「AIが奏でる“人間らしさ”という病」vol.7 ガンズの“危険な香り”は、AIによってどこまで別の文脈へ書き換えられるのか?

昨年12月、突如として「Atlas」「Nothin’」という新曲を2曲リリースしたガンズ・アンド・ローゼズ。1987年のデビュー作『Appetite for Destruction』から約39年。いまなおストリートの混沌と危険をまとい続けるバンドが、再び音源を更新したことは大きな話題となった。

その一方、AIカバーの世界では、『Appetite for Destruction』の楽曲が多様なジャンルへと翻訳され、原曲が持つ“生々しさ”とは別の情緒が浮かび上がっている。

ガンズ・アンド・ローゼズは、その荒々しさによって“ジャンルでは括れないロックの象徴”として存在してきたが、AIはその荒野をまったく異なる地形へと描き変えてしまう。

今回は3つのAIアレンジを通して、彼らの名曲がどのように“別の物語”へ変換されるのかを見ていきたい。

Welcome To The Jungle(Soul / Jazz Version)
“狂乱の街”は、ソウルジャズの夜へと姿を変える

https://youtu.be/smXVN2cqfKc?si=CxVYl37cfRA2nmT0

『Appetite for Destruction』の冒頭を飾る「Welcome To The Jungle」。危険な匂いをまとったディレイギター、アクセル・ローズの鋭いシャウト、そして都市の暴力性を音像化したようなリフ。この曲は“Guns N’ Roses=危険”のイメージを決定づけるものであった。

しかし、AIが翻訳したソウル/ジャズ版では、その“狂乱”が1度ほどけ、ネオンの下で軽くスウィングする都会の夜へと変貌する。

ミュートの効いた単音ギターが柔らかく空間を切り裂き、ベースは跳ねるような推進力でリズムを導く。ホーンセクションが奥行きを与え、ボーカルはアクセルの尖鋭性を残しつつも、ソウルシンガーのような熱を帯びている。

原曲の“攻撃性”が、ここでは“しなりのある快楽”へと翻訳されているのが興味深い。Guns N’ Rosesのエネルギーは荒々しいままだが、その向けられ方が別の方向を指している。

Sweet Child O’ Mine(What if WHITESNAKE ver.)
“青空のバラード”が、泣きのハードロックへと再誕

https://youtu.be/obFg6C0MgPY?si=ywc1d3mbhAvNQbqq

『Appetite for Destruction』の3rdシングルとして1988年にリリースされた「Sweet Child O’ Mine」は、ガンズの中でも特に“優しさ”を持つ楽曲だ。

細かくハネるイントロリフと、アクセルの繊細なハイトーンは、当時のハードロックの文脈では異質なほど“光”を湛えていた。

AIが提示した“もしホワイトスネイクの楽曲だったら?”という設定は、その“青空のような優しさ”を“泣きの情念”のハードロックへ変換する。

イントロの構造は原曲に忠実だが、合間に差し込まれる泣きのギターフレーズが一気にホワイトスネイク色を強める。ボーカルはデイヴィッド・カヴァーデイルさながらのソウルフルでダイナミックな歌い回し。ギターソロはより流麗に、重心の低いドラムはトミー・アルドリッジ系の“地鳴り”を思わせる力強さを持つ。

ガンズもホワイトスネイクもハードロックという括りには入るが、このAIバージョンは、“人間の情念を増幅させていく、より劇的なドラマ”へと振り切れている。

原曲の開放感とは逆の方向から、楽曲の別の可能性が照らされる好例だ。

Paradise City(90s Hip Hop Version)
ロックのアンセムは、“メロウなストリート”へ帰還する

https://youtu.be/v5ZqdCAXYFo?si=n-cEqfhpxmemEo5h

ガンズのライブの締めを飾ることが多い「Paradise City」。全員でシンガロングする壮大なサビは、ハードロックのアンセムとして長年親しまれてきた。

AIが提示した90’sヒップホップ版では、その“祝祭性”が静かに溶解し、メロウなストリートナンバーへ変貌する。

ピアノを軸としたクールなビート、リラックスしたグルーヴの上で揺れる歌声、さらにフロウの効いたラップが差し込まれ、原曲とはまったく異なる“都市の表情”が浮かび上がる。

ガンズ・アンド・ローゼズは、その破天荒さゆえ当時のストリートの象徴でもあった。しかしAIが描くストリートは、暴力性や衝突よりも“哀愁と余白”を優先し、90年代のヒップホップが持つメランコリックなムードをまとっている。

同じストリートが舞台でも、表象される感情はまったく異なる。

ここにAI翻訳の面白さがある。

AIは、ガンズの“危険”をどこまで言い換えられるのか?

ガンズ・アンド・ローゼズの音楽には、暴発寸前のエネルギーとストリートの不穏さが常に同居している。だがAIは、その荒々しさを分解し、まったく別の情緒へと再構成してしまう。

AIはまだ、音楽が本来語ろうとする“意味”を理解しているとは言い切れない。それでも構造を書き換える力によって、原曲では見えなかった表情を照らし出してしまうことがある。

ガンズが新作をリリースした今、AIが彼らの名曲をどこまで“別の物語”へ翻訳できるのか。その差異を聴き比べることは、ハードロックとテクノロジーの関係を捉え直す上で、格好の視点になるはずだ。

舞音(まいね):カルチャーコラムニスト。音楽、文学、テクノロジーを横断しながら“感情の構造”をテーマに執筆。AIと人間の創作を対立ではなく共鳴として捉える視点が特徴。

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