
現代アンビエント〜エクスペリメンタル・ミュージックの最前線を走る才人、M. Sageが、2年ぶりとなるニュー・アルバム『Tender / Wading』をRVNG Intl.より9月26日にリリースする。国内盤はPLANCHAより、日本独自のボーナストラック3曲を収録したCD仕様で登場予定である。
M. Sageは、即興アンビエント・ジャズ・カルテットFuubutsushi(風物詩)のメンバーとしても知られ、これまでGeographic NorthやOrange Milkなどの注目レーベルからユニークな作品を発表してきた。本作は、彼が約10年間過ごしたシカゴを離れ、故郷コロラドに戻り、家族と共に荒地を耕す日々の中で生まれたものである。ピアノとクラリネットを中心に、ギターやモジュラー・シンセ、フィールドレコーディングが有機的に交錯するサウンドは、まるで風にたなびく草原のように優しくも力強い。
アルバムに先駆けて公開された先行シングル「Tender of Land」は、作品の最後を飾る楽曲であり、雑草が生い茂る放置地を静かに蘇らせるような、忍耐と回復の情景を音で描き出している。MVでは、Sageがフリーマーケットで見つけた1980年代のスライド写真を元に、自作のビデオシステムで投影・撮影した詩的な映像が展開。視覚と言語の不確かさの中で、風景はいつしかウサギのように、あるいはアヒルのように揺れ動く。
Sage自身はこの作品について「ただ、草むしりをしながらヘッドフォンで聴きたい音楽を作っているだけ」と語るが、そこには哲学的な認識論、家族との生活、土地との関係、音と記憶が織り成す豊かな地層が広がっている。1910年製のハミルトン製アップライトピアノとの出会いから生まれたメロディは、彼の過去の即興演奏とスタジオ実験を昇華させ、より構造的で温もりある音楽へと進化した。
本作では、牧歌的なフォーク・アンビエント、微細な電子音響、さびたオイルドラムのような質感のブルースまで、多彩なサウンドが溶け合い、自然と意図、素朴さと技巧の絶妙なバランスを奏でている。まさに“21世紀のウィトゲンシュタイン的アンビエント”とも言える試みでありながら、リスナーの日常にもそっと寄り添う、深くパーソナルな作品に仕上がっている。
『Tender / Wading』は、環境音楽の新たな可能性を感じさせる傑作であると同時に、今という時代を静かに見つめ返す鏡でもある。Sageが耕した音の大地に、耳を澄ませたい。

リリース情報
アーティスト:M. Sage
タイトル:Tender / Wading
レーベル:PLANCHA / RVNG Intl.
フォーマット:CD(日本独自盤)/デジタル
発売日:2025年9月26日
価格:2,200円+税
※日本盤にはボーナストラック3曲を追加収録、解説付き予定
配信リンク: https://orcd.co/yzbed84