
音楽の国際化とマイルス・デイヴィス
1970年代に入り、音楽の世界はますますグローバル化していった。特に、アメリカを中心に広がったジャズの影響は、ヨーロッパやアフリカをはじめとした他の大陸にも強く及んだ。そして、その渦中にいたのが、再び革新的な音楽で世界を驚かせたマイルス・デイヴィスであった。
マイルスは、ジャズの伝統を超えて様々な音楽的要素を融合させ、またその中で国際的な視野を持つようになった。彼の音楽は、アメリカ国内のジャズシーンだけでなく、ヨーロッパやアフリカの音楽とも深く関わり、その影響を受けながらさらに進化していった。
彼の音楽の中で特に注目されるのは、異文化との交わりやコラボレーションの試みであった。それは単に音楽的な変化だけでなく、彼が新しい音楽的地平線を切り開くために常に探求し続けた姿勢の現れだった。
『Agharta』と『Pangaea』──フュージョンの極北
1975年、マイルスは、“インターナショナル”という視点から、新たな音楽的領域へと進み始める。その象徴的な作品が、『Agharta』と『Pangaea』であった。これらのアルバムは、彼がエレクトリック・フュージョンをさらに深化させ、世界的な音楽の流れを意識した音作りを行ったことを示している。
『Agharta』と『Pangaea』は、両方ともライブアルバムであり、彼のバンドは多国籍のメンバーで構成されていた。特に、アフリカン・リズムやアジア的な旋律が取り入れられており、従来のアメリカ的なジャズの枠を超えた音楽が展開されている。マイルスは、音楽を通じて世界中の異なる文化を融合させることを試み、彼の音楽にはアフリカやアジアの音楽的要素が色濃く反映された。
これらの作品は、彼がジャズをはじめとする西洋音楽の枠を超えて、世界音楽の広がりを探求した結果として位置付けることができる。マイルスは、音楽を単なる表現手段としてだけでなく、文化的な架け橋として使おうとしたのである。
新たなアプローチ──ジャズを超えた音楽的探求
『Agharta』と『Pangaea』を通じて見えてきたのは、マイルスがますます“ジャズの枠を越える”という哲学を強く打ち出していたことだった。彼は、即興やエレクトリックサウンド*の探求をさらに深めるだけでなく、音楽そのものに対してまったく新しい視点を持ち込んだ。
例えば、1970年代後半に彼が取り入れたのは、アフリカン・リズムやインド音楽の要素であった。彼は、音楽の形式や技法に縛られることなく、世界各地の音楽からインスピレーションを得て、音楽そのものの力強さを表現しようとした。
また、この時期にマイルスは、音楽的に従来のジャズを超えるとともに、ライブパフォーマンスにおいても即興的な自由を重視するようになった。彼のライブパフォーマンスは、ただ演奏するだけではなく、観客と一体になった音楽のカタルシスを追求するものとなった。
世界との対話──マイルスとヨーロッパ、アフリカ
マイルスの音楽的進化は、アメリカ国内にとどまらず、ヨーロッパやアフリカといった地域との強い関係を築いていった。特に、パリやロンドン、アフリカの都市での演奏は、彼にとって新たな刺激となり、音楽的視野を広げる大きな要因となった。
特に、パリでの活動は重要であった。パリでは、ジャズの伝統が非常に高く評価されており、マイルスにとっても刺激的な場であった。彼はこの地での演奏を通じて、ヨーロッパの音楽家たちと交流を深め、互いに影響を与え合った。
また、アフリカ大陸での経験もマイルスの音楽に多大な影響を与えた。特に、アフリカのリズムや楽器が持つ豊かな響きやエネルギーは、彼の音楽に新たな色彩を加えることとなった。彼は、アフリカの音楽的伝統を取り入れ、音楽が持つ普遍的な力を引き出していった。
国際的な影響力とその後の展開
マイルス・デイヴィスは、音楽的な国際化の先駆者とも言える存在であった。彼は、アメリカのジャズにおける最高峰として知られつつも、世界の音楽に対しても強い影響力を持つ存在となった。
彼の後継者となるアーティストたちも、マイルスが切り開いた道を歩み、彼の音楽的な遺産を引き継いでいった。例えば、ウェザー・リポートやチック・コリア、ジョン・マクラフリンなどは、マイルスの影響を色濃く受け継ぎながら、さらに彼の音楽の幅を広げるような革新を見せていった。
また、マイルスは音楽の中で異なる文化や国々をつなぐ存在として、音楽を通じて人々を結びつける力を持っていた。彼の音楽は、単なるエンターテイメントにとどまらず、音楽が持つ社会的な力や文化的な役割について再認識させるものとなったのである。
マイルス・デイヴィスは、音楽を通じて世界と対話し、その影響力を広げていった。彼の音楽は、単なるエンターテイメントにとどまらず、世界を舞台にした文化的な架け橋となり、音楽に対する視野を大きく広げることとなった。

Jiro Soundwave:ジャンルレス化が進む現代音楽シーンにあえて一石を投じる、異端の音楽ライター。ジャンルという「物差し」を手に、音の輪郭を描き直すことを信条とする。90年代レイヴと民族音楽に深い愛着を持ち、月に一度の中古レコード店巡礼を欠かさない。励ましのお便りは、どうぞ郵便で編集部まで──音と言葉をめぐる往復書簡を、今日も心待ちにしている。








