
詩とフィールドレコーディングを織り込みながらエレクトロ・アコースティックの新たな地平を切り開いてきたフェリシア・アトキンソンと、映像的想像力とオーケストラルな響きでアンビエントを拡張してきたクリスティーナ・ヴァンツォウ。ふたりがコラボレーション・アルバム『Reflections Vol. 3: Water Poems』を4月10日にリリースする。企画は実験的作品を世に送り出し続けるRVNG Intl.による現代コラボレーション・シリーズ〈Reflections〉の第3弾。そのセカンド・シングル「Shines for Eternity」が公開された。
友情が儀式へと変わるとき
2009年の出会い以来、断続的に対話を重ねてきた両者。本作の直接的な契機となったのは、2019年にパリ・フィルハーモニーで行われたコンサートだった。現在はそれぞれ海辺に暮らすふたりにとって、海は風景以上の存在だ。
「海は単なる絵葉書ではなく、人格のようなもの」とアトキンソンは語る。エネルギーであり、謎であり、日々向き合う複雑な存在。その感覚は制作過程において次第に“奉仕”や“儀式”の性質を帯びていったという。ヴァンツォウもまた「このプロセスでは、かつてないほど儀式的な感覚を覚えた」と振り返る。
スポークンワードが立ち上げる環境に、オーケストラ的想像力が支流のように流れ込む。友情と芸術性は、やがて大きな水脈として結晶する。
「Shines for Eternity」 ── 浄化の夢を見る
先行公開された「Shines for Eternity」は、夢のような入浴、あるいは静かな浄化の儀式を想起させる楽曲だ。水しぶきや滴りの親密な響きが、ささやき声、ピアノ、ベル、シンセサイザーの繊細な網目のなかで抽象化されていく。
電子的な処理が幻想性を深め、“耳のためのシネマ”とも言うべき情景が立ち上がる。翼ある生き物が見えない泉の水面をかすめるように横切り、サウンドスケープは淡い光を帯びる。「私たちは水である」という言葉が、静かな神託のように響く。
海・空・石 ── 元素へと還るサウンドスケープ
アルバムは、潮の満ち引きを思わせるピアノが印象的な「Film Still / The Sea」で幕を開ける。ヴァンツォウがデルフォイで録音したフィールドレコーディングも織り込まれ、地質的記憶が声として立ち上がる。至近距離で収録された声と環境音は、やがてシンセサイザー、ゴング、メタロフォン、ヴィブラフォン、ローズ、メロトロンへと拡張していく。
「なぜ船は浮かぶのか? なぜ身体は泳げるのか?」。根源的な問いは、生命の内部を流れる見えない浮力へと意識を導く。声と息遣い、水的テクスチャーが織りなす音像は、日常の親密さと、あらゆる生命がほどけ出す海の謎のあいだにある潜在意識の空間を開いていく。
場所が持つ時間と磁力
録音は、ギリシャ・イドラ島の18世紀邸宅〈The Old Carpet Factory〉、ローマの歴史的建築〈Villa Medici〉、そしてノルマンディーにあるアトキンソンの自宅スタジオ〈Les Dunes〉で行われた。格式よりも重要だったのは、その土地が持つ具体的な時間の層だという。石や鉱物の存在感がスポークンワードの導線となり、音楽は風景と呼応する。
最終ミックスはクレタ島からファイルをやり取りしながら完成。穏やかな忍耐と“間”を大切にしたプロセスが、アルバム全体に静謐な呼吸をもたらしている。
海へのまなざし、未来への祈り
本作の収益の一部は、ギリシャ地中海の保全プログラム「Arion」に寄付される。環境破壊と分断が進む世界において、『Water Poems』は「源の源」へと私たちの注意を向ける。海洋生物学者レイチェル・カーソンの言葉を想起させるように、海辺に立つことは永続的な生命の知に触れることなのだ。
最終曲「Scorpio Purple Skies」では、長年のコラボレーターであるジョン・オルソー・ベネットが参加。エレクトリック・ギターやラップスティールが加わり、宇宙的な余韻を残して物語は閉じる。
『Reflections Vol. 3: Water Poems』は、海を“人格”として見つめ、声と音を通してその呼吸をなぞるアルバムだ。水、空気、岩、宇宙――生命に不可欠な元素へと耳を澄ませることで、私たちは再び、自らの内なる潮の満ち引きに気づくのかもしれない。

Artist: Félicia Atkinson & Christina Vantzou
Title: Reflections Vol. 3: Water Poems
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-252
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.04.10
Price(CD): 2,200 yen + tax
※日本独自CD化
※ボーナス・トラック4曲収録
※解説付き予定
