
二極化、偏見、SNSの暴走──カオスはすでに私たちの隣にある
『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』『ボーはおそれている』で現代ホラーの文法を更新してきたアリ・アスター監督が、最新作『エディントンへようこそ』を12月12日(金)に全国公開する。
コロナ禍でロックダウンされたアメリカの小さな町を舞台に、選挙戦がSNSを通じて炎上し、やがて全国規模の騒乱へと発展していく“社会派スリラー”である。
そのジャパンプレミア翌日、監督は Dover Street Market Ginza にて来場者とのトークイベントに登壇。“映画におけるカオスと恐怖”について、そして本作が映し出す「いま」に対して語った。

「反応が分かれるほど、映画は生きている」
本作はアメリカ、そしてカンヌ国際映画祭で上映された際、評価が真っ二つになったという。
しかし、アスター監督はそれを歓迎する。
「反応が真っ二つになるのは、成功の証拠です。
私たちは皆、声を張り上げている。相手の言葉を聞かずに。
本作はその“いま”をそのまま描いています。」
SNS上の罵倒、確証なき陰謀論、引き裂かれていくコミュニティ。
スクリーンの中で起きることは、すでに日常であり、フィードの中にある“現実”を模倣する。
「混沌を描くこと。それが私の挑戦です」
なぜアリ・アスターの映画には常に“混沌”があるのか。
その問いに、監督は即答した。
「日常がすでに混沌だからです。
安心を与える物語にするつもりはありません。
観客が“どう受け止めるか”を試す映画です。」
恐怖とブラックユーモアが混ざり合うことで、観客は気づく。
笑いながら、同時に息が詰まっていることに。

それでも、私たちは“ひとりではない”
本作はホラーでも陰謀スリラーでもあるが、同時に“孤独の映画”でもある。
監督は最後にこう語った。
「恐怖や絶望を共有することで、
もしかしたら“ひとりじゃない”と思えるかもしれない。
そのわずかな灯りこそ、この映画の意味です。」
豪華キャストによる“現代の縮図”
主人公の保安官を演じるのは、『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受けた ホアキン・フェニックス。
対立する市長候補には『ザ・ラスト・オブ・アス』の ペドロ・パスカル。
さらに、エマ・ストーン、オースティン・バトラーら、いま最も磁力を持つ顔ぶれが揃う。
小さな町の争いは、やがて国家規模の“感情の焼却炉”となる。
その行方を観る者は、ただ見届けるしかない。

公開情報
『エディントンへようこそ』
2025年12月12日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー ほか
公式サイト:https://a24jp.com/films/eddington/
この映画は、現実の“いま”を映している。
だからこそ、怖くて、滑稽で、痛ましい。
私たちは今日も、炎上する世界を生きている。
