
音楽、映画、文学、美術── カルチャーの周縁から、つねにその中心を突き刺してきた表現者・中原昌也。その病後初となる小説集『焼死体たちの革命の夜』が、河出書房新社より4月30日に刊行された。
中原昌也は1980年代後半より、「暴力温泉芸者」や「HAIR STYLISTICS」名義でノイズミュージックのフィールドに登場し、ソニック・ユースやベックらとの共演、国内外でのライブ活動によって強烈な存在感を放ってきた。また90年代以降は「映画秘宝」などでの批評活動を皮切りに、徹底した審美眼と膨大な知識量で唯一無二の映画評論を展開。さらに1998年には文芸誌「文藝」での連載をまとめた『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』で小説家としても鮮烈にデビューし、以降、三島由紀夫賞や野間文芸新人賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞など数々の文学賞を受賞してきた。
しかし、2023年1月、中原は糖尿病の合併症による脳梗塞と肺炎を併発。一時は生死の境を彷徨うも、奇跡的な回復を果たす。左半身の麻痺と視覚障害という重い後遺症を抱えながらも、なお筆を折ることなく表現を続けるその姿勢は、まさしく「生還」の証そのものである。

一見突飛でグロテスク、しかし確かなユーモアと虚無感が同居する
昨年末に発表された復帰作『偉大な作家生活には病院生活が必要だ』は、発売直後に重版がかかるなど大きな反響を呼んだ。その勢いを受けて刊行されたのが、本書『焼死体たちの革命の夜』である。
本作には、2016年から病に倒れる直前の2023年までに執筆された短編9作を収録。交通事故の報道から「焼死体」や動物へと飛躍する連想をたどり、やがて「ただ捨てられるだけのボロ布」としての生を見つめる表題作のほか、「わたしは花を買いにいく」「角田の実家で」など、一見突飛でグロテスク、しかし確かなユーモアと虚無感が同居する作品群が並ぶ。
どの作品も、乾いた絶望のなかに宿るささやかな微光を描き、ベルンハルトの呪詛、カフカの不条理、ベケットの静謐、アルトーの残酷、バロウズのクールさを思わせるような、鋭利な文学世界を展開している。翻訳家・岸本佐知子は、「虚無が虚無を支え合ってできたアーチの向こうから、目眩がするほどまばゆい虚無があらわれる」と本書を評している。
中原昌也という作家の魅力が凝縮されたこの短編集は、単なる復帰作にとどまらず、彼の文学がいまや前人未到の地点に達していることを静かに、しかし確かに証明していると言えるだろう。
書誌情報
書名:『焼死体たちの革命の夜』
著者:中原昌也
出版社:河出書房新社
発売日:2025年4月30日
価格:2,090円(税込)
仕様:四六判/並製/240ページ
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309039602
