[連載:ROCKを学ぶ]1970年代:ハードロックとパンクの台頭

歪んだギターの音が鳴り響いた瞬間から、ロックはただの音楽ではなくなった。1950年代、ロックンロールという衝動が生まれ、若者たちの心に火をつけた。それは時代の波にもまれながら、怒りや希望、愛や絶望を叫び続けてきた。反逆の60年代、熱狂と混沌の70年代、華やかに咲き乱れた80年代、内省と葛藤の90年代——そして、新しい時代の荒野を駆け抜ける2000年代以降。ロックは形を変えても、その魂は今も燃え続けている。この音が鳴り止むことはない。時代とともに揺れ動いたロックの軌跡を、ここに辿ろう。


1970年代は、ロックがさらに多様化し、巨大なムーブメントを生み出した時代である。その中でも特に重要なのが、ハードロックとパンクの台頭だ。これらのジャンルは、それぞれ異なるアプローチでロックの進化を促し、以降の音楽シーンに多大な影響を与えた。

ハードロックの進化と拡大

1960年代後半、ロックはより激しく、力強い音へと進化し始めた。この流れを受け継ぎ、1970年代にはハードロックというジャンルが確立される。ハードロックは、ブルースを基盤としながらも、より歪んだギターサウンド、パワフルなボーカル、大胆なドラムプレイを特徴とした。さらに、ライブパフォーマンスの規模も拡大し、ロックバンドがスタジアムを埋め尽くすようになった。

代表的なハードロックバンドを挙げると、まずレッド・ツェッペリンが思い浮かぶ。彼らの楽曲「移民の歌」や「天国への階段」は、ギターリフの斬新さと壮大な構成で、ロックの可能性を押し広げた。また、ディープ・パープルは、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のような印象的なギターリフを生み出し、後のヘヴィメタルにも大きな影響を与えた。

一方、ブラック・サバスは、さらに暗く重厚なサウンドを追求し、後のヘヴィメタルの基礎を築いた。「パラノイド」や「アイアンマン」などは、その象徴的な楽曲である。ハードロックの中でも特に激しいサウンドを追求するバンドが増え、これがのちにヘヴィメタルへと発展していくことになる。

また、クイーンやエアロスミスのように、派手なパフォーマンスと多彩な楽曲で人気を博したバンドも登場。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」やエアロスミスの「ドリーム・オン」などは、ハードロックの枠を超えて広く支持された。

パンクロックの誕生と反逆精神

一方で、1970年代の中盤になると、ロックの巨大化に対する反発から生まれたのがパンクロックである。ハードロックやプログレッシブ・ロックが演奏技術や楽曲の複雑さを追求するのに対し、パンクは「シンプルでストレートな音楽こそがロックの本質だ」という精神を持っていた。

パンクロックは、速いビート、荒々しいギター、反抗的な歌詞を特徴とし、何よりもDIY(Do It Yourself)の精神が根付いていた。ギターやベースの演奏技術が未熟でも、自分たちでバンドを結成し、音楽を発信することを重視した。

セックス・ピストルズは、その象徴的なバンドであり、1977年のアルバム『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』は、パンクの代名詞ともいえる。彼らの「アナーキー・イン・ザ・U.K.」や「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」は、社会や体制への怒りをストレートに表現し、イギリスの若者たちの共感を呼んだ。

また、アメリカではラモーンズがパンクの原点を築いた。彼らの楽曲は極端にシンプルで、2分以内の短い曲が中心だった。「ブリッツクリーグ・バップ」などは、勢いとキャッチーさが融合した典型的なパンクソングである。

クラッシュは、セックス・ピストルズよりも政治的な視点を持ち、パンクをより知的かつ多様な音楽へと発展させた。彼らの「ロンドン・コーリング」は、レゲエやロックンロールの要素も取り入れ、後のオルタナティブ・ロックにも影響を与えた。

ハードロックとパンクの対立と融合

ハードロックとパンクは、基本的に相反する価値観を持っていた。ハードロックが技術と壮大なスケールを重視するのに対し、パンクはシンプルで直接的な表現を求めた。そのため、当時は両者の間に対立が生じることもあった。

しかし、1980年代以降になると、これらの要素が融合し、パンクの攻撃性を持ちながら、ハードロックのパワーを取り入れた音楽が生まれることになる。たとえば、ガンズ・アンド・ローゼズは、ハードロックのギタープレイとパンクのエネルギーを融合させたバンドであり、「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」などで一世を風靡した。

さらに、90年代にはグランジ(ニルヴァーナなど)が登場し、パンクとハードロックの融合がより進んでいくことになる。

まとめ

1970年代は、ロックが大規模なエンターテイメントとして成長したハードロックと、反骨精神を前面に押し出したパンクロックの二極化が進んだ時代だった。ハードロックはその後、ヘヴィメタルへと進化し、パンクはオルタナティブ・ロックやポストパンクへと枝分かれしていった。これらの流れが、現在のロックシーンにまで続いている。この時代の音楽は、「ロックの多様性」と「反抗のエネルギー」を象徴するものであり、今もなお世界中のアーティストに影響を与え続けている。

Jiro Soundwave:ジャンルレスな昨今、あえてジャンルを知っておきたい音楽ライター。励ましのお便りは郵便で編集部まで

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