[Something Essential for Your Life]もしあなたの人生が映画ならサントラに絶対必要な曲は? ゲスト:勝山桂介

VETHELの音声連動コンテンツ「Something Essential for Your Life」。第一回のテーマは「もしあなたの人生が映画だとしたら、サウンドトラックに絶対必要な曲は?」。それぞれの瞬間で監督(ゲストご自身)はどんな曲をかけ、どんなドラマチックなストーリーにし、一本の映画になるのか……そんな架空のサウンドトラックをじっくりと考えてきていただきました。今回のゲストはドラマーの勝山桂介さんです。

打楽器奏者。吹奏楽、バンド活動、テレビ出演を経て、シンガーのバックで演奏。音楽イベントスタッフ。打楽器交流イベント【Da・enda】開催。
楽器、演奏、音楽が好きな人を募り繋がりを広げている。

太鼓に出会えたことに心から感謝しています

 ── そもそもなぜ、打楽器に興味を持ったんでしょうか?

勝山 生まれは長野の松本なんですけど、自分が赤ちゃんのときに浅草へ家族旅行に行ったらしいんです。雷門前の商店街で、言葉も喋れない僕が何かを指差して、あれが欲しいと。そこには子供用の小さい和太鼓が売っていて、それをあげたらおとなしくなったことがあったそうです。両親はそのとき、この子には太鼓を持たせるのがいいって思ったみたいで。それがきっかけで小さいころから地元の太鼓連青年団として和太鼓を叩いたり、その延長線で吹奏楽部でドラムを叩いたりと…。きっかけで言うと母親と父親の気まぐれなんです(笑)。

 ── 一番最初が和太鼓?

勝山 最初は和太鼓でした。地元のお祭りや大晦日の奉納太鼓=神様のお納めする太鼓を叩いたりっていうのが最初の打楽器経験です。

 ── で、学校に行き始めて部活動に入ってドラムに?

勝山 そうですね。当時、母が職場の軽音部に所属していて、そこのドラマーが子供用のドラムをプレゼントしてくれて、月1回ぐらいのペースで教えに来てくれて。その影響で西洋音楽を聴き始めたんです。

 ── プロになったきっかけは?

勝山 僕、ずっと自己表現に苦手意識がある人間だったんです。三者面談のときに先生から、「勝山くんは太鼓を叩いてなかったらいじめられてたよ」と言われるくらい(笑)。それくらい当時は太鼓しかなかった。なのでプロになろうではなくて、僕には太鼓しかないと思い込んでたんです。高校卒業後も安直な考えで、太鼓を叩いていられるところ、つまり上京して専門学校に入って卒業して、ありがたいことに今、シンガーソングライターさんや施設の方に声をかけていただいて太鼓を叩いてる感じですね。今は太鼓に出会えたことに心から感謝しています。

 ── では早速「もしあなたの人生が映画だとしたら、サウンドトラックに絶対必要な曲は?」ということで、まず自分が生まれたときのシーンはどんな曲を流したいですか?

勝山 僕、アニメ、ゲームオタクなんですけど、『カウボーイ・ビバップ』というアニメが好きで。流したいのは劇場版テーマ曲「Ask DNA」です。

 ── その曲がかかってオギャーと生まれるイメージ?

勝山 ですね。歌詞が好きなんです。どうしたらいい?って思ったら、「そんなの自分で考えろ、己に聞け」「DNAに聞け、それでも決められないおめでたいやつはママに聞け」という歌詞で、突き放しているように感じるけど自分の直感や感性で決めればいいじゃんって内容。このメッセージが人生の始まりにふさわしいと感じています(笑)。

 ── 『カウボーイ・ビバップ』って年齢的にリアルタイムじゃないですよね?

勝山 リアルタイムではないです。父が収集好きで、アニメと西洋音楽 ── ビートルズやキッスあたりのレコードやCD、VHSを集めていて、倉庫にこっそり入ってよく漁ってたんです(笑)。

 ── 宝の山ですね(笑)。

勝山 今思い返したらそうなんですよ(笑)! 今でもタイムスリップして、もっともっと入り浸りたいと思ってます。

僕の根幹にあるのは、小学生くらいのときにみんなで歌ったこの歌

 ── 実際に、初めて自分で耳にした曲は覚えてますか?

勝山 最初に表現した曲が初めてキチンと聞いた曲かなと考えて、そうなると思い出すのは小学校の合唱曲でよく歌われる杉本竜一さんの「Believe」。最初に自分で“こんなこと歌ってるんだな”とか“このメロディー素敵だな”って思いながら聴き込んだ曲です。この歳までいろいろなポップスやロックのかっこいい曲、素敵な曲、聴いて演奏してきましたけど、僕の根幹にあるのは、小学生くらいのときにみんなで歌ったこの歌だと感じます。

 ── では小学校、中学校、高校を表すテーマソングは何でしょうか?

勝山 チック・コリアの「SPAIN」。

 ── 突然(笑)!

勝山 ですよね(笑)。母が軽音部に入ってた話の流れで、地元の音楽イベントで、母のバンドが出演するときに、“1曲、息子にやらせるか!”ってなって、ジャズ好きなピアニストが「SPAIN」やりたんだけど、と(笑)。

 ── そのときは小学生?

勝山 小学生4~5年生。ヒイヒイ言いながらサンバキックの練習して、複雑な構成なので、母と譜面を買いに行って、そもそも譜面はどう見るんだというところから始めて(笑)。キチンとアンサンブルをやったのって「SPAIN」が初めての曲だったんです。なので映画のシーンで考えたら、自分がこの曲を演奏するシーンを絶対入れたいです。

 ── では、これまでやってしまった最大の失敗をしたときにかける曲は?

勝山 小さいころはかなりネガティブ少年で、寝る前に“なんでこんな日々を送ってるんだろうな”とズーッと泣きながら眠りについてた(笑)。最大の失敗って色々ありますが、自分の人生の中で暗かった時期やつらかった時期…無駄ではなかったけど、失敗ってその時期だなと。2曲あるんですけど、1曲目が『RENT』というミュージカル曲「Will I」です。エイズや同性愛などでカオスだった時代のアメリカが舞台の物語です。エイズの人達がグループケアで話し合うときの楽曲で、「自分には尊厳があるのかな、誰がケアしてくれる人はいるのかな。明日はこの悪夢から覚めるのかな。」って短い歌詞。

 ── 曲調としては暗い?

勝山 暗いですね。でも輪唱で歌われて問題は解決していないかもしれないけど“そうだよね、不安だよね”っていう気持ちを共有することは救いなんだと感じられる曲です。

もう1曲は『新世紀エヴァンゲリオン』の旧劇場版の挿入歌で、鷺巣詩郎さんが作曲された「甘き死よ、来たれ」です。曲調自体は明るくて穏やかです。内容は「今まで人と関わってきたことは怖くて、幸せもあったけど消えて、辛くて悲しい。ごめんなさい。私が出来る方法は消えること。」という内容です。でも劇中のこの曲がかかってからの一連の場面は、不器用な人たち同士がすれ違って傷ついめどうしようもなくなって、破壊的だったり無責任な終わらせかたでサヨナラしてもいいじゃん!いいけど人と繋がるのって悪いことだけじゃなくない?今まで通り過ごす?それとも一歩踏み出してみる?っていう佳境の場面だと思うんです。当時の僕は一歩踏み出さない側の人間として(笑)、この曲の思考であり続けた時期があったので、失敗としていいかなと。

アナログな行動かもしれないけど、人とのやりとりってとても素敵なんじゃないか

 ── 逆に、これまでやり遂げた最大の成功をしたときの曲は何を?

勝山 SUPER BEAVERさんの「ありがとう」を流したいです。達成感を感じる時、自分1人でできることって大したことじゃないなって思うことがたくさんあって、そのときに一緒に手伝ってくれた人や関わってくれた人、そういう人たちがいたからこその成功なんだな、体験なんだなって、まず感謝したくなる。“ありがとう“という思いはキチンと伝えなきゃ伝わらない、伝えるからこそ築ける深い人間関係があるし、伝えたからこそ新しい景色を見られると思うんです。

 ── 話は逸れますが、ドラムサークルを始めたきっかけは?

勝山 演奏したり、させてもらってたときに、音楽を聴いてくれている人たちともっと距離が近かったらいいなと思ってたんです。当時、ドラムの師匠がドラムサークルの活動されていて付いて回ったときに、サークルに入ったみんなが演者であり観客である、あの距離感が僕にはよかった。音楽は人に見せるショーとしての芸術作品ですけど、コミュニケーションや社交のような日常生活に根ざしたものでもある。年齢や生まれ、性別も関係なく、みんなが同じスタートラインでコミュニケーションを始めて、みんなが納得できるゴールにたどり着く。アナログな行動かもしれないけど、そういう人とのやりとりってとても素敵なんじゃないかと。そういう体験を基にした上での、社会とかコミュニティってよくない?って思ったら情熱が止まらなくなっちゃって、僕もこの体験を世界を広げたいと感じました。

 ── 戻りまして、今すぐ聴きたい今日は何でしょうか?

勝山 『おかあさんといっしょ』で、坂田おさむお兄さんが歌っていた「シアワセ」です。

この曲は機嫌がいいときも機嫌が悪いときもいつだって聴きたい。

 ── それだけ印象深い?

勝山 僕、歌詞に注目するのが好きなんです。この曲は子供向けの歌なので難しいことは言ってない。幸せってなんだろうね?っていう投げかけで、幸せっていう概念を子供たちに教える、伝える曲。最終的に「幸せって言ってると幸せになる、素敵な言葉を覚えたね、それは幸せだね」っていう歌詞があって、大人になっても目の前にある幸せを感じて、今日1日良かったなって思えるのって豊かだと思います。それは気持ちの方向転換をできるきっかけにもなる。メッセージとしては本当にシンプルなものですけど、日々の幸せを改めて整理してみようかっていうのを聴くだけで立ち返らせてくれる曲。「シアワセ」はいつも聴きたいと思います。

いつかこの曲が僕にとっての、“だった曲”になったらいい

 ── さて、次に人生で最も耳にした曲は?

勝山 自分が何となく耳にしてしまう曲はクイーンの「SOMEBODY TO LOVE」。これも父のコレクションのひとつでした。テーマは「誰が僕を愛してくれる?」っていうところだと思うんです。僕、ネガティブな曲を聞き続けてるってあまりよくないと思っていた時期がありました。でもあるとき思ったのが、寂しい曲に寄り添ってもらえたことに当時は救われていたし、いつかこの曲が僕にとっての、“だった曲”になったらいいな。そう思えたら世界が豊かになりました。

「自分は幸福を当たり前に受け取るに値しない」と思う人の中には「幸せが当たり前にあると、この気持ちを忘れて、辛い気持ちを抱える人に寄り添えなくなる」と感じている人もいると考えることがあります。僕はそうでした(笑)。ネガティブな曲や寂しい曲は当時の気持ちやそこから変わった今を繋げてくれるタイムカプセルにもなる。だからこの曲が流れると、耳が向いてしまいます。傷ついた人にも共感できるから、ゆったりと目の前の穏やかなシアワセを味わっていいんだなと緊張がほぐれるような気持ちになります。

 ── 次、大事な人にあげたい曲は?

勝山 坂本九さんの「心の瞳で」。歌い出しは、“心の瞳で君を見つめれば、愛すること、それがどんなことだか、分かりかけてきた“。「分かりかけてきた」って表現!(笑)。人間の言語化しきれないけど、確かにある温かさというものを伝える曲としてすごくいいなって思います。この感触は僕のいろんな大事な人たちに自分が伝えたいことでもありますが、それって言葉じゃ伝えきれないから、この曲を届けたいと思います。

 ── いよいよ勝山さんの映画で、自分が死ぬシーンはどんな曲を流したいでしょうか?

勝山 日本で一番好きなバンド、THE BACK HORNの「世界中に花束を」。今日のテーマも、全部THE BACK HORNにしないためにはどうしたらいいかってぐらいにこのバンドが好き(笑)。この曲が注目を浴びたのは3.11の被災があったときに改めてバンドで演奏したのがきっかけ。あのときの“もう日本は駄目なんじゃないか”みたいな空気感がある中で、彼らが、“世界中に花束を、太陽が昇るその前に。幸せや笑顔、喜びに隠されてしまう、その前に”って歌ってるんです。ここまでお話しさせてもらって自分自身が分かってきたんですけど、僕のこの映画を通して伝えたいことって、色んな事を辿ってきたからある幸せや今ここにある幸せに注目しようってこと。目の前にある悲しいことだけじゃなく、これから来る幸せに埋もれる前に。自分が死んだときに、周りにいてくれる人たちには、“勝山に会って、こんなことがあって楽しかった”ってたくさん思い返してほしい。僕と関わったなかに暖かいものがあったなら、味わって思い返して反芻して、それを新たに他の人たちに花束みたいに渡してくれたらいい。そんなメッセージをシーンに込めたいです。

 ── 最後にエンドロールにはどんな曲を?

勝山 5歳上の姉がいる影響もあって自分の世代よりも前のゲームをする機会がよくあったんですが、その中に糸井重里さんがシナリオを書かれてる『MOTHER』というがあります。そのゲームの根幹になる曲で鈴木慶一さんが作曲された「エイト・メロディーズ」をエンドロールに流したいです。

 ── 思い入れがある曲?

勝山 そうですね。音楽って枠組みの外に行っちゃうんですけど、『MOTHER』のゲームに出てくる脇役たちは、ちょっと面白い一言を言ったり、ハッとさせるような一言を言ったりします。大筋ではなくて、ちょっと端に行ったときに、この言葉面白いな、何か身にしみるな、みたいな言葉が隠れてる、そういう世界観のゲームなんです。強烈に影響を受けたものだけじゃなく、この言葉誰が言ってた? この内容どこで読んだ? この感覚や哲学は誰が教えてくれた?……そういう、些細な事柄が案外、人生を楽しくさせてくれているんだと感じさせてくれました。そういう世界観が詰まった「エイト・メロディーズ」が僕の映画のエンドロールにはふさわしいかな。僕の人生を見た人がいたとして、この物語を通してその人の世界が豊かになったり、ワクワクするスパイスになれたらいいなと思っています。

勝山桂介 X

INTERVIEW & TEXT & PHOTO : VETHEL

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