
電子音が“皮膚”や“呼吸”のように機能するとき、音楽は単なる構造を超えて、感情の器となる。Dinkisによるアルバム『Necessary Love』は、途切れることのない思考の流れのように展開する、境界なき音の物語だ。緊張を孕んだ沈黙と電子の鼓動が交差し、脆さ、喪失、変容、そしてつながりへの希求を、きわめて人間的な言語へと変換していく。
痛みから始まる、内面の変異
物語は「Il Dolore Invisibile」から幕を開ける。遠くにあるはずの痛みが、不可視でありながら重く付きまとう感覚として響く。続く「New Artificial Touch」では、思考はより硬質で機械的な質感へと変容し、人間的な触れ合いがフィルターを通して媒介される現代的な孤独が描かれる。ここで提示されるのは、テクノロジーに包囲された感情の在り処だ。
親密さの空白と、満たされない欲望
冷たく制御された空間の中で浮かび上がるのは、代替不可能な欲求としての“愛撫”。「A Necessary Caress」は埋めようのない空白として立ち現れ、「Immoral Love Scene」では消費された愛の残滓が、不穏な余白として横たわる。親密さは救済ではなく、むしろ欠落を浮き彫りにする装置として機能する。
情熱、幻滅、そして自己の揺らぎ
「Ella (Encuéntrame)」では、存在と欲望の狭間に揺れる邂逅が描かれ、情熱と可能性が震える。しかしその宙吊りの状態は、「No Promises」によって明確な断絶へと変わる。さらに「Phantom’s Name」では、固定されないアイデンティティが彷徨い続ける。ここでの主体は、常に変わり続ける存在として提示される。
傷に触れるというケア、そして再起動
「Her Kisses On My Scars」では、隠されるべきものとしての傷ではなく、触れられ、受け入れられる傷が描かれる。そこにはケアという静かな強度が宿る。そして「System Reset Protocol」は、感情の再起動を告げる強制的な休止点。人工的な触覚が愛の経験を再構築し、電子音はより内省的で肉体的な質感を帯びていく。
抱擁、記憶、そして未だ存在しない未来
「In Your Arms」は避難所のような温もりを提示し、「Oltre Mare」では海が記憶のメタファーとして揺れ動く。手、身体、視線 ── かつて確かに存在したものは、回想の中でのみ生き続ける。ラストの「Mia Luna」は、まだ存在しない絶対的な愛のイメージとして、未来の輪郭を静かに照らす。
『Necessary Love』は、電子音楽が感情の表皮へと変わる瞬間を捉えた、一つの統合された身体のような作品だ。定義するのではなく、感じさせる音楽。親密で不可避、そしてどこまでも人間的な感触が、聴き手を深く包み込んでいく。

Artist(s): Dinkis
Title: Necessary Love
Record Label: Wout Records
Cat.Number: NECESSARYLOVE
Release Date: 27th March 2026
Tracklist:
1) Il Dolore Invisibile
2) New Artificial Touch
3) A Necessary Caress
4) Immoral Love Scene
5) Ella (Encuéntrame)
6) No Promises
7) Her Kisses On My Scars
8) Phantom’s Name
9) System Reset Protocol
10) In Your Arms
11) Oltre Mare
12) Mia Luna
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