
AIが再構築した名曲たちを紹介するコラム「AIが奏でる“人間らしさ”という病」。
第2回となる今回は、第1回とは方向を180度反転。前回の「ハードロック/メタル → ソウル・ファンク」編とは対照的に、ポップスやアシッドジャズの名曲をメタルの重音で再構築した3曲を取り上げたい。
AIの“解釈”が、どこまで人間の衝動を模倣できるのか ── その限界と滑稽さ、そして快感を確かめる試みでもある。
Michael Jackson「Beat It | Progressive Metal Version」
ポップの旋律が、鋼鉄のリフに飲み込まれる
原曲「Beat It」は、1982年リリースのマイケル・ジャクソン『Thriller』収録曲。
ポップスでありながら、エディ・ヴァン・ヘーレンのギターソロを起用するなど、ロック的アティチュードを大胆に取り入れたナンバーとして知られている。
このAIカバーでは、エモーショナルなリードギターが先陣を切り、その背後から壮大なストリングスとクワイアが立ち上がる。
中盤では、緊迫感のあるバスドラムと、ギター&ベースが噛み合うリズムワークが炸裂し、そこから流麗なギターソロへと雪崩れ込む。
構成の精巧さと過剰な演出が同居する展開は、テクニカル系メタルへの深い理解を感じさせる。
終盤、ボーカルのシャウトがAIとは思えないほどの“生々しさ”を帯び、サウンドの中に人間の焦燥が滲む。
模倣の域を越えて、AIが“感情の形”そのものを演算しているような錯覚に陥る瞬間だ。
The Rolling Stones「(I Can’t Get No) Satisfaction – Blackened Death Metal」
ブルースが腐食し、グランジが芽吹く
1965年に発表されたザ・ローリング・ストーンズの代表曲を、AIはブラックデスメタルの文脈で再構築──しかし、実際にはグランジ的な退廃と倦怠感が前面に出ているアレンジだ。
大胆にチューニングダウンされたギターが、まるで大蛇が地を這うような低音を響かせる。
ファズのように歪んだサウンドが空気を濁らせ、そこに荒々しいボーカルが乗る。
“満たされなさ”というテーマを、ブルースの焦燥ではなく、金属疲労のような無表情さで描くあたりがAI的だ。
レコードがゆっくりと回る映像も好印象。
原曲が掲げた“若者の反逆”が、AIの手によって“時代のノイズ”へと再定義されている。
Jamiroquai「Virtual Insanity (AI Metal Cover | Tool Style)」
未来派ソウルが、暗黒のポリリズムで目を覚ます
ジャミロクワイの「Virtual Insanity」(1996年)は、テクノロジーと人間性を軽やかに歌った名曲だ。その軽やかさを、AIは見事に“沈めて”みせた。
イントロから歌が始まるまで、約2分半。
今年12月に約19年ぶりの来日公演を開催するTOOLを思わせる重厚なリズムセクションがポリリズム的にうねり、民族音楽のようなスピリチュアルな緊張感を漂わせる。
そこに原曲のキャッチーなサビが現れる瞬間、人間のポップセンスとAIの執拗な構築性が衝突する。
静と動のコントラストはTOOL譲り。
8分を超える大曲ながら、全編を通してテンションを維持しており、AIは細部の構築における持続力と精度で、人間の聴覚的限界を軽々と越えてみせる。
原曲が“仮想の狂気”を歌ったように、このカバーもまた、“再構築された現実”の中で鳴り続ける狂気だ。
AIが“叫び”を理解する日
ポップスの美徳が“調和”であるなら、メタルの美徳は“過剰”だ。
そしてAIは今、その“過剰”の構造をも学びつつある。
そこに宿るのは、模倣ではなく、人間が音楽に込めてきた根源的な暴力への理解だ。
AIが“叫び”を完全に理解する日は、もしかするともう遠くないのかもしれない。

舞音(まいね):カルチャーコラムニスト。音楽、文学、テクノロジーを横断しながら“感情の構造”をテーマに執筆。AIと人間の創作を対立ではなく共鳴として捉える視点が特徴。








