間で音楽を鳴らすことができたら、どんな体験になると思いますか。
蓮見 その質問をいただいたときに、どちらを定義した方がいいかなと思ったんです。宇宙ステーションの中か、宇宙空間か。
VETHEL 1気圧だと宇宙ステーションの中、つまり、地球にいる感覚、かつ無重力で音が聴ける。
蓮見 そうですね。1気圧なら地上での音楽をそのまま持っていきやすい。
VETHEL 完全な宇宙空間では……。
蓮見 真空は音を通さないので、自分の鼓動だけ聴こえる、そう思ってます。あとは宇宙特有の、例えば惑星が発する音。
VETHEL 惑星が鳴らす音?
蓮見 宇宙特有の音があるんです。ビッグバンが起きたときや小惑星の衝突……サイエンス雑誌に載ってた、宇宙の音の動画があるんですよ。つまり宇宙の音楽ですよね。でもスピリチュアルじゃないんです。どこかに科学でキチンと説明された動画があって。
VETHEL 惑星同士が衝突する音ってテレビや映画だと“ドーン”じゃないですか? 現実はそうじゃないってことですよね?
蓮見 基本的に無音ですね。
VETHEL 無音だけど振動みたいなものがある?
蓮見 そう。宇宙飛行士の方はギターやハーモニカを持っていく人がいて。で、宇宙ステーションって生命維持装置の音をはじめ、機械の音がすごいんです。だけど日本のモジュールだけ静か。これは世界的に言われていて、「きぼう」という実験棟ががあるんですけど、そこだけは本当に静かで。海外のモジュールはかなりうるさいらしいです。
宇宙も、音も、人がいてはじめて意味を持つ
VETHEL 宇宙という無限の広がりと音楽の無限の可能性、二つの無限の間に共通点ありますか?
蓮見 無限……宇宙も音楽も観測者がいないと意味がない。でも観測者がいることによる発見だったり、美しさという瞬間があるなと思っていて、宇宙も、音も、人がいてはじめて意味を持つ。ただの空間が宇宙になり、ただの振動が音楽になる。それが「意味を与える」ということだと思っています。人間の言葉による意味づけっていうところが共通してると思う。“歌に気持ちを乗せる”、“歌に感情を乗せる”って言いますけど、ただの音や空間に対して言葉で意味づけをすることには共通してる部分がたくさんあるのは感じます。
VETHEL 必ず何か相手がいる。
蓮見 だから本当は宇宙人もいるかもしれないし、いる確率の方がいない確率より多いわけです。なので、50年前に打ち上げられた「ボイジャー1号」という衛星には、CDのような記録装置が載せられてるんです。もし宇宙人が拾ったら、何億光年先でも理解できるように、音が記録されてる。僕がアメリカに行ったときに実際にNASAの内部で見て、ロマンを感じたというか……。
VETHEL 誰か必ず相手がいるっていう設定ですよね。ちなみにどういう音が入ってるのですか?
蓮見 おはようとかそんな感じ。ボイジャー1号のゴールデンレコードと言って、1977年だから50年ぐらい前ですね。地球の画像や音を金メッキのレコード盤に入れて、「地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収められており、地球外知的生命体や未来の人類が見つけて解読することを期待している」って感じなんです。
VETHEL このゴールデンレコードはまだ宇宙を?
蓮見 彷徨ってます。言葉や表現や音楽に、宇宙と重なる神秘さを感じますよね。
宇宙人は物理法則で音を響かせてくれる?
VETHEL では、もし宇宙人がいて音楽を奏でていたら、どんな音楽にだと思いますか?
蓮見 これ、めっちゃ面白い質問(笑)。基本的に僕らが理解してる言語やコミュニケーションも違うはずだと思っているんです。なので、物理法則で音を響かせてくれるのかなと思っていて……例えば光や振動で。
VETHEL それを彼らは音楽と呼んでいる。
蓮見 そうですね。僕ら今、空気があるから音楽って鳴ってるわけじゃないですか。空気がないときの音楽の表現、価値っていうのが僕らとは違うけど、地球外生命体にとっては、それを音楽として見たときに表現っていう文脈がどう音楽に昇華していく、変化していくのかは面白い。光とか、粒子レベルで。
VETHEL もしくは身振り手振りかもしれない。
蓮見 考え出すときりがないですよね(笑)。これ、着地がなさすぎて面白い。
VETHEL これはお酒を飲んで、みんなでワイワイ語りたい。
蓮見 確かに1人だともったいない話題です(笑)。

音を出すための道具や環境が変わって、音も結果的に変わる。それが宇宙の音楽
VETHEL 宇宙の音楽って、蓮見さん的にはどういう音ですか? 音楽用語でスペイシーなんて言い方をしますが。
蓮見 よりカオスが生まれるのもあると思っていて……宇宙って何してもOKみたいな、自由さみたいなところをどう表現するか、ですね。
VETHEL 映画『スターウォーズ』ってほとんどの人が知ってるじゃないですか? 宇宙での戦いを想像すると、大体の人はあの映画のあの擬音 ── シュ!シュ!みたいな音を思い浮かべるけど、絶対そうじゃないですよね? どちらかというと『2001年宇宙の旅』の方がより本当の宇宙に近いですかね。静寂感というか。
蓮見 そうですね。『スターウォーズ』は大好きですが(笑)。でもああいうSFって宇宙においてはまた違うんですよ。僕らが今考えてるデザインやファッション、物の考え方って、重力があるからこういう形になってる。無重力になったときのデザインはもちろん形も変わってくると思うんです。例えば無重力で水を飲むと、口の周りにくっついて離れなかったり、窒息する可能性もある。なので飲みやすいデザインにしないといけない。そう考えると宇宙で弾くギターの形も変わってくると思います。
VETHEL 確かに。
蓮見 より宇宙で弾きやすくて、音が鳴りやすい形 ── 今すぐは出ないですけど、音から変わるというより、音を出すための道具や環境が変わって、音も結果的に変わる。それが宇宙の音楽。
VETHEL まさにドラムなんてそうですよね。叩いたら飛んで行っちゃうわけですよね(笑)? だから宇宙で叩いてもOKな形になる。
蓮見 宇宙の音楽を考えると、聴くというより感じるという方が強いのかな。真空状況の話をすると骨伝導や皮膚 ── SIXPADみたいなEMS(電気筋肉刺激)技術があります。そういう身体に直接刺激が来る方法で音を感じて、回りは真空。そういう“悟り”の状態になったとき、自分の心拍や宇宙服から出てくる圧力みたいな信号を変換するような形で、内側からビートがなっていくのかなと思う。つまり自分自身が楽器になる(笑)。
自分の鼓動がビートになる
VETHEL そうするとメロディはそんなに感じず、ビートが強い音楽にはなりそうな予感はしますね。さて、未来において、宇宙空間でのライブやコンサートが実現するとしたら、どんな演出や体験を提供したいですか?
蓮見 新しい音楽体験ですよね。舞台で言うと僕はもっと飛び回りたい。ちょっと音楽とずれますが、ハリー・ポッターのクィディッチ(編注:ほうきに乗って行なう魔法界のスポーツ)ってあるじゃないですか。あれを宇宙ステーションでやりたい。そういう感じで動き回りつつ、音楽を感じる体験を提供したい。それは無重力の環境ですけど、真空でそもそもライブ空間を作れるのかっていう話(笑)。
VETHEL さっきおっしゃっていた身体で感じるライブ?
蓮見 先日アメリカへ行ったときに、異様な光景に出くわしたんです。ハロウィンのころにシリコンバレーの高層ビルに行ったら、そのビルのルーフトップがめっちゃキラキラと輝いてる、でも無音。そこには大量の若い男女がいて、みんなヘッドホンをして身体を激しく揺らして踊ってるんです(笑)。そこで僕もヘッドフォンをつけた瞬間にノリ出して。これってある意味真空と同じだなと思いましたね。そういうコンセプトのパーティで、アメリカで流行っているらしいです。
VETHEL そう考えると音って重要な要素ですね。
蓮見 そうですね。今のところ真空だと宇宙服の中でしか音が聴けない。むしろ宇宙服の中だと聴けて、自分の鼓動がビートになる。
VETHEL 宇宙服を着て真空のところに出る。そして例えば宇宙服の中でApple Musicを流したら、普通に聴こえる?
蓮見 ヘルメットの部分だけは空気があるので聴こえますね。今の宇宙服は空気で身体を守っているので。まー今こんなこと考えてるの、僕らしかいないと思いますけどね(笑)。面白いですよね。これもみんなの意見を聴きたい。
VETHEL とんでもないアイディアが出てきそうですね。次に、宇宙探査の過程で得られるデータや波動を音に変換することが注目されてますが。
蓮見 それがさっきの惑星の音みたいなヤツですね。NASAがデータを公開しています。
船外活動をしている宇宙飛行士はかっこいい
VETHEL 最後の質問ですが、蓮見さんが宇宙からインスピレーションを受けた一番印象的な瞬間は何でしょう?
蓮見 僕は人の可能性と表現に一番好奇心があります。。やっぱり船外活動をしている宇宙飛行士はかっこいい。だって真空で、何もないところに人間がいる。作業してるだけでも人間のすごさみたいなところを感じて、震えが止まらなかったですね。
VETHEL やってみたい?
蓮見 やってみたいです。極限の悟りがありそうじゃないですか? 若田宇宙飛行士が同じ埼玉出身で、お世話になっているんですけど、彼は日本で最大の5回ぐらいかな……船外活動をしているんです。あそこまで人間が極地極限環境で生きられるメンタリティって人知を超えていると思いませんか? プリブリーズ(予備呼吸)では、宇宙服を1回着るのに4時間ぐらいかけて、真空で7〜8時間作業するんです。でも4時間かかるのを僕らとしては30分にしたいと思っています。今のスケジュールだと5〜7年の間に作りたい。
VETHEL それが当たり前の世界になる。
蓮見 僕たちが今取り組もうとしているのは、宇宙服の開発の前段階として、宇宙旅行・滞在における身体側のセンシングによって生体データを取得し、それをより宇宙での安全性や快適性向上に繋げていく、ゆくゆくは宇宙服を通して、宇宙での音楽を最大限面白くする取り組みとか出来るといいですね ── とても面白い試みになるはずです。
VETHEL 宇宙討論会、やりましょう(笑)。

Interview & Text & Photo : VETHEL