
VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?
ロックバンドの熱狂、静謐なピアノソロ、ミュージシャンの息遣い ── それらを“音のまま”に切り取ってきたカメラマン・佐藤哲郎さん。編集者から写真家へ、音楽メディアの現場で磨かれた眼差しは、今なおレコードジャケットの記憶とともに生きている。写真と音楽、その不可分な関係を語る。

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3~4歳のころに写真が世界の見え方を変革させるんだと分かった
VETHEL そもそも哲郎さんがカメラマンになったきっかけは?
佐藤哲郎 音楽系の出版社に在籍していたときに、ギターやベースの雑誌編集部にいたんですが、そのときに新人が写真を撮る伝統があったんです。最初は読者プレゼントの物撮影から始めて、小さな枠のアーティスト写真などいろいろ撮っていたら、編集長から“撮るのうまいな”と言われて。するといろいろな現場に連れて行かれるようになって、他の編集者から“お前、撮れ”と。初めはギター雑誌で撮って、そのうち別の雑誌、他の編集部から撮ってくれと頼まれるようになって。それで……編集って面倒くさいんですよね(笑)。ものすごく細かい仕事ですごく過酷じゃない? アメリカの何十年か前の調査で、寿命が短い職業1位が確か政治家で、2位が編集者だった気がする(笑)。
VETHEL カメラマンはそのランキングに入ってなかったですか?
佐藤哲郎 確か一番寿命が長いのが画家で、カメラマンは入ってなかったかな。多分、寿命は長いと思いますよ、戦場カメラマン以外は。
VETHEL 編集者は過酷だし、社カメをずっとやらされてたから、そろそろカメラマンになろうと?
佐藤哲郎 実は会社も辞めたかったんです。自分は社員に向かないし、30歳を超えたらそのままズルズルと会社にいそうな気がして。20代のうちに辞めておこうと思って29歳で退職。だからプロのカメラマンになったのが29歳。写真始めたのも遅くて、26歳くらいでした。
VETHEL 元々センスがあったってことですかね?
佐藤哲郎 親父がカメラマニアで、うちに暗室があって、カメラ雑誌も毎月購読してるような人で、よく考えたら小さいときからかなり写真を見てたかな。
VETHEL それで知らずとセンスが養われてたんですね。
佐藤哲郎 小さいときに写真をたくさん撮られたし、うちに暗室はあるし、カメラはあるし、その状況が当たり前で、今考えてもちょっと特殊な環境ですよね。それは圧倒的な影響かもしれない。あと3〜4歳のころかな、写真を斜めにして撮ることがあるじゃない? そしたら世界が斜めに映ってる。あれを見て衝撃を受けた覚えがあって、世の中って普通に見たら水平線が真横に広がってるけど、それが斜めになって、グワっ!と世界が現れて、なんじゃこりゃ!ってものすごくびっくりしたのをいまだに覚えてる。あれがアングルのすごさ。写真が世界の見え方を変革させるんだと分かったんです。
VETHEL ところで音楽系の出版社に入ったのは音楽好きだからですか?
佐藤哲郎 それもあったけど、大学を出て、バイトじゃなくてどこかに就職しないといけないなってときに、たまたま新聞の求人を見たら音楽系出版社の編集者募集があって、音楽も好きだからと思って応募したら受かったんです。
VETHEL どうしても入りたかったわけでもないと?
佐藤哲郎 編集者って何となくゆるそうじゃない(笑)? 私服でもいいし、朝、満員電車で仕事に行かなくていいなって思って。
VETHEL 写真を撮るときは頭の中に音楽は流れてますか?
佐藤哲郎 無心。撮ることしか考えてない。考えるとしたら、早く終わらないかなとか(笑)。
VETHEL 例えばグラビアの写真ってスタジオで撮るじゃないですか? そういうときって音楽は流さないですか?
佐藤哲郎 流してる。自分の好きなものを持っていくし、スタジオには大体有線があって、洋楽チャンネル、特にロック系が多いかな。歌謡曲とかJ-POPがかかってたらチャンネルを変えてくれって言います(笑)。
VETHEL 撮りにくい?
佐藤哲郎 気が散るっていうか、なんか嫌じゃない(笑)? 普段うちでJ-POPを流さないから、そういう環境にいるのが嫌なんだな。やっぱり音楽って環境のひとつだと思うし。
写真と音楽はセットかもしれない、やっぱり
VETHEL 音楽がないときの写真と、音楽かけたときの写真で違いますか?
佐藤哲郎 気持ちの乗り方が違うとこはあります。例えばライブを撮るときって音楽が必ず鳴ってるじゃない? やっぱり音楽が鳴ってるときの写真は、普段はありえないようなアングルとかしてる気がする。大胆になってる。音楽に影響されてるところもあるんだな。パンクロックとかアーティストがすごい動くじゃないですか、どうしても暴力的に。そういうときは広角レンズで突っ込んでいく。逆にジャズのミュージシャンをジャズクラブで撮ったりしても突っ込んだりしない。それは音楽に引きずられてるってことですよね。
VETHEL 音楽は撮影のテンポやシャッターを切るタイミングに影響を与えてるってことですよね?
佐藤哲郎 ある。ライブに関して有名なのは頭三曲(だけ撮影可能)。パンクは激しいし、曲が短いから数分間で撮らないといけない。逆にジャズは曲が長いからいつ撮ってもいいかなみたいな。それは音楽に引き寄せるわけじゃないけども、クラシックってシャッター音がうるさいからそんな撮れない。
VETHEL 静かにピアノソロ弾いてる曲は撮りづらい?
佐藤哲郎 やっぱりシャッター音がするから。弾き語り系、フォークソング、ああいうのが撮りにくい。アルペジオしてるときは撮らずに、コードストロークしたらばっと撮る。
VETHEL 哲郎さんとしてはちょっと激しめのロックの方が撮りやすい?
佐藤哲郎 いっぱい撮れるからね。客もダイブしたりアーティストがジャンプしたりカメラマンなんて目に入ってないから。そういうのを撮ってるときは面白いのが撮れるし、クラシックとか撮りようがないもんね、動かないし(笑)。あとDJも撮りにくい。基本的に焼き鳥屋みたいな動きで、たまに万歳する(笑)。そのときにババっと撮る。それか照明が変わる瞬間、そこでDJが手を上げる……写真的にはつまんないよね。そういう意味で音楽スタイルでライブ写真の撮り方が変わってくるものですね。
VETHEL 哲郎さんはこれまでに特定の音楽や曲からインスピレーションを受けて撮影した作品でありますか?
佐藤哲郎 50〜60年代のブルーノートのジャケットがモノクロで、おそらく中判で撮ってるやつがあるんですけど── フランシス・ウルフってカメラマン、あの人の写真っぽい感じで撮りたいなと思ったことがありますね。音楽に関して影響を受けたのはジャケットからと言えばいいかな。モノクロで、ジャケットだから正方形にトリミングされている写真に一時期影響を受けたかな。
VETHEL 音楽の“間”や“静寂”が、写真における余白や構図に影響を与えることありますか?
佐藤哲郎 音楽自体はないかも。ジャケットとかはそういうビジュアル面からはあるかもしれない。例えばECMのシリーズとか。風景写真なで気が何本か立ってて霧が濃くて……ああいうのはジャケットからある。そういう雰囲気で今回ちょっと撮ってみようかみたいなことで。レコードジャケットってイメージがものすごく湧く。俺はいまだにサブスクをやらなくてCD派なんです。やっぱりジャケットが好きで、頭に組み込まれていて。
VETHEL 哲郎さんはジャケットと音楽が必ずセットになってる。
佐藤哲郎 写真と音楽はセットかもしれない、やっぱり。
ブレてる写真に音がある
VETHEL 写真に音を感じることはありますか? 今のジャケットの理論で言うと、ジャケットを見たら必ずその音が加わって浮かぶ?
佐藤哲郎 それはある。ジャケ買いってあるんじゃん? まさにジャケットの写真を見たら、音のイメージが湧くでしょ? これはクソなアルバムだなって何となく分かる(笑)。特にジャズみたいにセンスがいいと、これ自由に決まってると革新的になる。やっぱりいいアルバムって本企画もそうだけど、周りのスタッフもいいと気合が入ってるから、みんな頑張ってるんですね。絶対にこの良い音楽にふさわしいジャケットは何かって必死でやってる。
VETHEL 哲郎さんが人生の中で特に影響を受けた音楽とかアーティストっています?
佐藤哲郎 それは難しくて、毎月ぐらいにどんどん変わる(笑)。
VETHEL ちなみに今は誰ですか?
佐藤哲郎 今一番聴いてるのはビースティ・ボーイズ(笑)。
VTHEL 昔の写真見たから、聴き直してる感じですか?
佐藤哲郎 正直そんな好きじゃなかったんです。そのときはお仕事な感じで。俺、そんなにヒップホップの人じゃないじゃん(笑)? でもビースティ・ボーイズは偶然この日のためなのか分からないけど、元々すごく売れてたので中古CDが中古店にいっぱい転がってるんですよ(笑)。ほぼ全部中古で買っていて……唯一持ってなかったラストアルバム『Hot Sauce Committee Part Two』もこの前中古で手に入れて。気になる音楽が100円くらいで売っていたら、教養としてとりあえず買うんです。教養として。とりあえず持っておくけど死ぬほどは聴いてなくて、改めて聴き直したら、これはすごいなとようやく気づいた。
VETHEL 昔好きじゃなかったけど今いいっていう音楽、たくさんありますよね。
佐藤哲郎 年をとって良さが分かるんだよね。だから好きな音楽は日々変わるとしか言えない。あるときはビートルズもいいし、あるときはセックス・ピストルズがいいし、あるときはクルセイダーズ最高、シェリル・リン最高、今日はハウスミュージックがいいとか、で、今はビースティ・ボーイズ。あと今は男性アイドルグループのtimelesz。今までアイドル系は一切聴かなかったけど、ちょっと気になって、それを遡ってBLACKPINKとか聴きました。
VETHEL 撮影したからとか、そういう経緯ですか?
佐藤哲郎 timeleszオーディション番組を見たのがきっかけ。それでアイドルの偏見が消えました。音楽って、そういうのすごい。音楽ってやっぱりいいものにお金が集中するじゃん? アイドルって、音楽作家、ミュージシャン、ビジュアル、カメラマン、PV、ファッションも全て一流のものが集中します。伝える人もいてすごいんだよね。これまでは偏見だったとやっと気づいた。
VETHEL この写真には音があると感じた体験とありますか?
佐藤哲郎 ブレてる写真に音があるって感じる。ブレるっていうのは時間の経過じゃないですか? ブレてる写真ってシャッタースピードが遅いわけだから、そこに時間が存在してるわけ。そのブレは時間の流れで、音は時間がないと存在しないということでしょう?
VETHEL それは名言ですね。
佐藤哲郎 ジャンル別にして、ブレてる写真にもやっぱり音があると思う。音楽じゃないかもしれないけど。
VETHEL なるほど。最後に哲郎さんにとって音楽と写真ってどういう関係ですか?
佐藤哲郎 音楽系出版社に行ってなければ写真は撮ってない。その会社は音楽の出版だから音楽がなければ写真を撮ってないってこと。音楽がなかったらその出版社も存在しない。音楽がなければ写真を撮ってないと自信を持って言える。最初に撮ったものが仕事で撮ってたミュージシャンのポートレート。プレゼント写真とか機材でギターを撮ったりしたけど、人物の撮影はすべてプロミュージシャン。だから密接に関係があるんです。

「TETSURO SATO PHOTO EXHIBITION – Beastie Boys」
2025年6月23日(月)〜29日(日)@渋谷XXI
DJ PARTY 28日(土)18時〜23時
出演:Disco Pasokon Crew
入場無料

Interview & Text : VETHEL