
なぜ、ゴッホは何度も向日葵を描いたのか?
なぜ、西洋絵画にはしばしば竜が登場するのか?
そんな素朴な疑問から、美術の奥深さに気づかせてくれる一冊が登場した。
株式会社翔泳社は、書籍『美術のシンボル事典 世界の名画を読み解くための48の手がかり』を2025年5月27日に刊行した。著者は英・美術史家のマシュー・ウィルソン、翻訳は北本聖月による。本書は、美術作品に頻出する“シンボル”を切り口に、古今東西の名画を読み解こうとするユニークなビジュアル事典である。
本書の魅力は、なんといってもその幅広い視野にある。ヨーロッパのキリスト教絵画に出てくる「光輪」や「鷲」はもちろん、インドやエジプト、日本、中央アジアにおける「蓮」や「蛇」、メキシコの神話に由来するモチーフまで、ジャンルや時代、地域を超えて48のシンボルが紹介されている。

たとえば、モネの《睡蓮》に描かれた「蓮」は、東洋では仏教の象徴としても広く知られるモチーフ。だが、それがどうして神聖さや知恵を表すようになったのか ── そんな背景に迫る解説は、単なる美術鑑賞を一歩深めてくれるはずだ。
構成は「権力」「信仰」「不穏」「希望」といったテーマ別になっており、それぞれの章には「ライオン」や「蝶」、「髑髏」や「ユニコーン」といった象徴がフルカラーの実例とともに登場する。言葉ではとらえきれない絵画の背後にある「意味」を知ることで、美術作品が語りかけてくる声が、より明確に聞こえてくるようになる。
著者のマシュー・ウィルソンは『The Economist』やBBCなどでも寄稿を重ねる気鋭の美術史家。これまでも『Symbols in Art』『Art Unpacked』(いずれもThames & Hudson刊)といった著書で、美術の見方を刷新してきた。

ゴッホが描いたのは、ただの花ではない。
それは「愛情」と「忠誠」を象徴する、彼にとってのメッセージだったのだ。
現代を生きる私たちにとって、名画とは「見て終わるもの」ではない。そこに込められた意図や時代背景を読み解くことで、絵画は静かに、しかし確かに語り出す。本書は、そんな“美術を読む”体験を提供する一冊である。

書籍情報
『美術のシンボル事典 世界の名画を読み解くための48の手がかり』
著:マシュー・ウィルソン|訳:北本聖月
発売日:2025年5月27日
定価:3,630円(本体3,300円+税)|B5判・272ページ
出版:翔泳社
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