
アートと社会をつなぐ線──その可能性を立体表現へと拡張したキース・ヘリングの挑戦に、改めて光を当てる展覧会が開かれる。山梨県北杜市の中村キース・ヘリング美術館では、2025年6月7日より、彫刻作品にフォーカスした展覧会「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」がスタートする。会期はおよそ1年間、2026年5月17日までのロングランでの開催である。
「線」が「彫刻」になるとき──全13点を一挙公開
1980年代のアメリカ美術を象徴する存在として知られるキース・ヘリング。だがその評価は、地下鉄構内に描いた「サブウェイ・ドローイング」や、ダイナミックな壁画作品にとどまりがちであった。本展は、そんな彼の“彫刻家”としての側面に注目する初の試みである。
なかでもハイライトとなるのは、今回新たに収蔵された全長5メートルを超える大型彫刻《無題(アーチ状の黄色いフィギュア)》。この作品を中心に、館所蔵の全13点の彫刻が屋内外に展示される。都市や自然に調和するよう設計されたこれらの彫刻は、線を立体化することで、人と人、人と空間をつなぐ「アーチ」としての機能を果たしている。
永続性へのまなざし──「不死性」を彫刻に託したヘリング
ヘリングが彫刻に取り組み始めたのは1985年。きっかけは、ギャラリストのトニー・シャフラジからの「君のアルファベットを風景に置いてみたらどうだ」という提案であった。以降、米国やドイツで制作を重ね、鋼鉄やアルミニウムによる彫刻作品を生み出していく。
「絵画は幻想の一部だが、彫刻は現実であり、崩れれば人を殺すかもしれない」。そう語ったヘリングは、彫刻にこそ“恒久性”──そして“不死性”を見出していたという。生涯を通じて「誰にでも届く視覚言語」を模索したヘリングにとって、彫刻はその集大成であり、未来へのメッセージでもあった。

光で蘇る80年代──蛍光塗料作品の特別ライトアップ
本展では彫刻に加え、1983年に蛍光塗料で制作されたペインティング《無題》や版画作品《無題》も登場。会期中の土日祝の13:00〜14:00限定でブラックライトによる特別ライトアップが実施され、ヘリングが活動した80年代のサイケデリックな空気感が再現される。視覚的なインパクトだけでなく、彼の色彩表現の実験精神を体感できる貴重な機会となるだろう。

建築家・北川原温の初個展も同時開催
また会期中は、美術館の設計を手がけた建築家・北川原温の初個展「北川原温 時間と空間の星座」も同時開催される。創作の源を「星」、建築を「星座」と見立て、その方法論と生成のプロセスに迫る内容となっている。
会場限定ブックレットも販売
展示作品の理解をより深めるための会場限定ブックレット(24ページ/A5判/500円)も販売予定。1983年制作の蛍光ペインティングを表紙に配し、ヘリングの言葉や作品解説とともに、その哲学と造形美を凝縮した一冊に仕上がっている。

展覧会情報
- 会期|2025年6月7日(土)〜2026年5月17日(日)
- 会場|中村キース・ヘリング美術館(山梨県北杜市小淵沢町10249-7)
- 時間|9:00〜17:00(最終入館16:30)
- 観覧料|大人:1,500円/学生(16歳以上):800円/障がい者:600円/15歳以下無料
- 休館日|定期休館日なし(臨時休館あり、要Web確認)
- Web|https://www.nakamura-haring.com/exhibition/14550
彫刻という“実体”を通して、キース・ヘリングが描いた未来のかたち。本展は、彼の芸術に新たな視座を与えてくれるに違いない。
