[音楽と〇〇]「AIだけで踊れる夜は来るか?」── 金澤亮が語る、“音楽とAI”の現在地と未来図

VETHELの特集企画「音楽と〇〇」は、音楽と寄り添うさまざまなサブカルチャーとの交わりを探るインタビューシリーズ。〇〇はアートやゲーム、漫画、映画、ガジェット、建築、グルメ、旅行、乗り物、スポーツ、アウトドア……など何でもあり。音楽とその界隈の関係を語っていただきます。今回のゲストは?

2025年8月、東京・渋谷で前代未聞のクラブイベントが開催される。その名も「AI MUSIC NIGHT」。流れる音楽はすべてAIによって生成されたトラック ── だが、それを操るのは人間のDJだ。主催するのは「東京AI祭2025」代表・金澤亮さん。AIとカルチャーの交差点でいま何が起きているのか? 本当に“人間の感性”は置き換えられるのか? AIに魅せられた研究者は語る。「AIは模倣はできても、まだジャンルを生み出せていない」。AIと音楽の未来、そのリアルな輪郭を探るインタビュー。

金澤亮(東京AI祭2025 代表):東京理科大学修士課程にて「説明可能なAI」「マルチモーダル言語モデル」の研究に従事。Weights & Biasesでのインターン経験を通じて、最先端AI技術や国内外のAIエコシステムに精通。現在は、日本最大級のAIカンファレンス「東京AI祭2025」の代表として、500〜2,000人規模のイベントやピッチ、ハッカソンなど多彩なAIイベントを主催・牽引している。
目次

こういう未来が本当に来るかもしれない

VETHEL 金澤さんがAIに興味を持ったきっかけは?

金澤 本格的に興味を持ち始めたのは2022年、大学の研究室に入った頃です。もともとSFが好きで、特に『Detroit: Become Human』っていうゲームにすごくハマっていて。AIやヒューマノイドが当たり前に存在する世界を描いていて、「こういう未来が本当に来るかもしれない」と思ったのがきっかけでした。技術的な面でも、統計やデータサイエンスが好きだったので、自然とAIに引き込まれていきました。

VETHEL 今回のAI楽曲限定のDJイベントは、なぜ開催しようと思ったのですか?

金澤 本音を言えば、理想は“その場でAIが音楽をリアルタイムに生成し、それをDJが即興で使う”というスタイルなんです。でも、今の技術的にはまだ難しい部分があって。だからまずは、あらかじめAIで作った曲だけを使って、人間のDJがプレイするイベントをやってみようと。今まさに流行っているジャンルとAIが自然につながってきている感覚もあって、ちょうどいいタイミングだと思いました。

VETHEL AIが作った曲だけでDJプレイをして、“人間らしさ”は残るのでしょうか?

金澤 めちゃくちゃ残ると思います。たとえAIが作った曲でも、それをどう選び、どう繋ぎ、どう盛り上げるかはDJ次第。人間の世界観やセンス、プレイの癖がそこに表れます。やっぱり“選んだ人の感性”っていうのは、音楽イベントにおいてすごく重要な価値だと思っています。

文化の起源になるような創造性は、まだ人間にしかできない

VETHEL AIは“創造的”になり得ると思いますか?

金澤 人間が今までやってきたことは、AIもできるようになると思っています。たとえば既存のジャンルを模倣することや、それっぽい音楽を出すことは得意です。でも、AIが“ジャンルそのもの”を作る、つまり文化の起源になるような創造性は、まだ人間にしかできないと思っています。音楽って、何か一つのバンドや作品が出てきたことでムーブメントが生まれ、次の世代に影響を与えて……っていう連鎖でできているので、そこには人間の価値観が創造性として介在することが必須だと思います。

VETHEL 金澤さんご自身は音楽制作の経験はありますか?

金澤 バンドはやってましたが、曲作りはしてなかったです。聴く方としては、J-POPやJ-ROCKが好きですね。back numberとか。インディーズ時代の荒削りさに惹かれてました。あとはビートルズやクイーンなどの“昔の名盤”も好きです。

僕たちの価値観にフィットさせる最終調整には、やはり人間の力が欠かせない

VETHEL AIが作った音楽は、リスナーにはどう届いていると思いますか?

金澤 今の段階だと、“ちょっとAIっぽいな”って感じる部分があると思います。たとえば、ボーカルが肉体の限界を超えたような声だったり、不自然に完璧すぎるメロディラインだったり。ある種の“サンドボックス感”というか、どこか現実味が薄い印象が残ることが多いですね。でも、逆にそれが面白いと感じる人もいるんじゃないかと思っています。

VETHEL 「AIで音楽が作れるなら、人間はいらないのでは?」という意見についてどう思いますか?

金澤 確かに、技術的にはAIが“良い曲”を作ることは可能になってきています。でも、僕らが音楽に感動するのって、単なる音の良さじゃなくて、その裏にあるストーリーとか時代背景だったりするじゃないですか。たとえばKingGnuの音楽が刺さるのは、僕らが2020年代の空気を生きているからであって、60年代に同じ曲が出ていたら当時の音楽シーンと歌詞や曲調の乖離が大きすぎておそらく響かなかったと思うんです。AIがいくら“すごい曲”を作れても、今この瞬間の音楽シーンや僕たちの価値観にフィットさせる最終調整には、やはり人間の力が欠かせないと感じています。

クラブミュージックやDJシーンでは、AIとの相性が良い

VETHEL 東京AI祭では、なぜ“音楽”に注目されたのですか?

金澤 これまでは、開発系のコンテンツやイラストなどが中心だったんです。でも、最近AI音楽の動きがすごく活発になってきていて、そこにちゃんと向き合いたいと思ったんです。音楽って感情に直結する表現ですし、AIとの関わり方もまだまだ未知数。だからこそ今回の取り組みには、すごく意味があると思っています。

VETHEL 5年後、AI音楽がさらに浸透した世界では、ライブやクラブシーンはどう変わると思いますか?

金澤 まず、演出まわりは間違いなく変わってくると思います。照明とか映像とか、曲に合わせて自動で変化する仕組みは、すでにいろんなライブで導入されてきてますよね。それがさらにAI化されて、もっと繊細な演出ができるようになる。でも、音楽そのものにAIが浸透していくのは、もう少し時間がかかるかもしれません。特にバンドやシンガーのライブだと、AI音楽の使い方が演出以上に“中身”に関わってくるので。その分、クラブミュージックやDJシーンでは、AIとの相性が良いと感じています。

VETHEL 将来的にはリアルタイム生成の“AI DJ”も可能になると思いますか?

金澤 suno.aiのような非常に質の高い音楽を生成できるAIも登場していますが、そういう技術をベースとしたリアルタイム生成には少し時間がかかると思います。そのようなAIが実現されたら、リアルタイムでAIが音楽を作ってそれをそのままプレイする──そういうイベントも実現可能になると思います。僕自身も、いつかそれをやってみたいですね。

東京AI祭2025

金澤亮 X

Interview & Text : VETHEL

イベント概要

  • タイトル:AI Music Night – 生成AI音楽だけのクラブイベント –
  • 日時:2025年8月8日(金)OPEN 19:00 / CLOSE 23:00
     DJタイム:20:00–22:00|フリートーク:22:00–23:00
  • 会場:ShibuyaXXI(東京都渋谷区宇田川町12-7 渋谷エメラルドビル1F)
  • 料金:2,500円(飲み放題付き・再入場可) ※当日会場払い
  • 定員:先着70名

Line-up(DJ)

  • アメミヤユウ(20:00 – 20:40)|体験作家
  • サカキミヤコ(20:40 – 21:20)|環境作家
  • 北口大介(21:20 – 22:00)|編集者
  • VJ:TBA(近日発表)
SHIBUYA XXI · 〒150-0042 東京都...

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