ポール・カークブレンナー、新曲発表──“もし1992年がそのまま進化していたら”という仮説から生まれた音

テクノ界の巨星、ポール・カルクブレンナーが7月25日、新曲「Ninety – Two」をリリースした。これは9月に発表予定のニューアルバム『The Essence』の幕開けを告げる先行シングルであり、すでにライブでは大きな反響を得ている注目の楽曲である。

「Ninety – Two」は、その名の通り1992年の音楽的エッセンスを現代に蘇らせた一曲だ。130BPMのヒプノティックなグルーヴに乗せて響くのは、かつて90年代のUKレイヴ・コンピレーションに頻繁に登場していた印象的なヴォーカル・サンプル。カルクブレンナーにとってこれは単なる懐古ではなく、「もしあの時代の音が、そのまま途切れず進化していたら」という“IF”の世界を描いたコンセプチュアルな作品である。

極限まで削ぎ落とされたサウンドは、ほぼインストゥルメンタル。ノスタルジーではなく、今という時間軸にしっかりと根ざした音像であり、記憶の奥底に眠る“何か”を呼び覚ますような感覚をもたらす。カークブレンナーは語る。「これは決して過去への回帰ではない。むしろ、未来へと続く別のレールを想像した音だ」と。

この楽曲を起点に展開されるニューアルバム『The Essence』は、2018年の『Parts of Life』以来、実に7年ぶりのフルアルバムである。制作は数年にわたって行われ、ミッドセンチュリー・モダンと1970年代ラグジュアリーが融合する、石と木と毛皮に囲まれた自宅アパートで生み出された。ヴィンテージTVや白熱灯、観葉植物が醸すその空間は、作品全体に有機的なテクスチャーを与えている。

「アルバムを作るつもりはなかった」とカルクブレンナーは言う。「でも曲が自然と積み重なっていく中で、“まとまり”という感覚の素晴らしさを再発見したんだ」。そしてタイトル『The Essence』に込めた意味についてはこう語る。「ミニマリズムではない。“本質”という意味だ。この作品は、自信を持って届けられるアルバムになった。過去作には捨て曲もあった。でも今回は一曲たりとも、いや、一瞬たりとも“フィラー”はない」

ベルリン出身のポール・カークブレンナーは、アンダーグラウンドからスタジアム規模の成功までを成し遂げた稀有な存在である。映画『ベルリン・コーリング』への主演とそのサウンドトラック「Sky & Sand」の世界的ヒットにより、彼はクラブと映画、メインステージを架橋する存在として揺るぎない地位を築いた。8枚のアルバム、ソールドアウトのアリーナツアー、トゥモローランドのヘッドライナー、さらにはドイツ政府によりベルリンの壁崩壊記念イベントで40万人の前での演奏にも招聘されるなど、カルクブレンナーのキャリアは、まさに電子音楽の“枠”そのものを塗り替えてきたと言っても過言ではない。

そんな彼が2025年、満を持して放つ『The Essence』は、ポール・カークブレンナーというアーティストの「現在地」を示す、最も純度の高い作品となりそうである。

※「Ninety – Two」のストリーミングリンク
https://paulkalkbrenner.lnk.to/theessence

※最新情報は公式SNS・Webサイトにて
Instagram | FacebookX | YouTube | Website

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!