
エミー賞史上最多18冠を達成したハリウッドドラマ『SHOGUN 将軍』の劇中音楽で総合アレンジャーを務め、2025年グラミー賞にもノミネートされた作曲家・石田多朗。彼が次に挑んだのは、1300年の歴史を誇る日本の雅楽と西洋クラシック音楽を重ね合わせ、新たな響きを紡ぎ出す試みである。
石田の新作『陵王乱序/太食調音取』が、2025年4月26日よりYouTubeにて公開された。本作は、雅楽の代表的な舞楽《陵王乱序》と、《太食調音取》をもとに制作。笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)、楽琵琶(がくびわ)といった雅楽器に、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといったクラシック弦楽器を加えることで、伝統旋律を再構成している。
クラシックの和声が、雅楽特有の空間に漂う音の間を満たし、旋律やリズムの構造がより立体的に浮かび上がる。これは単なるジャンルの融合ではなく、両者の音楽が本来持つ響きや思想を尊重しながら、新たな対話を試みる試みである。


石田は制作にあたり、次のように語っている。
「雅楽とクラシック、どちらかがどちらかに合わせるのではなく、それぞれの根にある考え方や美意識を踏まえた上で響かせたかった。雅楽の霧のような響きにストリングスが輪郭を与え、音楽が“人の心に向かって進む”瞬間を探りました」
また、デジタル音源として先行リリースされた本作に映像作品としての表現が加わったことで、音楽の構造や演奏の緊張感、そして楽器そのものが持つ美しさを、より立体的に感じることができる仕上がりとなった。映像では、中村仁美(篳篥)、七澤達哉(ヴィオラ)らが演奏に参加し、石田の構想を鮮やかに具現化している。
『陵王乱序/太食調音取』は、石田多朗の音楽観の延長線上にありながらも、雅楽そのものの新たな可能性を問い直す作品である。そして、未来に向けた劇伴や空間音楽の可能性をも感じさせるものとなっている。
悠久の時間を生きてきた旋律に、新たな光を当てるこの挑戦。過去と未来、東洋と西洋をつなぐ音の旅路に、ぜひ耳を傾けてほしい。

「陵王乱序/太食調音取』石田多朗
映像公開日:2025年4月28日
公開先:YouTube(全世界向け)
■使用楽器
雅楽器:笙、篳篥、龍笛、楽琵琶
クラシック楽器:ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ