
永遠の詩情、『赤い風船』『白い馬』が4Kで再びスクリーンへ
アカデミー賞®脚本賞、カンヌ国際映画祭短編パルム・ドール賞など数々の栄誉に輝いた不朽の名作『赤い風船』『白い馬』が、4Kデジタル修復版としてスクリーンに帰ってくる。映像詩人アルベール・ラモリスが生み出した夢と希望の世界が、70年の時を経てかつてない鮮明さで甦るのだ。11月14日よりシネマート新宿ほか全国順次公開される本企画では、これらの名作に加え、日本初公開となる『小さなロバ、ビム』『素晴らしい風船旅行』『フィフィ大空をゆく』を含む全5作品が上映される。さらに、全作品を象徴する新たなオルタナティブポスターと、入門者に向けた“はじめてのラモリス・ガイド”も公開された。


はじめてのラモリス・ガイド
候補1:『小さなロバ、ビム』オリエンタルな雰囲気も魅力
アルベール・ラモリスの最初の劇映画。チュニジアのジェルバ島を舞台に、アブダラという少年と、ビムというロバの心の交流を描いた。ロバを主役に据えた映画といえば、『バルタザールどこへ行く』があるが、その原点がこの映画で、ここでもロバは、次から次に人の手へと渡っていく。ビムがとにかく愛らしい。また、この島のオリエンタルな雰囲気も魅力的だ。この映画のラッシュを観ていたく気に入った詩人のジャック・プレヴェールが、ナレーターを務めた。
候補2:『白い馬』「天空の鏡」を彷彿とさせる幻想的なシーンは必見
ラモリスの2作目の劇映画。今回は、南仏のカマルグ地方を舞台に、少年と馬の触れ合いを描いた。カマルグの湿地帯は、白い野生馬がいることでも有名だ。その群れの中にいた、カウボーイたちも手を焼く一頭の白い馬が、唯一心を許したのがその土地で漁をしながら暮らす金髪の少年だった。馬に乗った少年の湿原の水面への反射する映像が、まるでウユニ塩湖の「天空の鏡」を彷彿とさせる幻想的なシーンは必見。この詩情あふれる映画は、カンヌ国際映画祭の短編パルムドール、ジャン・ヴィゴ賞などを受賞している。
候補3:『赤い風船』人間の言葉のわかる風船
ラモリスの3作目の劇映画にして初のカラー作品。今回は、監督の実子パスカル少年と風船との心の交流を描いた。再開発前のパリのメニルモンタンに風船の赤が映える。その人間の言葉のわかる風船の、人力による自由自在な動きには誰もが驚愕するだろう。この映画詩に魅せられた映画監督は、アッバス・キアロスタミ、ホウ・シャオシェンなど後を絶たない。この児童映画の金字塔と呼ばれるようになった映画は、カンヌ国際映画祭の短編パルム・ドール、アカデミー賞脚本賞、ルイ・ドゥリュック賞などに輝いた。
候補4:『素晴らしい風船旅行』黒澤明をも虜にした冒険映画の名作
ラモリス初の長編劇映画。ラモリスは、息子パスカルを、今度は気球による空の旅に誘う。空撮に目覚めたラモリスは、「ヘリヴィジョン」の撮影装置の開発にまで携わった。北仏から始まる空の旅は、アルザス、パリ、ブルターニュと飛行した後、折り返してロワール川を遡りつつ、アルプスを越え、最後はあの南仏のカマルグを目指すのだ。眼下に捉えた、エッフェル塔、シュノンソー城、モンブランなどのうっとりするような美しい姿。あの黒澤明をも虜にした冒険映画の名作である。
候補5:『フィフィ大空をゆく』ジャック・タチやピエール・エテックスの世界と接続
ラモリスの2作目の長編劇映画。前作では、気球で空を目指したラモリスだったが、ついに、人間が自らの力で(30メートルのクレーンで吊って)空に羽ばたく映画に挑んだ。時計泥棒のフィフィが逃げ込んだ先がサーカスで、そこで演し物の一つである鳥人間になるというスラップスティックな要素満載のこの映画。ラモリスの世界が、ジャック・タチやピエール・エテックスの世界と接続する。そして、彼が眼下に見る風景は、やはり「ヘリヴィジョン」によるもので、ここでもその威力を発揮するのだ。
色と詩、そして愛──ラモリスが描いた「人間と自由」
アルベール・ラモリス(1922–1970)は、少年と動物、あるいは風船や風といった“自由の象徴”を通して、世界の美しさと儚さを描き続けた映像詩人である。『赤い風船』では言葉を超えて少年と風船の心が通い合い、『白い馬』では少年と野生馬の魂の共鳴が描かれる。どの作品にも、現実と夢の狭間に漂う“希望”が息づいている。
ラモリスの詩的映像世界は、アンドレイ・タルコフスキー、ホウ・シャオシェン、ウェス・アンダーソン、デイミアン・チャゼルといった巨匠たちにも影響を与えた。今回の4K修復では、息子パスカル・ラモリスが監修を担当。父の意図を忠実に再現すべく、当時のフィルムの質感に可能な限り近づけた。
日本初公開となる3作品、その魅力
『小さなロバ、ビム』は、少年とロバの友情をチュニジアの風土の中に描く初期劇映画。詩人ジャック・プレヴェールがナレーターを務め、オリエンタルな叙情が漂う。
『素晴らしい風船旅行』は、祖父と孫が気球で空を旅する長編冒険作。空撮技術「ヘリヴィジョン」を駆使し、黒澤明をも魅了した空の映像美が圧巻である。
『フィフィ大空をゆく』は、サーカスを舞台に“人が空を飛ぶ”という夢をコミカルかつ詩的に描いた意欲作。ジャック・タチやピエール・エテックスに通じるユーモアが光る。



5つの色でよみがえる、オルタナティブポスターと“初めてのラモリス・ガイド”
今回解禁されたオルタナティブポスターは、それぞれの作品の世界を象徴する色彩と構図で再構築されたアートワークとなっている。新たに公開された“初めてのラモリス・ガイド”では、映画やアートに造詣の深いライター小柳帝がナビゲーターを務め、作品ごとの見どころや背景を丁寧に紹介。ラモリス作品の入門編として最適な内容となっている。
ラモリスの風は、いまも吹いている
48歳という若さでこの世を去ったラモリスだが、彼の映画は今も世界中で息づき続けている。愛と自由への賛歌、夢を信じる心、そして映像そのものが持つ詩的な力──それらは70年を経た今も色褪せることなく、私たちに「生きることの歓び」を静かに思い出させてくれる。
風船が風に乗るように、少年が馬と駆けるように。ラモリスの映像詩は、再びスクリーンの中で、観る者の心に風を吹かせるだろう。
『赤い風船 4K』『白い馬 4K』ほか全5作品
11月14日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
公式サイト:www.akaifuusen4k.com
公式X:@Akaifuusen4K
